津村記久子「逃亡犯」の出現にざわつく10軒の事情とは 〜『つまらない住宅地のすべての家』

4月29日(木)7時30分 婦人公論.jp

「昔からなぜか脱獄や立てこもり事件に興味があって。『逃げているほうもやけど、逃げ込まれた側の人ってどういう気持ちなんやろう』と、ずっと考えていました」という作家の津村記久子さん。最新作は長年の疑問が出発点となった長編小説です

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逃げ込まれた側の人の気持ち


ニュースをよく見るのですが、昔からなぜか脱獄や立てこもり事件に興味があって。「逃げているほうもやけど、逃げ込まれた側の人ってどういう気持ちなんやろう」と、ずっと考えていました。ちょうどミステリー雑誌から執筆依頼があったので、これをテーマに書いてみようと思ったのが本作です。

舞台は、路地を挟んで10軒の家が立ち並ぶ平凡な住宅地。そこにある日、「女性受刑者が刑務所から脱走した」というニュースが飛び込みます。自治会長の提案で、住民が交代で見張りを始めるのですが、実はそれぞれの家庭が、言えない秘密や事情を抱えている。

たとえば、ある夫婦は自分たちの手に負えない子どもを家の中に軟禁しようと考えています。また別の家では、一人暮らしの若い男性が世間への恨みを、ある犯罪行為によって晴らそうと計画している。逃亡犯の出現は、住民同士を接触させ、その心に化学変化を起こします。


『つまらない住宅地のすべての家』(著◎津村記久子 双葉社)

家は住人の「性根」を雄弁に語る


住宅街を舞台にしたのは、2年前に『ディス・イズ・ザ・デイ』で日本各地のサッカーチームのサポーターたちを書いたことと繫がっています。その時取材した場所が全部面白かったんですよ。でも、世の中には見るべきところの何もない場所もあるわけで——「今まで行ったなかで一番面白くなかった場所を舞台にしよう」と思い立ったんです。地名は言えませんが(笑)、自分の知っている広大で活気のない住宅地とだけ。

そんな場所でも、家は意外と雄弁にさまざまなことを語ります。私は夜に散歩をすることが多いのですが、光さえケチっているように見える家がときどきあるんです。光を“所有物”のように考えていて、門灯を点けたり家の灯りが道に漏れたりするのを嫌がる。もちろんその逆の家もあります。

家の大きい小さいは関係なく、住んでいる人の「性根」が家のたたずまいからにじみ出ているようにも思えるんですよね。これも書きたいなと思い、ある家のモデルにしました。

生き方がまったく異なる人たちが一瞬交錯することで、自分の凝り固まった心が変化したり、思いもよらない方向に行ったりすることもある。物語の最後では、新しい道を見つけられた人もいます。「自分が見ている世界だけがすべてではない」と気付くことは、救われることでもあるんです。設定こそ住宅地という限定された場所でしたが、もっと広い世界の話を書きたかったのかもしれません。

婦人公論.jp

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