四国こんぴら歌舞伎 役者の息遣いまで聞こえる圧巻の臨場感

4月27日(木)11時0分 NEWSポストセブン

客席の天井は約500本の竹を格子状に組んだ「ブドウ棚」

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 香川県・琴平町。「こんぴらさん」の愛称で古来、信仰を集める金刀比羅宮を構えるこの地が桜色に染まる頃、同じく春の訪れを告げるのが恒例の「四国こんぴら歌舞伎大芝居」だ(今年は4月8日〜23日)。


 参道にたくさんの幟が立てられると、琴平の街は一気にお祭りムードで活気づく。初日を前に門前町で行なわれるのが、役者たちが人力車で練り歩く「お練り」。今年は片岡仁左衛門が座頭を務める五代目中村雀右衛門襲名披露公演とあって、桜吹雪ならぬ紙吹雪がひらひら舞うなか、参道に集まったファンから、「松嶋屋!」「京屋!」と、熱烈な歓声があがった。


 公演は、現存する日本最古の芝居小屋「旧金毘羅大芝居(通称・金丸座)」で行なわれる。天保6(1835)年に建てられ、江戸時代には江戸や上方の千両役者たちがこぞって出演したという由緒ある檜舞台だ。昭和45(1970)年には歴史的・文化的価値が認められ、国の重要文化財に指定。現在の愛宕山中腹に移築改修され、天保の世の芝居小屋が見事甦った。


「ネズミ木戸」と呼ばれる正面の小さな入口から身をかがめて旧金毘羅大芝居へ入ると、1階客席中央の「平場」を埋め尽くした観客の熱気に圧倒される。左右には提灯が点る桟敷席が設けられ、やわらかな自然光が差し込む芝居小屋に江戸の風情がふわりと漂う。


 舞台は役者の息遣いがリアルに感じられるほど近く、平場のすぐ脇を走る花道での見栄は抜群の迫力。役者の表情もつぶさに見えるため、ちょっとした表情の変化にドッと沸いたり、固唾をのんだり。観客も一緒に芝居の中に入り込んだような臨場感が堪らない。


 そんな舞台の粋が役者心をくすぐり生まれたのが、今年で第33回を迎えた「四国こんぴら歌舞伎大芝居」。二代目中村吉右衛門や二代目澤村藤十郎、五代目中村勘九郎らが「ここで芝居がしたい」と語り、昭和60(1985)年に第1回公演が旗揚げされた。以来、「江戸の小屋で江戸の芝居をする」 四国こんぴら歌舞伎大芝居は、役者にとって特別な場となった。


 15年ぶりの仁左衛門は、


「金丸座の舞台に立っておりますと、私たちの祖先はこういうところでお芝居をしていたのだなあ、とあらためて思います」


 と語り、父・四代目中村雀右衛門が大切に演じてきた役を披露した五代目雀右衛門は、


「父と最後に金丸座に来させていただいたのは、『二人道成寺』を務めさせていただいた平成13年。自分が仮花道、父が本花道と舞台で並び、常磐津で踊る場面がございました。その想い出は今でも忘れられません」


 と、しみじみ振り返った。


 旧金毘羅大芝居は役者たちだけではなく、地元の人々にも特別な場所となっている。開演前に賑やかな口上をする木戸芸者に扮するのは、琴平町商工会の面々。彼らは芝居小屋の奈落で舞台装置を人力で動かす役割も担いお茶子(案内係)など、町全体で芝居を盛り上げている。


 そんな地元密着の舞台には、「東京へ行くのはしんどいけれど、『四国でやっているなら行こうか』と、気軽にでかけることができる」と、県内や近県の人々が続々と足を運ぶ。今や全国からファンが訪れるが、人気で地元の人の席がないと知らされた故・中村勘三郎が急遽、座布団席を設ける粋な計らいをしたこともあったとか。


 江戸時代、こんぴら詣での楽しみとして庶民が愛した“こんぴら歌舞伎”は、今もなお四国の地に息づいている。


取材・文■渡部美也、撮影■太田真三


※週刊ポスト2017年5月5・12日号

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