知能の7〜8割は遺伝 奨学金は成績の悪い子供にこそ必要

4月28日(金)7時0分 NEWSポストセブン

格差社会の不平等をどう是正するか

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「子どもたちのため」「格差解消のため」という美辞麗句で、教育へのさらなる税金投入が議論されている。しかし、作家の橘玲氏は、それは“壮大な無駄”だと指摘する。


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 民主党政権で公立高校の授業料が無償化されたが、こんどは東京都が私立高校の授業料の実質無償化を発表した。「教育国債」で大学の授業料をタダにすべきだ、と主張する教育者もいる。


 この問題を考えるポイントは、教育の無償化には税の投入が必要だが、そのお金はいったい誰の財布に入るのか、ということだ。もちろん、「未来を担う子どもたちだ」というだろう。だが、お金を受け取るのは子どもではない。教育サービスの対価として、税は教育者に支払われるのだ。


 コメ農家が、「日本人の健康のためにコメを無償化せよ」と主張したとしよう。この場合、税の受益者が国民ではなくコメ農家であることは誰でもわかる。


 それに対して教育をめぐる議論では、受益者は子どもで、(税金を受け取る)教育者は“善意の第三者”に納まっている。私はこれを詐術の典型だと思うのだが、なぜか指摘するひとはほとんどいない。


 もっとも教育者は、自分たちが税金を受け取ることを正当化するために、それなりの理屈を用意している。彼らは、「所得格差が教育を通じて貧困を連鎖させる」と力説する。


 一流大学の入学者の家庭を調べると、平均よりずっと所得が高い。裕福な親は子どもによい教育を与えられるのだから、貧しい家庭の子どもとの「教育格差」は開いていくばかりだ。これは不公平だから、親の所得にかかわらず平等に教育を受ける権利を国家が保障すべきだ。


 いかにももっともらしいが、次のような事実はどう考えればいいのだろう。行動遺伝学では、一卵性双生児や二卵性双生児を比較することで、身長・体重から性格に至るまで、さまざまな属性における遺伝と環境の影響を調べている。そうした研究を総合すると、論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能(IQ)の遺伝率は77%で、知能のちがい(頭の良し悪し)の7〜8割は遺伝で説明できることを示している。


 知識社会とは、知能の高いひとが経済的に成功する社会だ。行動遺伝学によれば、知能の高い親からは、知能の高い子どもが生まれやすい。一流大学に進学するであろう彼らの家計を調べれば親の所得が高いのは当たり前で、ここにはなんら不正なところはない。


 このような主張を不快に思うひともいるだろう。だが私は、一介の納税者として、行動遺伝学の証拠(エビデンス)にもとづいてよりシンプルな解釈を提示しているだけだ。それを反証し、自分たちが多額の税金を受け取る正当な理由を納税者に納得させる「説明責任」は、当然のことながら、受益者である教育者が負っている。


 誤解のないようにいっておくと、私は「成績の悪い子どもに税を投入する必要はない」といいたいわけではない。給付型奨学金のように、成績のよい子どもを支援する政策の方がはるかに税の無駄遣いだからだ。


 知識社会では高学歴=高収入の因果関係があることは誰でも知っている。知能の高い子どもは将来、大きな収入を期待できるのだから、奨学金は利子をつけて返してもらえばいいだけだ。


 同様に知識社会では、低学歴=低収入の因果関係も顕著だ。この不平等を教育によって是正しようとするなら、返済不要の給付型奨学金は「成績の悪い子ども」にこそ必要なはずだ。


 だが不思議なことに、この「正論」を主張する教育者はいない。それは彼らが、知能が遺伝する、すなわち「成績の悪い子どもに税を投入しても効果がない」ことを知っているからにちがいない。これもまた、典型的な自己欺瞞だ。


「北欧のように大学も無償化せよ」と主張する、さらに過激な教育者もいる。彼らがぜったいに口にしないのは、北欧の大学は日本とまったくちがうことだ。


 たしかにスウェーデンでは大学の費用はすべて国庫負担だが、そこでは文学や哲学などの一般教養は教えない。学生が学ぶのは「実学」で、そこで取得したMBA(経営学修士)などの資格が会社で昇進や昇給に反映される。北欧の大学は(高度な)職業訓練校なのだ。


 こうした実態を知ると、なぜ北欧企業が大学教育の無償化を受け入れているかがわかる。彼らは自分たちで社員教育をせずに大学に「外注」し、そのコストを税で払っているのだ。


 だとすれば、日本で大学を無償化するには、一般教養から実学へと教育内容を根底から変えなくてはならない。しかしレジャーランド化した日本の大学では教員の多くが一般教養しか教えられないのだから、彼らは職を失ってしまうだろう。


 これが、「北欧の大学はなぜ無償なのか」を納税者に説明するのを拒否し、「大学に行けない子どもがかわいそう」というお涙ちょうだいの物語をひたすら垂れ流す理由だ。では、「格差社会」に対処するにはどうすればいいのだろうか。


 日本において「子どもの貧困」が大きな社会問題になるのは、母子家庭の多くが生活保護以下の収入で暮らしているからだ。日本の母子家庭は先進国のなかでも生活保護の受給率がきわめて低いが、それは保護を受けることで子どもがいじめられることを危惧しているからだろう。


 だが欧米の研究は、母子家庭の子育てを支援し、職業教育を提供すれば、働く母親は納税によって受益を上回る社会への貢献ができることを示している。だとすれば必要なのは、母子家庭を生活保護の枠組みから切り離し、子どもがいわれなきいじめの対象にならないようにしたうえで、母親が子育てをしながら労働市場に戻れるような政策を考えることだ。


 財源がかぎられている以上、趣味のような学問に無駄な補助金を払うくらいなら、日本社会の最貧困層で呻吟する母子家庭に直接、現金を支給した方がはるかに「格差社会」の不平等を是正できる。


 だが利権のために「教育」という幻想を振りまくひとたちが、自分の懐に税金が入ってこないこの案を支持することはぜったいにないだろう。


●たちばな・あきら/作家。1959年生まれ。小説『マネーロンダリング』でデビュー。ノンフィクションや時評も手掛け、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』がベストセラーに。『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』など著書多数。近著に『言ってはいけない』がある。


※SAPIO2017年5月号

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