「倍返し」「じつに面白い」「じぇじぇじぇ」あのセリフが生まれて平成ドラマは変わった

4月27日(土)6時0分 文春オンライン

「同情するなら金をくれ!」とツインテールで叫んだ安達祐実も今やすっかり大人の女優。「僕は死にましぇん!」と、トラックの前に飛び出した武田鉄矢は善人からクソ野郎までこなす性格俳優として活躍中ですし、「そこに愛はあるのかい?」のあんちゃんこと江口洋介もロン毛をバッサリ切ってスーツをキメるイケおじの立ち位置に。


ドラマ『半沢直樹』の新しさがヒットドラマを生み出した


 平成の民放ドラマを最高視聴率で切り取ってみると、トップは2013年(平成25年)にオンエアされた『半沢直樹』(TBS)。銀行内部の人間模様を描いたこの作品は、最終回で42.2%(ビデオリサーチ調べ)という驚異の数字を叩きだしました。


 ドラマ『半沢直樹』での名ゼリフといえば、堺雅人演じる主人公・半沢直樹の「倍返しだ!」。



主人公・半沢直樹を演じた堺雅人 ©文藝春秋


 汚い手を使って自分や同僚たちを苦しめ貶めてきた大和田常務(香川照之)に、取締役たちの前で半沢が土下座を促し、大和田……というか、香川照之が顔芸満載の芝居で頭を床につける場面では、テレビの前のビジネスマンたちが半沢に自らの姿を重ね、勝利の雄たけびをあげたとか。


『半沢直樹』の新しさは、「水戸黄門的な“お約束”を大真面目にやったこと」。


 勧善懲悪、悪い奴は悪い、最後はガツン!とカタルシス。ミステリーも恋愛要素もスルーし、テーマを「大逆転劇」に特化した作風は、それまで日曜の夜にドラマを観なかったビジネスマンのハートをがっちり掴みました。


 これに活路を見出したTBSは、日曜劇場(日曜21時〜)をそれまでの「ホームドラマ」主体から「男たちのお仕事ドラマ」メイン枠へとシフトし、『半沢直樹』と同じく池井戸潤原作の『下町ロケット』シリーズや『ルーズヴェルト・ゲーム』、『陸王』などのヒットドラマを次々と送り出します。







香川照之に続け! 吉川晃司もスーツ姿で田んぼ刈り


 この一連の流れが平成のドラマ界にもたらした影響のひとつが「おじさん俳優たちの再活躍」。


 特に日曜劇場の枠では、香川照之の顔芸に負けじと阿部寛、唐沢寿明、役所広司らが芯として濃い演技を見せつけ、それに吉川晃司、安田顕、立川談春、石丸幹二、高橋和也、滝藤賢一、光石研、寺尾聰らがさらに濃い芝居で応えるという、カオスを生み出す様相に。


 カオスと言えば、『下町ロケット』で、吉川晃司演じる帝国重工・財前部長がスーツ姿で田んぼの稲刈りを始めた時はヤバかったですね……スーツて。



「朝ドラ」の復活と、あの名作の誕生


 そして、平成のドラマシーンで忘れてならないのが「朝ドラの復権」。


 NHKは2010年(平成22年)に放送された『ゲゲゲの女房』より、それまで朝8時15分スタートだった朝ドラを15分早めて朝8時からの放送開始に変更。


 この放送時間の前倒しが起爆剤となり、2000年代に一時期視聴率が落ち込んだ朝ドラが再び盛り上がります。『ゲゲゲの女房』(2010年)、『おひさま』(2011年)で次第に視聴者を呼び戻し、『カーネーション』(2011年)、『梅ちゃん先生』(2012年)で朝ドラ熱が固定化。


 その熱を受け、抜群のタイミングで誕生したのが『あまちゃん』(2013年)です。



 長らく中高年の主婦層がメインターゲットだった朝ドラに男性を含む若い視聴者を呼び込んだ『あまちゃん』。SNSの拡がりと相まって、この頃から視聴後の感想をツイッターでつぶやく人が増え、朝ドラの考察記事がネットで多く見られるようにもなりました。


グレた少女に小泉今日子が放った名ゼリフが忘れられない


 朝ドラの方向性を変えたと言っても過言ではない『あまちゃん』ですが、名ゼリフとして一番に挙がるのが、2013年(平成25年)の流行語大賞にもなった「じぇじぇじぇ」。主人公・アキ(能年玲奈)が暮らす岩手県・北三陸の袖が浜周辺で使われているこの言葉はドラマ内でも多用されています。


 ただ『あまちゃん』オンエア当時、「じぇじぇじぇ」を実際に使っている人は周囲にいなかった気も。個人的には漁協の事務・花巻さん(伊勢志摩)がフレディ・マーキューリーのコスプレでつぶやく「わかるヤツだけわかればいい」や元スケバン、アキの母・春子(小泉今日子)がグレてしまったユイ(橋本愛)に語る「ナポリタンはアバズレの食いもんだよ」をプッシュしたいところ。




「月9」の王道を打ち破ったのは変人の天才物理学者


 さまざまなトレンドを生み出し、一時はドラマ界を牽引していたフジテレビ月曜21時の「月9」。「月9」といえば数々の王道恋愛ドラマを送りだした枠ですが、その流れが変わったのは2007年(平成19年)に第1作目がオンエアされた『ガリレオ』から。


 福山雅治演じる変人の天才物理学者・湯川学が「じつに面白い」と決めゼリフをつぶやき、科学と論理的考察とで事件を解決する東野圭吾原作のミステリー。このドラマが平均視聴率21.9%(ビデオリサーチ調べ)を記録したのをきっかけに、「月9」は次第に王道恋愛ドラマから医療モノやミステリー、法律コメディ等にも舵を切るようになります。



『ガリレオ』は平成の王道恋愛ドラマが終わりの始まりを迎えるきっかけを作った作品でした。


 と、これまで最高視聴率、朝ドラ、月9の変化と3つの切り口で平成ドラマの名ゼリフについて書いてきましたが、じつは私が一番推したい平成の名ゼリフは別にあるのです。


変幻自在の6文字「ちょ、待てよ」は奇跡すぎる名ゼリフ


 彼が初めてこのせりふを口にしたのは1997年(平成9年)オンエアの『ラブ ジェネレーション』だと言われていますが、その後も平均視聴率34.2%(ビデオリサーチ調べ)を叩きだした『HERO』や同じく月9の『プライド』、最終回で大ドンデン返しをみせた『眠れる森』、コメディ要素も入ったラブストーリー『GOOD LUCK!!』など、多くの……というか、ほぼすべての主演作で彼……木村拓哉はさまざまなバージョンの「ちょ、待てよ」を繰り出しました。



「ちょ、待てよ」の真意活用法=「行くな」「まだ終わってない」「ふざけるな」「電話、切るなよ」「いい加減にしろ」「最悪」「お前しかいない」「一緒にいたい」「愛してる」etcetc……。


 平成のドラマ史上、ひとりの俳優が違う作品、違うシチュエーション、違う役柄で同じせりふを喋り、それがその俳優のある種の“代名詞”ともなった例は他にありません。


 ドラマは時代を映す鏡。バブルがはじけ、誰もが世界とつながるツールを手にして若い世代がテレビを見なくなったと言われる平成で、長きに渡って視聴者の心をとらえ続けた変幻自在の6文字「ちょ、待てよ」。これは脚本家でなく、俳優みずからが生み出した奇跡の名ゼリフです。


 というか、そろそろどこか作ってくれませんか? 残りひとつのりんごに同時に手を伸ばしたふたりが恋に落ちる、なんて超ベタできゅんきゅんする恋愛ドラマを。刑事も弁護士も医師も、少々飽和状態だと思うのですが。



(上村 由紀子)

文春オンライン

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