「『実写でやればいいじゃん!』と言われたい」!? 今期“最ムズキュン”アニメ『月がきれい』南健PDインタビュー

4月29日(土)21時0分 おたぽる

(C)2017「月がきれい」製作委員会

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 魔法なし、SFなし、ハーレム展開も無敵の主人公もなし!
 埼玉県川越市を舞台に、文学好きな男子中学生と陸上部の女子中学生の等身大な恋愛を描くオリジナルアニメ『月がきれい』(TOKYO MXほか)。

 美しい作画と丁寧な演出、そして全編に仕込まれた「中学生あるある」が視聴者のハートをくすぐり、地味ながらも今クールの隠れた注目作になりつつある。

 仕掛け人はフライングドッグの南健プロデューサー。なぜこのような作品を世に送り出したのか? 『天体戦士サンレッド』、『蒼き鋼のアルペジオ ‐アルス・ノヴァ‐』シリーズでタッグを組んできた岸誠二監督らとともに、どのようにこの作品を作り上げていったのか? じっくり伺ってまいりました。


■『月がきれい』はアニメの前提知識がいらないアニメ

—— 『月がきれい』を夜中に一人で見ていると、「ああああ」と変な声を出しつつ、電灯の紐にパンチしたくなる衝動に駆られております(笑)。

南健プロデューサー(以下、「南」) 視聴者の皆さんを居心地悪くさせるために、このアニメを作っていますからね(笑)。「なんで今、俺が住んでいるマンションは照明に紐がついていないんだ!」と思わせるのが狙いです。

—— 第1話が放映された後の反響はいかがでしたか?

南 「むずがゆい」「もどかしい」という声が多かったですね。「刺さって痛い」「見ているのが辛い」という声もいただきました(笑)。「微笑ましい」という方もいれば、「こんなの見ていられるか!」という方もいる。皆さんのコンディション次第で感想が変わりやすいアニメかもしれないですね。

—— 『月がきれい』のような中学生同士のピュアな恋愛アニメというのは、非常に珍しいと思います。どのような経緯で制作されたのでしょう?

南 企画を監督に持ちかけたのは2014年の9月頃です。当時、岸(誠二)監督と『蒼き鋼のアルペジオ ‐アルス・ノヴァ‐』という作品の劇場版を作っていましたが、それ以前から「アニメが得意としている要素をなるべく排除した、リアルな人間のドラマ」を描くアニメをやりたいと考えていました。

 ただ、女性向けの恋愛小説やマンガ、TVドラマとか映画でよくあるような、死人が出たり、奇跡が起こったりするのは、ちょっとご都合主義に見えて好みじゃないんですよ。もちろんフィクションなのでご都合からは逃れられないんですが、もっと普通の、どこにでもある要素から成り立っている恋愛ものをやりたかった。過剰にドラマティックな要素がなくても、作品として、商品として成立することができるんじゃないかと考えていたんです。

 そんなことを考えていたとき、『たまこラブストーリー』という映画を観たら、TVシリーズと違って「喋る鳥」が出てこなかった!(笑) すごくピュアなラブストーリーをものすごい力技で作っていた映画で、すごく良かったんです。この作品が背中を押してくれましたね。

—— この企画の話を岸監督にされたときのリアクションはいかがでしたか?

南 お互いにニヤッと笑って、「やったろか」という感じでしたね。(笑)。ヒット原作のアニメ化を……という話ではないので、彼にとっては怪しくも意欲的なオファーだったと思います。視聴者の皆さんも、岸誠二という監督が中学生同士のピュアな恋愛ものを作るとはまさか思わないでしょう。それをやることに面白みがあると思います。

—— そもそも、南さんが「リアルな人間のドラマ」をアニメにしたいと思ったのはなぜでしょう?

南 SFやファンタジーといった画面を派手にする要素や、アイドルなどの特殊職業や難病のような物語を派手にする要素はないけれど、しみじみと感動できるようなフィルムの存在価値がそろそろ出てくるんじゃないかと思ったんです。中でも10代のラブロマンスって、もともと小説や漫画、実写のドラマや映画といったメディアでは綿々と続く題材じゃないですか。アニメでも、14年時点から見て2年後ぐらいには当たるようになるんじゃないかという予感がしていました。TVアニメでも『僕等がいた』(06年)や『君に届け』(09-10年、11年)、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(11年)、『一週間フレンズ』(14年)などの作品が受け入れられていましたし。

—— 前提になるアニメの文脈を共有していなくても、すぐに入っていけるアニメですね。

南 そうです。世界観やキャラクター造形に関して、現実離れした特殊な設定を理解する必要がない。特に深夜アニメが先鋭化させてきたような前提知識がない人でも入りやすいですし、ずっとアニメを見てきた人も面白さを発見できる作品になりつつあるという自負はあります。誰でも楽しめますし、誰でも胸が痛くなるアニメとして完成してほしいですね。


■アニメで『中学生日記』をやろう!

—— 設定やストーリーはどのように詰めていったのですか?

南 1年かけてキャラクターの年齢、話の方向性、舞台になる場所などを決めていきました。中学生の話にしたのは、まず我々も親世代なので、小学生の恋愛はご遠慮願いたかった(笑)。一方、高校生の恋愛を描いた作品はすでにいっぱいある。

いろいろ調べたのですがものの本によると、高校時代が「青春」で中学時代は「思春期」なんだそうです。青春時代は、バイトができたり、知恵がついたりと、けっこう選択肢が多くて、行動の自由がある。思春期は、自分に能力がなかったり、学校や家の枷があったり、そもそも自分が何をしたいのかボンヤリとしかわかっていなかったりする。そうやって悶々と悩んでいる子を描く方が楽しそうだと思って、中学生に決めました。

—— 不自由だから中学生を選んだわけですね。

南 そうです。中学3年生は大人の階段の一段目が見えたぐらい。子どもと言われると怒るけど、大人にはまだまだ遠い。また、人によってその進み具合にかなり差があるんです。それがいいんですよね。

あと、高校は受験というフィルターを経て(学力が)同じぐらいのレベルの子たちが集まってきますが、中学は公立だと近くに住んでいるいろいろな子たちが集まっているんです。アニメで背景の子たちを描くときは均質化されていたほうが楽ですが(笑)。でも、それはつまらない。社会的な生き物としての人間の差が一番色濃く出るのが中学なんです。

—— そのあたりが『月がきれい』で描きたかったところですか?

南 そうですね。個人差が大切だと思っています。恋愛を描くのですが、結局、恋愛も生活の一部なんです。だから、「中学生を描く」という形に落ち着けばいいですね。「アニメで『中学生日記』をやる」というのが僕らの標語の一つです(笑)。

——エピソードには、南さん、岸さん、柿原さん(優子/シリーズ構成・脚本)の実体験が入っているのですか?

南 もう、そればっかりですよ(笑)。脚本ができるまでの2年の間、ずっとお互いの10代の記憶を開陳しあっていました。毎週、会議が終わるたびにすっごく疲れていましたね(笑)。

中学生の「生活」を描くわけですから、基本的に「あるある」を作らなければいけない。「ああ、わかるわかる」とか「いるよね、こういうヤツ」というものにしなければいけない。自分たちの話もしましたし、知り合いに中学生ぐらいの子どもがいたら、お願いしてファミレスとかでインタビューしましたよ。冠婚葬祭のときに会った親戚の中学生の子どもも観察しました(笑)。

—— 昭和の中学生と現代の中学生で大きな違いは感じましたか?

南 現時点での結論は、「スマホを持ってるだけで、あとは我々の頃と変わんないな」ってことですね(笑)。生まれてから14、5年で積むことができる経験値なんて、あまり変わらないんですよ、きっと。世代差より個人差のほうがまだまだ大きい年代なんです。

—— 舞台の川越はどのように決まったのでしょうか?

南 「都会でも田舎でもないところ」を探したんですよ。言い方を変えると、都会の要素も田舎の要素も少しずつ持っているところ。建物でいえば、8階建てのマンションも庭付きのちょっと古い一軒家も両方ある街。それが一番、多くの人にとって「現実的」な風景に見えるんじゃないかと思って。それでいて、少しは特徴のある街並みもあってほしい。その方が「絵になる」から。具体的には寺社仏閣とか歴史的建造物ですね。最後に、東京からそんなに遠くないところ。ロケハンも大変だし(笑)。

という条件で探した時に、湘南・鎌倉なんかが第一候補になりがちなんですが、あまりに多くの作品の舞台となっていて、ちょっとつまらない。あと、海があると「画になりすぎる」ので、それはズルだよね、とか(笑)。そういった中で小江戸・川越という候補が上がって、「ちょっと行ってみようよ」と岸監督と柿原さんと見に行って、関西出身のお2人にも気に入ってもらえたので、決めました。

—— 文学がモチーフになっていたり、第1話でレコードを貸し借りしていたりと、ちょっと昭和感がありますよね。

南 よく見ていただくと、そういうものは全部小太郎サイドなんです。小太郎は地元の子で、お父さんも川越生まれの川越育ち。一家はおじいちゃんが建てた家に住んでいて、小太郎の部屋も畳にじゅうたんを敷いた上にベッドを置いてあって、今どき紐がついている電灯がある(笑)。なぜかモハメド・アリのポスターが貼ってあるんですけど、あれは私もよくわかんないです(笑)。気づいたら美術設定に貼ってあった。小太郎のお父さんは文系の人で、日本文学を読むような人だったから、小太郎も影響を受けて文学を読むようになったんです。

小太郎が近所のお兄ちゃんである大輔から借りるレコードは最初、ジャズの予定だったんですよ。でも、プレスコの収録の日に大輔役の岩中(睦樹)さんの声を聞いたら「ジャズ聴いてそうな感じがしないなぁ」と思って、急遽、セリフを「はっぴぃえんど」に書き換えたんですよ。私も中学生の頃に同じレコードを中古で買ったんです。今も年に2、3回は聴いてますよ。いかにも大学生のお兄さんが中学生の弟分に貸しそうな感じもするでしょ?(笑)

—— たしかに(笑)。小太郎は地元の子ですが、茜はどうなんでしょう?

南 茜のお父さんは食品会社勤務で、転勤で川越のマンションに来たんですよ。今は川越営業所に勤めていますが、いつか引っ越していくわけです。川越をロケハンしたとき、駅前にある大きなマンションと街の中にある古い家の対比がすごく良かったので、その組み合わせにしてみました。家風の違いは本人の性格にも現れますし、中学生ならまだそれが強いと思うんですよね。

—— いろいろなところに差があるわけですね。

南 我々も、人との出会いは子どもの頃から40過ぎた今まで、いろいろあるじゃないですか。でも、子どもの頃のほうがいろいろな人と出会っていたような気がします。大人になってから出会うのって、だいたい仕事の知り合いなんです。中学時代や高校時代の友達と会うのが面白いのは、いろいろな人がいたからなんですよね。自分と違う人と会うから面白い。いろいろな人がいる社会を描きたかったんです。


■loundrawさんと中学生の制服についてディスカッションしました

—— 今回はキャラクター原案としてイラストレーターのloundrawさんを起用されていますが、これはどのようないきさつがあったのでしょう?

南 ある程度企画がまとまってきたところで、今回はアニメーターではなくイラストレーターが描く原案をもとに作ろう、と岸監督と意見が一致しました。深夜アニメに多い、いわゆる「THE 美少女アニメ」のような絵柄はちょっと合わないよね、と。

そこで2週間ぐらいかけてスタッフ各自がいいと思うイラストレーターさんを探して、持ち寄りました。loundrawさんの絵を持っていったのは私です。彼が装画を描いていた小説を何冊も持っていて、いい雰囲気だと思っていたからなんですけどね。仕事柄、彼がちょくちょくイラストを描いているハヤカワ文庫JAのSF小説はほぼすべての新刊を読んでいるので。

—— loundrawさんとのお仕事はいかがでしたか?

南 お願いして設定画を描いてもらったところ、今回狙っているアニメの最終的な仕上がりとのマッチングとしては申し分のない絵が上がってきたので、これで行こう! と。ちょうど彼がまだ学生で時間があったのと、とても手が早い方なので我々としても仕事しやすかったですね。

制服のスカートの丈や靴下の長さについては、私とloundrawさんとでかなりディスカッションしました。loundrawさんはお若いので、当然、我々よりも最近の中学生事情に詳しい。「いまどきは公立中学でも指定のコートはピーコートかダッフルコートですよ」って言われて衝撃を受けました。俺たちの頃はダサいステンカラーコートだったのに!(笑)

—— キャラクターの顔や体に白いハイライトが入っているのが印象的ですが、これはどなたのアイデアでしょう?

南 監督と色彩設計の伊藤さき子さんが話し合って決めました。監督も伊藤さんもけっこう悩んだようでいくつもパターンを試していましたが、ハイライトが一番派手に入っているものが良かったので、決定しました。

—— あまり見たことのない処理ですが、10代のキャラクターの瑞々しさを表現するのに一役買っていると思います。

南 そうですね。背景画のブライトさとの橋渡しにもなっているので、これで良かったと思いますね。


■「実写でやればいいじゃん!」と言われたい。

—— まだ始まったばかりですが、視聴者はこのままムズムズさせられっぱなしなんでしょうか?

南 ムズムズだけじゃなく、いろいろな目に遭うと思います(笑)。中学生の生活を描いていくので、当然うまくいかないことが多いですよね。自分の欲求がかなえられなくてモヤモヤすることも多い。大人でも似たようなことはありますが、大人と違うのは子どもなので怒られるんですよ。これは先にお伝えしておきますが、後々、男子なら非常に辛い回がありますよ。小太郎が井上(喜久子)さんにすごく怒られるんです。

—— お母さんに叱られるんですね。

南 脚本段階では、我々もノリノリで中学生の頃に母親から怒られた経験を盛り込んでいったのですが、いざそれを名優である井上さんに演じてもらったらキツかった!(笑) しかも、小学生を怒るのと違って、中学生は理路整然と叱られるから余計辛いですよ。

—— 視聴者の我々も小太郎と一緒に叱られているような気分になるんでしょうね……。

南 収録で聴きながら、私、岸監督、音響監督の飯田(里樹)さんといいトシしたオトナが本当にシュンとしてしまいましたから(笑)。特に男性は、中学生ぐらいの頃から大して成長しませんからね。

—— では、最後に今後の展開について教えてください。

南 全12話で小太郎と茜が卒業するまでの1年間を描きます。フィルムの質感としては、引き続きじっくり丁寧に見せていきたいと思っています。その分、現場は大変なことになっています(笑)。ある話数のコンテを見たら、私が今までにTVアニメでは見たことないような動きまで描かれていました。「マジでこれ、やるの!?」って。実際にはカットされるかもしれませんが、万事がその調子です。中学生の日常を丁寧に描写しながら作っていこう、という感じですね。

—— まさにアニメ版『中学生日記』ですね。

南 「実写でやればいいじゃん!」って言われたいです(笑)。でも、実は今は、アニメでやったほうが(観ている人に)刺さりやすいんじゃないでしょうか。現実の人間が演じるわけではないので、ある種、マイルドになりますしね。今、こういう物語や表現、キャラクター、世界観を世に問おうと思ったら、アニメのほうが受け入れられやすいし、勝機があるんじゃないかと私は思っています。

12話続く中で、「ああ、あるある」と思いながら、いつの間にか好きになってくれれば一番うれしいですね。刺激の少ないアニメに見えますが、噛めばいろいろな味が滲み出てくると思いますよ。


■TVアニメ『月がきれい』
・公式サイト https://tsukigakirei.jp/
・放送情報 
 TOKYO MX 毎週木曜深夜24時〜
 MBS 毎週土曜日26時28分〜
 BS11 毎週日曜日25時30分〜
 TV愛知 毎週月曜日26時5分〜

・配信情報
 YouTubeフライングドッグ公式チャンネル 
 https://www.youtube.com/user/flyingDOGch
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