内田真礼の『PENKI』に彼女の確かな将来性を垣間見た!【ハイレゾ聴き比べ vol.8】

4月27日(水)20時0分 OKMusic

『PENKI』/内田真礼 (OKMusic)

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筆者が当代の漫画、アニメに疎いせいもあるのだろう。声優の音楽活動となると、さっぱり分からない。分からないが、特にヴォイスアクトレスと呼ばれる女性陣が人気なこと位は流石に知っている。

知っているというか、水樹奈々、μ'sが紅白歌合戦に出演したり、東京ドーム公演をやったり、あるいは坂本真綾がコーネリアスとコラボしたりするに至っては、否が応でもそれらの隆盛が耳に入ってくる。低落傾向が止まらない音楽業界にあっても彼女らのソフトの売上げは好調のようだ。

となると、当然そこに人材も資金も集まっているだろうから、声優の音楽活動はさらに盛んになり、今以上にクオリティーも高くなっていくであろう。すでにその傾向があるようだが、声優が歌う楽曲は好事家だけのものではなくなっていくことは確実と思われる。今回が最終回となる本コラムでは、第1回目に続いて、そんな声優の作品を取り上げてみよう。

当代人気若手声優の筆頭

今回、聴き比べるのは内田真礼の1stアルバム『PENKI』。誠に申し訳ないことに、筆者は彼女のことを存じ上げないので、まずザッとプロフィールを見てみる。声優デビューは2009年で、代表作はアニメ『中二病でも恋がしたい!』(2012年)や『とある科学の超電磁砲S』(2013年)、ゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』(2013年〜)等。2014年には『第8回声優アワード』において新人女優賞を獲得したということは、若手声優の中でも有望株の筆頭と言ったところだろうか。

ルックスもキュートで、週刊ヤングジャンプで表紙&巻頭グラビアを飾ったそうで、これは声優としては異例だという。歌手デビューは14年。ここまでにシングル3枚とアルバム1枚を発表しており、『PENKI』はチャート初登場6位を記録。2016年2月に中野サンプラザで初のワンマンライヴを開催しており、歌手活動も極めて順調なようである。ちなみに、名前は“まれい”ではなく“まあや”と読む。それも今回知った。

“〜そうだ”とか“〜ようだ”とか伝聞形ばかりだが、これまた申し訳ないことに、本当に内田真礼に関する事前知識がゼロなのである。音楽性もまったく分からない。シングルはアニメ作品のテーマ曲になっていることから所謂“アニソン”なのだろうが、何しろ最近のアニメを観てないからそれがどんな音楽性を指すのか知らないし、そもそもアニメソングと言ってもいろいろあるだろうからひと口に“アニソン”と括るのも乱暴だろう。

それ以前に彼女の声が分からない。どこかで聞いたことがあるのかもしれないが、これまた彼女が声優を務める作品を見た記憶がないので、彼女のルックスとアニメのキャラクターからイメージするしかない(イメージしてもあんまり意味がないけど…)。つまり、筆者は内田真礼に関して妙な先入観がない。まったく予断を持たないと言ってもいいのである。以下、1stアルバム『PENKI』を解説するが、こんなに真っ新な状態で音源を聴くのも珍しいことを蛇足ながら付け加えておく。

多彩なロックサウンドを湛えた作品

一聴して、デビュー作にしては、かなり攻めたアルバムである印象を持った。所謂バラードがない。そればかりか、「からっぽカプセル」でインダストリアル、「クラフト スイート ハート」でソウル、「創傷イノセンス」ではラウドと、ベーシックはR&Rだが、サウンドは多彩だ。

「Distorted World」や「North Child」、「Winter has come」ではEDM的なアプローチも見せている他、「わたしのステージ」や「金色の勇気」、「Hello, future contact!」ではサイケデリックなエフェクトも取り込んでいる。全13曲収録で、コンポーザー、アレンジャーがそれぞれ8名参加しているのだから、この多彩さは明らかに意図的だろう。

メロディーは概ねポップ──いや、全曲がポップでキャッチーだ。肝心の歌声は、というと、流石に表現力が豊かだ。主旋律だけでなく、コーラスはもちろんのこと、台詞あり、ウイスパーヴォイスありと、ヴォーカルもまた多彩である。

だが、そのサウンドとヴォーカルの多彩さが若干仇になっているような印象があることも、正直言って拭えない。各音が折り重なることで、それぞれの音像が捉えづらくなっている箇所もある。「ギミー!レボリューション」のBメロでは自ハモとギターとが干渉し合っているし、「North Child」のAメロのバックはピアノの音だと思われるが確証に至らない感じがある。はっきり言わせてもらうのも申し訳ないが、「金色の勇気」は最悪だろう。明らかに電子音が過剰で、アコギの音色を糊塗しているのは残念でならない。上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき愚行…とまでは言わないが、もう少し何とかならなかったのかと思う。

また、「創傷イノセンス」の後半の台詞のごちゃごちゃした感じが気になったりとか、「Distorted World」での不協気味のピアノはとてもいいのだが、もう少し前に出ていてもいいのではないかとか、バランスの悪さも気になる。決して悪し様に否定したいのではない。それらが改善されていればもっといいアルバムになっていたと思うと、そこが何とも惜しく、歯痒いのだ。

とはいえ、本作は内田真礼のデビュー作である。多くを望みすぎと言えばそうかもしれない。いい意味で伸びしろのある、アーティストとしての可能性を感じさせる作品と捉えたほうがよかろう。…というのが、『PENKI』、そのMP3版を聴いての感想である。

本コラムで前回まで7回にわたってさまざまなハイレゾ音源を聴いてきたので、非ハイレゾ音源を聴くと、その劣る部分というか、「ハイレゾではこの辺がクリアーに聴こえるんだろうなぁ」と聴き比べるまでもなく想像が付くようになってはいた。端的に言って、ハイレゾでは音のキレが良くなることで、今までの音源で聴こえづらかった部分が明瞭になる。また、音像がシャープになって個々の音の位置がよりはっきりとすることで、アンサンブルが強調されるのもその特徴だ。上記で指摘したサウンドとヴォーカルの多彩さから生じるごちゃつき感が、ハイレゾ化で解消されることは予測された。

声優ならでは…と言えるヴォーカルの表現力

結論から言えば、その予測は的中。リマスタリングを施しているわけではないので、劇的に各音のバランスが変わるようなことはないし、アルバムそのものの欠点を覆すまでには至ってないが、ハイレゾ版は明らかに音がクリアーだ。

例えば、「Distorted World」。音がシャープに聴こえる分、ピアノだけじゃなく、ギターとシンセの不協音っぽい音も楽曲のアクセントになっていることが確認できて、全体のアンサンブルがすっきりとした印象である。これ以外にも随所随所で本来の姿に近づいた音像を聴くことができるが、もっともその変化に驚かされるのは歌だろう。正確に言えば、コーラスワークを含むヴォーカルパフォーマンスの妙味が分かる。

個人的に聴き比べを推したいのは「からっぽカプセル」と「創傷イノセンス」だ。いずれもメインの歌とコーラスパートの定位がはっきりするため、彼女がそれぞれにニュアンスを変えた歌唱をしていることを確認でき、より立体的なヴォーカル表現が楽しめる。とりわけ「創傷イノセンス」は、サビの自ハモは主旋律に比べ歌い方が平板なのだが、それがクールさを醸し出していることも分かり、楽曲全体の世界観をふくよかにしている感じすらある。

ヴォーカル・パフォーマンスの妙味は声優の面目躍如たるところであろうが、これが露わになることで、彼女のポテンシャルの高さも露呈すると思う。ここまで言及しなかったが、表現力云々以前に内田真礼という人は確かな歌唱力を備えたシンガーである。若干音符が詰め込み気味な印象のある「Hello, future contact!」を歌いこなしていることからもそれが分かる。

無論それも未だ過渡期のものであろうが、そうであるがゆえに確かな将来性を感じさせるのである。サウンド面もいい意味で伸びしろのあることは前述した通りで、これもまた今後、当然のようにクオリティーを上げていくだろうし、本作では「ギミー!レボリューション」がそうであったようにヴォーカリゼーションとの相性のいいサウンドも増えていくであろう。

次作、あるいは次々作かもしれないが、まさに“future contact”──近い将来、他のアーティストにはない、内田真礼だけの音楽性が見えてくるような気がしてならない。ハイレゾ音源とは、かようにそのアーティストの将来性をも垣間見せるものであると思う。

TEXT:帆苅智之

OKMusic

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