『Fate/Apocrypha』から学ぶ! 一番わかりやすい『FGO』原典紹介(前編)

5月2日(火)20時0分 おたぽる

アニメ『Fate/Apocrypha』公式サイトより

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 3月下旬に開催された「AnimeJapan 2017」にて、さまざまな新展開が発表された『Fate/stay night』(TYPE-MOON)。スピンアウト小説『Fate/Apocrypha』(著:東出祐一郎、画:近衛乙嗣)のアニメ化が発表されました。『Fate/Grand Order』(TYPE-MOON、アニプレックス)も次々にイベントやストーリーが進んでおり、さらなる発展が期待できそうです。

 そこで今回は複数回に分け、『Fate/Grand Order』にも参戦が濃厚であろう、またはすでに参戦している、『Fate/Apocrypha』に登場するキャラクターから数名をピックアップ、その原典などをご紹介していきます。


■黒のセイバー:ジークフリート(ドイツ民話)

 ジークフリートはドイツ民話『ニーベルンゲンの歌』の主人公であり、ワーグナーのオペラ『ニーベルングの指環』にも同名の主人公が存在しています。この2人の主人公は、どちらも北欧神話の英雄「シグルス」を元に作り出されたキャラクターとなります。

『FGO』のキャラクター紹介では「情の深い高貴な騎士で、冒険の結果バルムンクや魔法の外套を手に入れた」「悪竜ファヴニールを打ち倒した」「竜の血を浴び、飲んだことで不死身の肉体を手に入れた」「いつか己の正義を信じて戦う正義の味方になりたい」など書かれており、また発言や性格は高貴な騎士そのものです。

 ところが、キャラクターの原典作品とされている『ニーベルンゲンの歌』におけるジークフリート(作中では古いドイツ読みのジーフリト)には、『FGO』における設定や性格がほとんど見られないのです。


・何事も暴力で解決するのが一番だ
 ひとまず、原作作中においてのジークフリートは「高貴な血筋のメチャクチャ強くて何でもできてお金持ちでイケメンのモテモテな王子様」という、非の打ち所のない完璧な人間と評されています。

 ところがそのような評価に対して、作中でのジークフリートは「頭が軽く配慮のない、横柄な乱暴者」という描写のほうが圧倒的です。

 たとえば名剣バルムンクとニーベルンゲンの財宝は「ジークフリートが、ニーベルンゲン族の名門の君主2人から大量の財宝の分配を頼まれ、その報酬としてニーベルンゲンの剣(バルムンクのこと)を受け取る。だが分配の不公平に文句を付けられたことでカッとなり、その場にいた兵士700名以上をバルムンクで皆殺しに。生き残りは城と国と共に財宝すべてを差し出し命乞いをするが、ジークフリートは許さず2名の君主も殺害、なし崩し的に城と国、財宝と名剣を手に入れた」と、その経由が語られています。

 さらに姿を隠せる魔法の外套は「殺された君主たちの仇を取ろうとした小人を追い詰めて奪い取る」という経由で手に入れているのです。これらアイテムは冒険の結果というよりも、理不尽な暴力によってニーベルンゲン族から奪い取った、と言った方が適切でしょう。

 このほかにも、ジークフリートがある城に泊めてもらおうとした時など、(おそらく深夜にも関わらず)閉じられた門を激しく叩きながら「武者修行中の俺様が来たぞ、門を開けてくれ。寝ている者を全員叩き起こして俺を迎え入れろ」と言い放っています。高飛車な物言いに、当たり前のことながら怒りを買って巨人の衛兵に襲われるのですが、それをねじ伏せ、城主に「あなたに仕えますので、どうかその者の命を助けて下さい」と言わしめました。

 これ以外にも妻を張り倒す、よくわからない理屈で部下を血みどろになるまでボコボコにする、女性を組み伏せて持ち物を盗む、ブンゴルドという国に美しい姫がいるという噂を聞き及んでその国へ向かい、王に向かって「この国を俺の力で征服してやる、ついでに美しい姫も俺様のものだ、覚悟しろ」と言い放つ(この時に王はジークフリートを食客として迎えもてなし、何とか穏便に済みましたが)など、乱暴なエピソードには事欠きません。

 また、北欧神話の影響が比較的薄いことによるのでしょうが、ドラゴン退治のエピソードは非常に軽く、別国の重臣が王に対して「ジークフリートは昔、竜を退治しており、その際に竜の血を全身に浴びて肌が不死身の甲羅と化したのです。どんな武器でも肉体には傷一つ付けられません」と進言しているだけです。

 これら『ニーベルンゲンの歌』と、『FGO』におけるジークフリートの設定を顧みるに、どうにも北欧神話の英雄「シグルス」、あるいは『ニーベルングの指環』の「ジークフリート」とごっちゃ混ぜになっている感があるのですが……。


・ジークフリートさんまたやってしまったねぇ

 ジークフリートが暗殺されたのは、彼がブンゴルド国の王に頼まれた恥ずかしい密約(王が王妃より弱かったため、夜の営みを力づくで断られていた。そこでジークフリートの提案により、ジークフリートが姿を隠せる魔法の外套を使って王に成り代わり、怪力で王妃をねじ伏せ「二度と夜の営みを断らない」と宣言させた)を妻にバラしており、さらにその証拠となる物品を妻へすべて与えていたことが原因でした。

 ある日のこと、ブンゴルド国の王妃とジークフリートの妻はささいなことから口論を起こし、激昂したジークフリートの妻は、大衆の前で夫から聞いた密約の内容とその証拠を挙げて、王と王妃に大恥をかかせたのです。

 これは王と王妃に対する大変な裏切りでもあり、特に「決してそのようなことはしていないが、別の男と寝た、と勘違いされても仕方がない」という、貞淑を疑われかねない立場となった王妃は「ジークフリートを殺して恥辱を晴らすか、自殺をするか」の二択を迫られます。

 それを察したハゲネという家臣は、ジークフリートは自分が暗殺する、と申し立てるのです。あのように口が軽いジークフリートを生かしておけば、今後もこの不名誉な話をほうぼうで吹聴するだろう、という考えもありました。

 そしてハゲネは綿密な暗殺計画を立てます。日取りを決め根回しを行い情報を集め、「竜の血を浴びた際に、背中に1枚の菩提樹の葉が張り付いていたため、そこだけは柔らかい」という唯一の弱点も確認します。そして計画通りジークフリートに武装を解除させてそこを刺し貫き、ハゲネは無敵の英雄を暗殺したのです。

『FGO』では「自身が死ぬしかないという状況に追い込まれた」とされていますが、ここまで紹介した『ニーベルンゲンの歌』のエピソードを顧みれば、思慮の浅い相当なろくでなし。おそらくほとんどの方が「自業自得、暗殺されてもしょうがない」と思われたのではないでしょうか。


■黒のライダー:アストルフォ(シャルルマーニュ伝説)

 アストルフォは、8〜9世紀のヨーロッパに大帝国を作った実在の王「シャルルマーニュ」と彼に仕える騎士たちを主人公とした、西欧で高い人気を誇る武勲詩群「シャルルマーニュ伝説」に登場する騎士のひとりです。それらの中でもよく知られているのが『ローランの歌』、『狂えるオルランド』、そして未完の作品『恋するオルランド』でしょう。

 ちなみにオルランド(Orlando)というのはイタリア読みで、フランス読みではローラン(Roland)となる、聖剣デュランダルを授けられる同一人物の名前です。


・ヒモ騎士と不憫な魔法の槍

 アストルフォは高貴な血を引く騎士です。原作作中では「若き美男子であり、機転が利く器量良し、礼儀作法は完璧。富豪の息子で常に派手な格好をして、金の肌着を身に着けている。ただし自信過剰なきらいがある」と説明されています。さらに「自分は眉目秀麗で品もよく、多くの女性から想いを寄せられていた」と自称しており、確かにその通りなのですが、このようにナルシスト的な性格が伺えます。

 このアストルフォ、イケメンで口は達者なものの腕っ節は弱く、物語の序盤では馬上槍試合などで全く勝ち星を挙げられない、という非常に情けない騎士でした。

 ですがアストルフォは、ある時にふとした勘違いから、たまたま拾った槍のおかげで非常に強い騎士となるのです。この槍はもちろん「触れれば転倒!」の元ネタとなった、「馬に乗ったものが、その穂先に少しでも触れれば、すぐさま馬上から弾き飛ばされる」という魔法の力が込められた「金の穂先の槍」です。

 ただ転ぶだけ、落ちるだけじゃないか、とお思いになったかもしれません。ですが、物語が成立した15世紀頃の騎士にとって、落馬は最も恐れるべきことでした。落馬それ自体によって命を落としかねないだけではなく、重い全身鎧を身にまとっているため、機動力を失う、落ちた衝撃によるケガ、体勢を立て直す前に攻撃を受けたり捕まってしまう可能性など、挙げればきりがないほどです。ただ触れるだけで相手を落馬させられる、という金の穂先の槍が、どれほど強力な武器なのかがおわかりいただけるでしょうか。

 物語が進み、何とか人間の姿に戻してもらえたアストルフォは、その後にロジスティッラという魔女からの寵愛を受けます。彼女は愛するアストルフォに、あらゆる魔法の罠を打ち破る方法が書かれており、かつ必要な情報をすぐに引き出せる立派な本(名前は付けられていない)と、吹けばすさまじい音が鳴り響き、それを聞いた者は恐怖を覚え逃げ出してしまう、という魔法の角笛を与えました。

 たまたま拾った槍の力、そして貰い受けた角笛と立派な本を使いこなし、アストルフォは次々に武勲を上げ成長し、最終的には魔法の道具が無くとも立派に戦える騎士になるのです。

 ところで金の穂先の槍に秘められた魔力に、登場人物たちはまったく気がつきません。アストルフォは槍の力を「自分の実力だ」と脳天気に思い込んでおり、角笛と立派な本は適切かつ大切に扱うものの、槍は全く重要視していませんでした。そして彼は空を飛ぶ魔獣イッポグリーフォ(ヒポグリフ)に乗っての冒険の際、たまたま出会った従兄弟の女騎士ブラダマンテに槍を託し、それ以降この槍はブラダマンテの武器として最後まで使われるのです。そしてブラダマンテもまた、槍の魔力には全く気が付きませんでした。


・騎士はかくして月へと向かう

 また「アストルフォは理性が蒸発している」という点が強調されがちですが、それは「オルランドの正気を取り戻すべく、聖ヨハネと共に地上で失われたものの全てがあるという月へ行った際、自身の正気の大部分がそこにあり、ついでに自分の正気を取り戻した」という、荒唐無稽なエピソードが由来となっています。

 原作作中でのアストルフォは、確かにユーモアのあるコミックリリーフとして描かれていますが、その活躍を見るに理性を失っているとはとても思えません。ただし『恋するオルランド』においては、何かに打ち込む、主君に望みを託している、魔術を追い求める、美術品にうつつを抜かすものは皆正気を失っているとされており、月世界には哲学者、天文学者、詩人など、名立たる人々の正気もたくさんありました。おそらく著者ルドヴィーコ・アリオストにとって、正気を失っている人間はさほど珍しくない、ということなのでしょう。

 そしてアストルフォは、月からオルランドの正気が詰まったビンを地上へ持ち帰り、その直後に真っ裸と怪力でもって暴れ狂うオルランドを発見、仲間と協力して捕縛しそれを摂取させ、オルランドは完全に正気を取り戻します。その後、彼は一度たりとも狂うことはありませんでした。

 最後に、アストルフォが月旅行のついでに取り戻した彼自身の正気についてです。月から戻ったアストルフォは、しばらくの間は分別ある人物として過ごしていました。ですがある時に犯した過ちのため、大部分の正気を脳から再び取り上げられ、元のお調子者に戻ってしまったといいます。どうやらオルランドのようにすべての正気を失わない限り、大したことはないようです。


■黒のアーチャー:ケイロン(ギリシャ神話)

 ケイロン(ケイローン)は、ギリシャ神話に登場する「ケンタウロス」という、馬の身体に、首の部分から人間の上半身が生えている、という怪物の個体名です。ただし『FGO』では能力が低下することを受け入れた上で、あえて人間の姿をとっています。

 ギリシャ神話におけるケンタウロスは「未開、野蛮の象徴」として文学や美術に現れることからもわかる通り、非常に野蛮で乱暴、かつ好色です。また酒癖が悪く、お酒を飲むと必ずといっていいほど大暴れします。ギリシャ神話のエピソードにも、ケンタウロスたちが酒に酔ってその勢いで狼藉を働く、というものが見られます。


・ケンタウロスだけどケンタウロスじゃない

 ケイロンは非常に賢く、数多くの神々から音楽、医術、芸術、狩猟、天文学、武術などの数々の叡智を授けられています。さらに森で狩りをして暮らしていたことから弓術、薬草学にも長けていました。

 神の血を引き、学問に優れ、さらに武芸にまで秀でているという、まさに文武両道の賢者と言うべきケイロンは、数多くのギリシャ神話の英雄を教育しています。ヘラクレス、イアソン、アキレウス、カストル、アスクレピオスなど、神話に名高く知名度も高い英雄はほぼ漏れなく彼の教えを受けている、と言ってもよいほどです。

 ケイロンの最後は、教え子の1人であったヘラクレスによってもたらされました。ヘラクレスとケンタウロスたちが激しく戦っている折、ケイロンはその戦いに巻き込まれてしまい、不幸にもヘラクレスの放った必殺の毒矢「ヒュドラの毒矢」の流れ矢に当たってしまうのです。

 ケイロンは不死身であったのですが、ヘラクレスの毒矢はそれを受けた者を必ず死に至らしめる、解毒不可能なものです。ケイロンは死ねない身体で死の苦しみを味わい続け、結局はゼウスに頼んで不死身の能力をプロメテウスという神に譲ります。そしてケイロンは死亡、地獄の苦しみから解放されました。

 賢者の死を惜しんだゼウスは、ケイロンを天に上げ置きました。それが現在の「射手座」なのだそうです。

——さて、いかがでしょうか。元ネタを知れば、キャラクターのエピソードや設定をより深く掘り下げられ、別の角度からも楽しめるようになるはずです。

 次回はキャラクターの原典のほか、知名度の高さに反してその実態がよく知られていない「人工生命体」についてもご紹介します。


■文・たけしな竜美
 オタク系サブカルチャー、心霊、廃墟、都市伝説、オカルト、神話伝承・史実、スマホアプリなど、雑多なジャンルで記事執筆、映像出演、漫画原作をしています。お仕事募集中です!
Twitter:https://twitter.com/t23_tksn

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