『べらぼう』<蔦重を生きる>横浜流星。小芝風花は「吉原の女性像すべて表現してくれた」演出担当が語る非情な森下脚本の今後、瀬川の次のヒロインは…

2025年4月27日(日)20時45分 婦人公論.jp


横浜流星(『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』/(c)NHK)

江戸のメディア王として、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。第16回では、「書をもって世を耕す」という意味を込めて「耕書堂」という名前を蔦重に授けてくれた平賀源内(安田顕)が獄死した。蔦重は源内の思いを伝えていくことを決意。「第一章完結」ともいえる内容だった。今後、蔦重は江戸の中心地・日本橋へ進出していくことになる。チーフ演出を務めるNHKの大原拓さんに、制作の舞台裏とこれからの見どころを聞いた。(取材・文:婦人公論.jp編集部)

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「蔦重を生きる」横浜流星


蔦重役の横浜流星はNHK初出演にして大河の主演。源内をはじめ、周囲の人を巻き込む明るさと笑顔が印象的だ。

「横浜さんは笑顔が素敵です。見ると元気になる。にっこりなのか、柔く微笑んでいるのか、それとも破顔しているのか、いろんな笑顔がありますが、蔦重はやっぱり破顔してもらいたい。そういった意味で横浜さんの破顔している笑顔を見ると、とっても素敵だと感じています」

横浜の自然な演技によって、蔦重の成長が伝わってきた。女性の気持ちに鈍い幼さもあったが、幼馴染で花魁の瀬川(小芝風花)への思いに気づいてからは「男らしい精悍さ」を感じさせた。目の演技も印象的だった。源内を失い、田沼意次(渡辺謙)に激昂するシーンでは、感情をむき出しに怒りに震えながら涙を見せた。源内の墓前で須原屋と語り合ったのち、耕書堂の意味を伝えていくことを決意したシーンでは、穏やかな表情でありながらその瞳には次に進むための意思が確かに宿っていた。

「役への入り方が、とても繊細でありつつ、大胆。蔦重だったらどう生きて、どう動いているのか、どう喋るのか、森下さんが書いた台本の余白部分をちゃんと考えてくれている。 だからより立体的になる。アプローチの仕方がとても魅力的です。『役に生きる』ってよくおっしゃっていますが、横浜流星を出さない。まるで白いキャンバスです。相手によって色を変えるし、何色にでもなる。どんなものにもなっていくという魅力があります」

横浜のアプローチの仕方で印象に残っているのが第10回だという。鳥山検校への身請けが決まった瀬川のもとを蔦重が訪れる。瀬川の絵姿も描かれた「青楼美人合姿鏡」を渡しに来たのだ。

「瀬川の部屋で、蔦重がセリフを外に向かって大声で言うんです。ちゃんと向き合って伝えるイメージでしたが、蔦重が外に向かって言うことで、最後のいちばん伝えたいことが伝わるし強弱が出る。おもしろいなって感じました。そのセリフを言うためにはどんなアプローチをするのか。ほかのやり方で表現してほしいというとさらにやってくれる。何か足りていないと思ったらクリアしようとする。そこが横浜さんの魅力に感じました」

近距離で絵を見せる


劇中には、「青本」「黄表紙」など江戸時代ならではの書物が登場する。絵師が描く絵もドラマを彩る重要な要素だ。

「本はなるべくわかりやすく見せると同時に想像してもらうということも大事にしています。ドラマは視聴者のものですから。今回は、絵のパートでは特殊なレンズを使っています。たとえば第3回の北尾重政が絵を描いているシーンは、(筆を握る)手元から顔をそのまま撮っています。虫を撮影するときなどに使うレンズで撮影しました。絵には遠目で見る良さと近くで見る良さ、両面ありますが、遠目で撮ることは普通にできるので、いかに近くで撮るか。それが浮世絵とか絵のパートでの面白い部分になるといいなと考えています」


瀬川(『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』/(c)NHK)

華やかな花魁たちの姿だけでなく吉原の暗部も描いてきた。第1回では、亡くなった女郎たちが着物をはぎ取られ、寺に打ち捨てられた場面が強烈なインパクトを残した。第8回では、客が押し寄せ疲れ切った瀬川のリアルな描写が話題を呼んだ。

「吉原の陽と陰を意識しました。(吉原の女郎は)20歳そこそこが平均寿命。調べるほどに過酷な現実がありました。華やかな部分ではないところも目を背けずに描かないといけないというのが、スタッフ全員の総意です。ただ、苦しいことつらいことは、『吉原だから』というだけではなくて、どこの社会でもいつの時代でもある。より吉原はきついのかもしれないですけども、つらさはその人にしかわからない。組織も社会も全てその人にとってどうであるのかが全て。吉原の見え方がステレオタイプにならないようにしたいと思っています」

次のヒロインは


吉原で生きる女の悲しみと強さを見事に表現したのが瀬川役の小芝だ。まっすぐな性格で気が強いが、一方で女郎の悲哀も感じさせる。思いを寄せる蔦重とのやりとりでは、ふとした瞬間に恋する女性のかわいらしさを見せる。

「小芝さんは恋愛も含めて、吉原の女性像を全て表現していただきました。彼女が出てくることによって、画面が華やぐだけではなくて引き締まって、ちゃんとまとまる。瀬川の大きな存在感があるからこそ、蔦重がちゃんと見えてくる。1人だったら見えないものが、同士がいたり、ソウルメイトがいたり、ともに歩んできた仲間がいる、唯一無二の存在がいることによって、蔦重という確固たるベースができる。そういったものが生まれたのは小芝さんのおかげだと思っています」

身請けしてくれた鳥山検校と離縁したが、蔦重のことを思い一緒になるのをあきらめて姿を消した瀬川。序盤での存在感は大きかったが、今後のヒロインともいえるのが、吉原の花魁、誰袖(たがそで、福原遥)と、市中の本屋の娘でのちに蔦重の妻となる、てい(橋本愛)だ。


誰袖役の福原遥(『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』/(c)NHK)

「誰袖とていが大きく関わってきます。2人とも瀬川とは全く違うアプローチですので、そこを楽しんでもらえたら。蔦重は基本的に女性の気持ちがわからない設定なので、そこは全く変わりません。人間そんなに変わらないので、そういう要素も楽しんでいただけるといいなと思っています」

森下脚本の魅力


脚本の森下佳子は、大河ドラマは『おんな城主直虎』に続き2作目。朝ドラ経験もあるベテランだ。


花嫁姿の瀬川の花魁道中(『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』/(c)NHK)

「森下さんの脚本は、面白くてどういうイメージなのか絵にしやすい。そして、余白がある。『演者に任せています』『監督に任せています』という部分をくださっている。それが、みなさんがキャラクターを生き生きと演じてくださっている大きな要因だと思っています。例えば、自分が演出を担当した第10回の花嫁姿の瀬川の花魁道中。どういうシチュエーションなのか、道中だから『歩いている』としか(台本に)書いていないわけです。具体的にするのが我々の仕事。ともに作らせていただいている感じがすごくする作家さんです」

蔦重と夫婦になるかと思いきや、吉原を去った瀬川。だまされ、孤独に陥った末に、獄死した源内。人物の繊細な心理描写とともに、非情な展開も容赦なく描くことから、SNSでも脚本の評価は高い。

「『森下さんの地獄』とX上でもつぶやかれているように、『このままでは終わらない(展開)』というのがありますよね。『ああ、そっちに行かないで』というX上の声が多々ありますけど、『それが森下さん』っていうことになる世界は今後もあります」

吉原だけでなく


吉原再興を目指していた蔦重は、今後は日本橋に進出。江戸随一の版元となっていく。

「源内の授けた『耕書堂』という言葉にあるように、書を世に広めていかなければいけないという思いが強くなっていきます。日本橋に出る理由は、多くの人が集まるから。地方の人々も商人たちも日本橋に来て仕入れる。だからこそ、日本橋で本屋を出し、そこで広めていく。

それが最終的には地方のいろんな人々の心の娯楽になります。どちらかというと吉原だけではなく、もう少し広がって、人々のためとなっていきます。

第16回ぐらいまでが「少年期」という感じで捉えています。それ以降が壮年期。蔦重は一途で結構子供っぽい要素があります。いろいろな人と出会って関わることによって、彼が本当にやっていかなくちゃいけないものをどんどん伝えていく 全てのベースは『書で世に伝えていく』という思いです。

本はある種の娯楽。今後は、娯楽とは何なのかを考えていくことになる。蔦重がどう変化していくのか、変化していかないのか、そういった部分も見どころになっていくと思っています」

婦人公論.jp

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