第16回「共感性うわあ」

5月1日(土)11時0分 Rooftop

 自分の過去のつらい出来事を思い出し「あああああ!!!!!」となるのは感情界で有名ですが、他人の過去の出来事を思い出して同じような気持ちになるのは、一体何なのでしょうか。「共感性羞恥」という言葉がありますが、それとも少し違うような気がします。(いや、違わないかもしれません。違わなかったらすみません。)

 わたしは長い間、地下アイドル活動をしながらレジ打ちのアルバイトをしていました。バイト先でわたしは、シフトを決める社員の方に「この日、本社から偉い人が来るんだけど…休める?」といつも優遇されていました。隠したくなるほど仕事ができたのでしょう。レジ袋が足りなくなりおつかいを頼まれ、スターバックスコーヒーでお茶をして手ぶらで戻った日も、難しいことを頼んで悪かったとみんなが言ってくれました。わたしもそう思います。

 そんなバイト先に、いつも接客が丁寧な中川さんという先輩がいました。中川さんは小柄でかわいらしい方で、わたしにもお客様にも優しく、レジ打ちする姿はとても輝いていました。しかしレジが混み始めると態度が一変。急かされて混乱するのか、時々目を疑うような行動をとる不思議な方でした。

 ある時、レジに行列ができている中で、中川さんとお客様が揉めていました。一万円札を出したのにお釣りが足りないと主張するお客様。受け取ったのは五千円札だと言う中川さん。わたしはとなりでお品物を袋に詰めながら、どうするんだろうと思っていました。すると中川さんは、強い口調で「大変お時間いただきますが、納得いただけないようなのでレジ金を確認させていただきます」と言って、その時間までのすべての売上が印字された長いレシートを出し、レジの中身を数え始めたのです。知っている方も多いかもしれませんが、レジ金を数える行為は本来閉店時に行なう締め作業で、営業中はよほどのことがない限りやりません。ましてや混んでいる店内でレジを一台潰して行なうことになります。わたしは「おい嘘だろ」と引きながらも、完璧主義で正義感の強い中川さんがそこまですると決めたのだから、逆らってもしかたがないと自分に言い聞かせ、並んでるお客様全員から殺意の眼差しを向けられながら中川さんを手伝いました。

 長い時間をかけレジ金を数え、どちらが間違っているかわかりました。わたしは中川さんと一緒にお客様に謝り、正しいお釣りを返しました。中川さんにどう声をかけたら良いのかわからず、中川さんもわたしに何も言わないので、そのあとはお互いにたんたんとレジを打ちました。その日の出来事をわたしはふとした瞬間に思い出し、勝手にその時の中川さんの気持ちを想像し「あああああ!!!!!」となってしまうのです。

 わたしはレジ打ちの才能はありませんでしたが、地下アイドルとして毎日楽しく過ごしています。中川さんがまだレジ打ちしているかは定かでないですが、彼女のレジが今日も混まないことをひそかに祈っています。

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