『べらぼう』平賀源内への襲撃シーンに視聴者最注目 第16話画面注視データを分析
2025年4月27日(日)6時0分 マイナビニュース
●幻覚を見るようになっていた源内
テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、20日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(総合 毎週日曜20:00〜ほか)の第16話「さらば源内、見立は蓬莱」の視聴分析をまとめた。
○血塗られた刀と変わり果てた久五郎の姿
最も注目されたのは20時23分で、注目度69.6%。いわくつきの自宅で錯乱した平賀源内(安田顕)が背後から襲われるシーンだ。
源内は正気ではなかった。久五郎(齊藤友暁)が持ってくる煙草に手を付けるようになってから、次第に幻覚を見るようになった。源内は真夜中、弥七(片桐仁)に持ち去られた図面を探そうと、不吉の家と呼ばれるおのれの住処を徘徊した。そこに丈右衛門(矢野聖人)を見送りに外に出た久五郎が戻ってきたが、源内には久五郎が弥七に見えた。弥七は源内の評判を地に落とした張本人である。源内はエレキテルの図面を返せと久五郎に詰め寄ると、突如背後から何者かに刀で打ち据えられ、その場に崩れ落ち気を失った。源内を襲ったのは帰ったはずの丈右衛門だった。
「いい具合に効きましたねぇ。話も煙草も」「正気であるとは思えんな」源内の奇行の数々は、久五郎と丈右衛門の2人が仕組んだものらしい。「あとは自害にみせかけるだけにございますねぇ」久五郎がそう口にした瞬間、丈右衛門は久五郎を斬り捨てた。「すまぬなぁ。そろそろそなたも始末せよとの命でな」死体となった久五郎に丈右衛門は冷たく言い放つ。翌朝、気が付いた源内が目にしたのは血塗られた刀と変わり果てた姿の久五郎だった。「ああー!」昨夜の真相を知る由もない源内の絶叫はむなしく屋敷中に響いた。
○今作でも1、2を争う鬱展開にコメント続出
注目された理由は、源内の身に降りかかる災禍に、視聴者の視線が「くぎづけ」になったと考えられる。
エレキテルの不評から長屋を追い出された源内に手を差し伸べた久五郎と丈右衛門だが、2人の真の狙いは源内を排除することだった。優れた本草学者である源内だが、よほど追い詰められていたのか、久五郎に勧められるがまま怪しい煙草を吸いつづけ、とうとう幻聴が聞こえるまでに症状は悪化してしまった。そして久五郎も捨て駒でしかなく、あっさり丈右衛門に斬られる。
SNSでは、「明るかった源内先生があそこまで追いつめられるなんて…」「源内先生が生きてるとそこまで都合が悪いのかな」「穏やかな口調で源内さんを追いつめ、あっさり久五郎を斬った丈右衛門が底知れない感じで怖い」といった、今作でも1、2を争う鬱展開に視聴者のコメントが集まった。
物語では源内は久五郎と丈右衛門の2人と知り合ったばかりだったが、史実では久五郎は源内の門人であり、丈右衛門は仲の良い友人だったようだ。1779(安永8)年、神田の源内宅で3人は過ごしていたが、明け方に口論となり源内が抜刀したと言われている。2人は手傷を負い、久五郎はこの傷がもとで死去。源内は殺人犯として連行される。また、物語のように武家屋敷の普請の依頼を受けた源内が、酒に酔って修理の図面を盗まれたと勘違いして大工の棟梁を斬り殺したという説もある。いずれにせよ、源内が刀を抜いたというのは事実のようだ。
久五郎が用意した煙草だが、おそらくアヘンだと思われる。アヘンは材料のケシの種が室町時代に南蛮貿易によってインドから津軽地方にもたらされ、江戸時代には山梨県、和歌山県、大阪府付近などで栽培されていたようだ。しかし少量かつ高価であり、麻酔などの医療用や投獄者への自白剤など用途は限られていた。本件の黒幕はそんな高価なアヘンを惜しみなく使うことができる有力者であると推察されるが、やはり御三卿のあのお方なのだろうか。
●田沼意次、お忍びで獄中の源内の元へ
2番目に注目されたのは20時27分で、注目度69.4%。田沼意次(渡辺謙)が密かに獄中の平賀源内に会いに来たシーンだ。
「源内。俺だ。意次だ」獄中で震える源内のもとへ意次がやってきた。源内が人を斬ったと聞きつけた意次は、供も付けずに1人でやってきたようだ。何があったのか意次は源内に問いただす。
源内は記憶をたどって一部始終を意次に説明するが、その内容は意次には合点がいかぬ部分が多かった。意次には源内の言う屋敷の普請話も、その窓口となった丈右衛門という男も知らなかった。この件には何か裏があると感じた意次は、さらに源内から詳しく話を聞き出そうとするが、源内は意次の反応を見て、自分が罠にはめられたのだと気が付く。
「いなかったのかも知れません。そんな男はいなかったのかも」と言う源内を意次は懸命に励ます。「俺ゃもう何が夢で何がうつつだか…」意次は弱々しくうなだれる源内の手を格子越しに握ると自分の頬にあてがった。「夢ではない。俺はここにいる。源内。意次はここにおる」意次は今にも壊れてしまいそうな源内の意識を、必死で留めようとひたすらに声をかけ続けた。
○「本当にいいバディだったのになぁ」
このシーンは、源内と意次の人間関係と安田顕の圧倒的な演技に、視聴者の注目が集まったと考えられる。
煙草の影響で自身の記憶は曖昧となり、置かれている状況を冷静に判断できなくなっている源内を、意次は見捨てることなく牢まで会いに来た。源内は幻と現実の見分けもつかない危うい状態だったが、意次はそんな源内に声をかけ続け牢越しに抱きしめる。
SNSでは、「喧嘩別れみたいになってた和解がこんなかたちになるのはつらい…」「意次さまと源内さん、本当にいいバディだったのになぁ」「意次さまと源内先生の格子越しの会話はお互い本心なのに、すれ違ったままなの切なすぎる」と、2人のやり取りに胸を痛めた視聴者からコメントが寄せられた。
源内の冤罪を晴らそうとした意次だが、息子である田沼意知(宮沢氷魚)の進言で非情な決断を下すことになった。史実でも獄中で死亡したとされる源内だが、その死因としてもっとも有力なのが破傷風による病死だ。破傷風は、土壌に広く存在する破傷風菌が、主に傷口から体内に侵入することで感染する。人から人へ直接感染することはない。源内は刃傷沙汰を起こし投獄されたから、手傷を負っていた可能性は十分にある。破傷風の処置には傷口を清潔に保つことが必要だが、当時の劣悪な牢の環境ではそれもかなわなかっただろう。破傷風の致死率は現代でも無治療の場合、成人で15〜60%。江戸時代ならもっと高かっただろう。
非業の死を遂げた源内だが、実は生存説もささやかれている。表向きは獄中死として処理され、故郷である高松藩に匿(かくま)われた説。そして意次によってその領国である遠江・相良(現在の静岡県牧之原市)に逃がされたという説だ。
個人的には源内は意次によって生かされていると考えている。その前提で今回の放送を見返してみると、随所にそれらしき演出が折り込まれているように感じた。源内の遺体は誰も見ていないことをわざわざ蔦重(横浜流星)にしゃべらせるなど、後々に元気な源内が姿を見せる伏線であれば良いのだが。
今回、源内のきな臭い晩年の様子を見事に演じきった安田顕には、「安田顕の演技が最高だったし、内容も史実との絡め方が絶妙でしびれた」「涙や鼻水ダラダラで発狂する安田源内さんほんとにすごかった」「安田さんの演技、孤独感がひしひしと伝わってくる」と、称賛が集まっている。今回は名バイプレイヤー・安田顕の独壇場だった。
●蔦重、田沼を罵倒「この忘八が!」
3番目に注目されたシーンは20時36分で、注目度68.9%。蔦重が田沼意次を「忘八」と罵倒するシーンだ。
平賀源内の殺人容疑を晴らすべく、蔦重は須原屋市兵衛(里見浩太朗)らとともに意次の屋敷を訪れていた。蔦重は源内に依頼した本の原稿が1枚を残し持ち去られていることを。市兵衛は源内が竹光しかもっていなかったことと、下戸であったことを理由に源内が犯人ではないと主張するが、意次の返答は歯切れが悪かった。蔦重は意次に考えを問うが、意次は今の源内ならやりかねないと答えた。
そこに田沼意知が衝撃的な知らせを持ってやってきた。「たった今知らせが参り、平賀源内が獄死したと」その場にいる全員に動揺が走る。大義であったと部屋から立ち去ろうとする意次に蔦重は食いかかった。「田沼様は、源内先生に死んでほしかったんじゃねえすか」荒ぶる蔦重を市兵衛や三浦庄司(原田泰造)がいさめるが、蔦重は止まらない。
「田沼様は源内先生に何か、まずいこと握られてたんじゃねえすか!」と詰め寄る蔦重に、「ありがた山、察しがいいな。俺と源内との間には漏れてまずい話など山ほどある! 何を口走るか分からぬ狐憑きは恐ろしいからな」と、意次は蔦重の言葉を否定しなかった。蔦重は怒りのこもった目で意次をにらみつけ、「忘八…この忘八が!」と、皆の前で意次を罵倒した。
○「これまで結構いい関係だったのになぁ」
ここは、斬り捨て覚悟の蔦重の暴言に、視聴者はヒヤヒヤしながら画面を注視したと考えられる。
源内の無実を訴え出た蔦重と市兵衛に、内心では源内の無実を確信している意次。しかし、意次は総合的判断で事態の早期収拾を図り、苦悩の末に冷徹な判断を下す。蔦重と政治の板挟みにあう渡辺謙の苦悶の表情が実に印象的だった。政治的責任のない蔦重には、意次が長年にわたって苦楽を共にした源内を裏切ったようにしか見えず感情が暴発。ついには現役の老中に「忘八」とまで言い放った。
SNSでは、「蔦重の口から発せられた意次への憎悪にまみれた『忘八が』がずっと頭に響いている」「蔦重と意次さま、これまで結構いい関係だったのになぁ」「蔦重、自分が慕ってる人のこととなると周りが見えなくなるから、須原屋さんが一緒にいてくれて良かった」と、暴走する蔦重にコメントが集まった。蔦重と意次が和解する日はやってくるのだろうか。
怒りのあまり意次を「忘八」となじった蔦重だが、この時代にこんな行動をとれば、最悪、斬り殺されても不思議ではない。武士には侮辱されたり、敬意のない行為を取られたりした際には、町人や農民を斬っても罪に問われない「斬捨御免」という特権がある。もっとも後に調査され、正当な理由がないと判断された場合には違法とされ、逆に「辻斬り」として処罰されることもあるが、今回の相手は幕府の大物である田沼意次。意次が寛容な人格者でなければ、『べらぼう』は4月末という第2クールの途中で終了の憂き目に遭っていたかもしれない。
蔦重が意次に証拠として提出した源内の遺稿に、「七ツ星の龍」と言う人物が出てきた。田沼家の家紋は「七曜」。そして意次の幼名は龍助。つまり源内が最後に書いた物語は、窮地に陥った意次を旧友である源内が助けるという内容だった。蔦重が手にしたのは冒頭の1枚のみで、他の原稿は後のシーンで焼かれていた。源内は「死の手袋」を題材に執筆したが、家基暗殺の首謀者から見れば相当に危険な内容だったのだろう。「忘れろ。それがお前のためでもある」という意次の言葉に源内が従っていれば、また違う結末を迎えることができたのかもしれない。
●蔦重とりつが訪れた芝居小屋に本村健太郎弁護士登場
第16話「さらば源内、見立は蓬莱」では、1779(安永8)年から1780年(安永9)年の様子が描かれた。
物語序盤より蔦重の強力な支援者として活躍してきた平賀源内だが、今回をもって退場となる。本草学者、地質学者、蘭学者、医者、殖産事業家、戯作者、浄瑠璃作者、俳人、蘭画家、発明家といった多くの肩書をもつ多才な源内だが、その生涯は波乱に満ちたものだった。
注目度トップ3以外の見どころとしては、死の手袋をめぐって意次と源内が対立した冒頭のシーンが挙げられる。暗殺事件に深入りすると、自分だけでなく十代将軍・徳川家治(眞島秀和)の身にも危険が及ぶと判断した意次は事件から手を引くことを決断した。しかし、あくまで真相究明にこだわる源内と意見が真っ向から対立。現在の境遇に不満をもつ源内のうっぷんが爆発し激しい口論になった。
SNSでは、「追いつめられていた源内さんには意次からの金が手切れ金に見えたんだろうな」「あれだけ仲の良かった意次さまと源内さんがすれ違うのは見ていてつらかった」「開幕からこんな重い展開になるなんて」と、2人の対立を悲しむ視聴者の投稿が寄せられた。
そして、蔦重とりつ(安達祐実)が訪れた芝居小屋の座元を演じた弁護士・本村健太郎も注目を集めた。大河ドラマは1998年『徳川慶喜』以来2度目の出演になる。人気バラエティ番組『行列のできる法律相談所』(日本テレビ)に出演して知名度を得た本村だが、東京大学在学中の1985年にはテレビドラマ『イッキ!イッキ!東大へ』(テレビ朝日)で俳優デビューを果たしている。テレビドラマに出演すると同時に、企業法務を数多くこなし、俳優業と弁護士業を見事に両立している。その多才ぶりは源内に通じるものがある。
さらに、源内の死の黒幕と思われる一橋治済(生田斗真)も出番が少ないにもかかわらずその存在感を大いに発揮している。田安治察(入江甚儀)や徳川家基(奥智哉)、松平武元(石坂浩二)暗殺事件について裏で糸を引いていると考えられている治済だが、源内の遺稿を焚火にくべるのを眺めながら笑顔でさつまいもをほお張るという、サイコパス感満載のシーンが描かれた。
SNSでは、「『鎌倉殿の13人』を彷彿とさせる展開が続くけど、今後も治済が暗躍するのかな」「やはり黒幕は治済なのか?意次も転がされているのか」「今まで目が笑っていない鶴屋が怖いと思っていたけど、治済はその比じゃないな」と、ネクロマンサー治済のサイコパスぶりが話題となっている。
5月4日に放送される第17話「乱れ咲き往来の桜」では、蔦重のもとへ懐かしい人物が訪ねてくる。そして蔦重は新たな版物として往来物という子ども用の教科書に目を付ける。一方、幕府では徳川家基の急死に伴い後継者問題が表面化する。
REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら