大河最高視聴率『独眼竜政宗』脚本家・J.三木氏らが大河激論

4月28日(土)7時0分 NEWSポストセブン

左から磯田氏、三木氏、春日氏

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 島津斉彬(渡辺謙)の死という大事件を機に、さらなる盛り上がりを見せる『西郷どん』。思えばNHK大河ドラマは、いつの時代も国民の話題の中心であり、数々の名作を生み出してきた。その中でも「ベスト」はどの作品か──。『西郷どん』の時代考証を務める歴史学者・磯田道史氏と、映画史・時代劇研究家の春日太一氏、そして歴代最高視聴率を記録した『独眼竜政宗』(1987年)の脚本家・ジェームス三木氏が熱い議論を闘わせた。


磯田:『西郷どん』のスタッフたちとの初顔合わせで、私は大演説したんです。「『独眼竜政宗』が大河史上の最高傑作であることは間違いない。我々はそれを超えるものを作ろうじゃないか」と。


三木:それは嬉しい。脚本家としてこれ以上の栄誉はありませんね。『西郷どん』には薩摩藩主・島津斉彬として渡辺謙くんが出演していることも『独眼竜』を思い出させます。


磯田:『独眼竜』では大御所の勝新太郎さんが豊臣秀吉を演じて、若き渡辺さんが演じる伊達政宗とぶつかり合った。そして『西郷どん』では、鈴木亮平さんが演じる西郷の前に、渡辺さんが大きな存在として現われるわけです。そのあたりにも『独眼竜』への強い意識を感じます。


春日:『独眼竜』放送当時、私はまだ10歳、小学4年生でしたが、大河にハマるきっかけになった作品です。大人になって観返すと、「コンプレックスを抱えた少年がそれをどう乗り越えていくか」が丹念に描かれていることに気付きます。疱瘡を患って右目を失明してしまう梵天丸(政宗の幼名)は、自分の容姿に劣等感を持っている。そんなところに、自分と同じような眼をした不動明王の像に出会う。そこで虎哉禅師(大滝秀治)が「不動明王は優しい仏様じゃ。外見と異なり慈悲深い」と説く。そこであの名台詞が出てきます。


三木:「梵天丸もかくありたい」──あれは流行語にもなりました。小学生の間であの言葉が飛び交っていると聞いたときは嬉しかったね。


磯田:当時高校生だった私にも印象的でした。後に歴史家になって、5歳の政宗が不動明王を見て「自分もこうありたい」と言った逸話は創作ではなく、『仙台武鑑』や『木村宇右衛門覚書』という史料に取材した台本だと気付き、調査の深さに驚いたのを覚えています。


 もっと驚いたのは、勝さん演じる秀吉と政宗の腹心・鬼庭綱元(村田雄浩)が将棋を指すシーン。秀吉は王将と角、歩しか持たずに「その代わりに自分だけ三手進めるが、どうじゃ」ともちかけるんですね。すると秀吉は三手で綱元の玉を取ってしまう。史実でも鬼庭は秀吉と賭け将棋や碁をやっています。


 このエピソードは、他の人間が一つの行動を起こす間に2回も3回も行動して敵を圧倒した秀吉という男の本質が見事に切り取られている。当時の僕はこれをフィクションだと思い込んでいたんですが、実は秀吉の将棋の打ち方も史料があったんです。歴史家でもよほど深く調べないと行き着かない史実が、エンターテインメントとして見事に物語に組み込まれている。ジェームス先生はどこまで調べているんだと舌を巻きました。


三木:いや、僕は特に歴史に詳しいわけではないよ。『独眼竜』は、私にとって初めての歴史物だったしね。あの時は脚本を書くにあたって、スタッフが丹念に史料を調べて渡してくれた。電話帳何冊分の厚みがあったかわからない。


春日:あの頃のNHKのスタッフにはとんでもない教養人がたくさんいました。事前に史実を調べつくしてから制作に臨んでいます。たとえば演出家の吉村芳之さんを取材させていただいたことがあるんですが、吉村さんは準備段階で政宗の重臣・伊達成実の著した『成実記』を自ら現代語訳してジェームスさんに渡したそうです。


磯田:NHKにはそんな人がいたんですか! なるほど、物語に深みが出るわけだ。ただし、先ほどの将棋のエピソードは『成実記』だけでは無理。他にも様々な史料にあたっていると思います。


 ジェームス先生の脚本はかなり史実に忠実なんです。そこに先生一流の解釈が加わって素晴らしいストーリーになっている。政宗が不動明王に憧れていた史実を、隻眼のコンプレックスと結びつけて物語にしたのはこの作品が初めてです。


三木:脚本を面白くすること、イコール創作を加えることだと考えている人が多すぎるんです。史実を曲げて物語を都合良く作ろうとしてもなかなかうまくいかない。やっぱり正しい歴史認識というベースがあって、そこからいかに想像力を働かせていくかが重要だと思いますね。


 ただし『葵 徳川三代』(2000年)には後悔が残る。NHKの依頼で三世代を描くことになったけど、そのせいで一人ひとりのキャラクターの描き方が散漫になってしまった。脚本は「情報の取捨選択」も大切なんです。


●ジェームス三木(じぇーむす・みき)/1935年、満州生まれ。脚本家、作家、演出家。『独眼竜政宗』『八代将軍吉宗』『葵 徳川三代』など、大河ドラマの脚本をはじめ多くの執筆活動を行なう。


●磯田道史(いそだ・みちふみ)/1970年、岡山県生まれ。歴史学者。国際日本文化研究センター准教授。近著に『素顔の西郷隆盛』(新潮新書)、『日本史の内幕』(中公新書)など。


●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋)など。本誌・週刊ポストで「役者は言葉でできている」を連載中。


※週刊ポスト2018年5月4・11日号

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