強敵は内村、MISIA、大橋の3人だった——!? 映画『SING/シング』日本語吹き替え版演出・三間雅文氏インタビュー

5月4日(木)20時0分 おたぽる

(C)Universal Studios.

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 動物たちが暮らす世界を舞台に、倒産寸前の劇場を再建すべく奮闘する劇場支配人のバスター・ムーンをはじめ、さまざまな事情を抱えながらも歌手を夢見る動物たちが活躍する映画『SING/シング』。

 全世界で空前の大ヒットを記録した『ミニオンズ』(15年)『ペット』(16年)に続く、ユニバーサル×イルミネーションのタッグに加え、吹き替え版キャストには、内村光良、MISIA、長澤まさみ、大橋卓弥(スキマスイッチ)、斎藤司(トレンディエンジェル)、山寺宏一、坂本真綾、田中真弓、宮野真守、大地真央ら、俳優、アーティスト、そしてアニメファンにはおなじみの声優陣まで豪華な面々が集結。公開前から映画ファンのみならず、アニメファン・声優ファンからも注目を集めていた。

 公開から7週経った今もなお劇場には多くの人がリピーターとして足を運び、累計興行収入は早くも46億円を突破するなど、歴代イルミネーション作品で史上最高のスピードで勢力を拡大し続ける本作。「おたぽる」では、日本語吹き替え版の演出を担当した三間雅文氏に、吹き替え版『SING/シング』が完成に至るまでの過程や苦労、そしてキャスト陣の裏話までたっぷり話を伺った。

* * *

——まず三間さんが、本作で演出を務めることになった経緯を教えてください。

三間雅文(以下、三間) 僕が長い間お世話になっているプロデューサーからご連絡をいただいて。作品資料をもらったんですけど、僕英語がわからないんで、「『SING/シング』っていう映画なんだ〜」ぐらいに思いながら会いに行ってみたら、試写室に連れて行かれて、わけもわからないまま映画を観させられて(笑)。

——そのときは字幕版だったんですか?

三間 いえ、全編英語版です。最初のほうはセリフが全然ないので、字幕版だと思って観ていたのに、後のほうになって、「あれ? 字幕ないんだ。このパイロットは何分なんだろう」と。ワイヤーフレームとか未完成だったので、10分ぐらいのフィルムだろうと思っていたんですが、100分くらいあって(笑)。でも、最初は“観させられた”という印象だったのが、英語がわからなくても面白かったんですよ。わからないのに泣ける。「何だったんだ?」という気持ちのまま打ち合わせが始まって。

 でも、その後で一度お断りしました。外画(声優業界用語、日本外で制作された映像作品のこと)の吹き替えはずっとやってこなかったし、あえて踏み込まなかったんです。

 でもそれをこの映画に誘ってくれたプロデューサーに言ったら「お前はもう30年やってきてるんだから、ただ怖いだけ。新しいことに踏み込め」と。近年の声優ブーム、アニメブームを受けて、「『SING/シング』も小さいエリアの中だけじゃなく、もっともっと拡げていく意味でお前を呼んだんだ」って言われて。僕にはそういう使命があるんだなと思い、「やらせていただきます!」と返事をしたのが最初ですね。

——ということは、三間さんにお声がかかったときには、アニメで活躍されている声優を起用しよう、という大枠はある程度決まっていたんですね。

三間 途中から参加したので詳しくは知りえませんが、おそらくそうだと思います。そこから先は、僕が普段アニメを主戦場とされている声優さんたちの中で、歌唱力があるのは誰かっていうのを考えていったわけです。

 ただ歌のプロではありませんので、声優さんがどれだけ歌が上手いかっていうのはあまり分かりませんし、そこはこの映画に誘ってくれたプロデューサーが過信したのかもしれません(笑)。チームに入ってから慌てて資料を見たり、いろんな人に意見を聞いて候補を集めていきました。

——では、山寺宏一さん、坂本真綾さん、田中真弓さん、宮野真守さんといった声優のみなさんは三間さんのご人脈でキャスティングを?

三間 “人脈”と言うとなんだか偉い感じに聞こえますが(笑)、一応候補は出させていただいて、オーディションをさせていただいて。というのも、各キャラクターにアメリカのスタッフがキャラクターにどんなイメージを持っているのかが、僕にはわからない。

 だから、候補を出すにしても、リアルなお芝居ができる方、元気で活発なイメージを与えることができる方、そして何でもできる万能タイプの方と、3方向から候補を出したりとか工夫しました。結構な大御所の方にもオーディションに参加してもらっています。

 その上で、たとえばベテランの田中さんには「すみません、僕、吹き替えは初めてなので、どうやったらオーディションに受かるのか、僕にも分かりません」と素直にいって相談させてもらったりもしました(笑)。田中さんはたくさん外画も経験されているので、「これは原音に似せなきゃダメなのよ!」って。あれは大きかったです。

——基本的にはオリジナル版キャストの声や歌声に寄せていくということですか?

三間 そうですね。そこを外してしまうといけないので、なるべく外画の歌手の方たちの骨格を見て、似ている人の中から選出したり。それプラス、声がそっくりなだけじゃなくて、「こういうコースをお持ちの方を使うと面白いですよ」という変化球も入れたつもりです。日本語の“間”が、アメリカの“間”と同じかどうかは僕にはちょっと分かりませんが、この人だったらこっちがコントロールして、ある意味面白いものを引き出せるかなっていう可能性を持っている人を候補に入れました。

——その結果、歌もお芝居も上手で実力のある、アニメファンはもちろん、エンタメ好きなら、大抵の人が知っているだろう顔ぶれが揃いました。今回の作品では、音楽プロデューサーに蔦谷好位置さんのお名前がクレジットされていますが、三間さんは、具体的にどのようなことを担当されたのでしょうか?

三間 パート分けをしていて、歌の部分は全て蔦谷さんにお任せしているんです。「収録に来て下さいよ」と声をかけていただいたり、最初は音楽の方のスケジュールも全部出していただきましたが、蔦谷さんと最初にお会いしたときに、どう見ても僕より年が下だなって思ったんですよ。僕が年下だったときに年上の方がきちゃうと、萎縮してしまうなと。「どうですか?」って蔦谷さんが気を遣ってくださるのが頭に浮かんでしまって。そうすると、蔦谷さんが作ったものじゃなくなってしまうと思ったので、歌唱シーンや音楽シーンは蔦谷さん、演技パートはこちらが担当するという形で分かれました。

 一箇所だけ、最後のライブシーンでキャラクターたちが大勢で歌うところがあって、そこだけ、僕らが録っているときに蔦谷さんがいらっしゃって歌唱指導をしていたんです。そのとき初めて蔦谷さんの仕事を目の当たりにしたんですが、彼のディレクションを見て「すごい!」ってものすごく感動して。ミックスの作業は2人での共同作業になるので、より信頼関係を築けて、コミュ二ケーションも取れました。

 5、6回しか会っていないのに、最終日が終わった後に「飲みに行きましょう!」って、みんなで大パーティーをしたんです。そんな現場は今までなかったので、「短期間でみんなで一つになった、楽しかったな」というのがこの作品の印象ですね。

——“歌”がテーマだった『マクロスF』の印象も強いので、そのあたりも起用された理由の一つなのかなと思っていました。

三間 僕に声を掛けてくださったプロデューサーは『マクロスF』自体は知っているでしょうけど、僕がやっていたと知らないんじゃないかな……(笑)。また『マクロスF』で言うと、実は歌パートは担当していないんです。例えば、疲労困憊しながらシェリル・ノームが「私が……」って立ち上がって歌うシーンも4小節まではこっちで録りますが、そこから先は歌唱音源とつなげているんですよ(笑)。

——『SING/シング』も音楽映画なので、セリフと音楽が混ざっているというか、境界線が曖昧なシーンもありますが。

三間 そうですね。例えば、マイク(ジャズ・ミュージシャンのネズミ/演:山寺宏一)が風に飛ばされそうなときに、歌の途中で「んっ!」「あっ!」と叫ぶシーンがあるんですが、あれは山寺さん流石でしたね。

 違和感なく繋がって聴こえていると思いますが、「んっ!」「あっ!」っていうリアクションを最初に録って、後から歌を重ねているんですよ。歌を最初に録ってからリアクションを重ねるのは、歌を聞きながらその高揚感の中でリアクションをすればいいので簡単だと思います。でも、その逆だと、最初にリアクションを録っているから、歌の終わりにいくまでそこのテンションが分からない。そこで帳尻を合わせる山寺さんってやっぱりすごいなと改めて思いました。

 アフレコが終わった後に、山寺さんの車に乗せていただいたんです。そしたら、車内でずっと「マイ・ウェイ」(劇中で山寺演じるマイクが歌うフランク・シナトラの楽曲)を聞いているんですよ。おそらく自宅のお風呂とかでも聞いているんだろうなと思います、それくらいストイックな方なんですよ。あれだけのキャリアがあれば、「もう必要ないんじゃない?」って思っちゃいますが、ただモノマネするんじゃなくて、自分の「マイ・ウェイ」にしようとしているのが見えて、やっぱりこの人「超プロ」だなと。相当なストレスだったと思いますよ。

——その他のキャストさん方で印象に残ったエピソードがあれば教えてください。

三間 最初、ヒツジのエディを演じた宮野さんは、2パターン録らせてもらったんです。エディって、最初から宮野さんっぽいなって思っていたんですよ、なんとなくですが(笑)。宮野さんとは『ポケットモンスター』で4年近くご一緒していて、そのときの彼の佇まいがすごくエディっぽくて。「そのまんま、ナチュラルな宮野さんでやってもらっていいですか?」とお願いしました。

 もう一つは、エディってヒツジなので歯周りがすごく大きくて、喋りにくいっていうのがあって、「歯を意識してやってもらっていいですか?」と。「コミカルにですか?」って聞かれたので、「ちょっと作り込む方向で。この子の印象を強めたいんです」って2つを録って、アメリカに送りました。2つ目の作り込んだほうをやらせたときに、宮野さんってあんまりそういう芝居をしたことがなかったのか、楽しそうでした(笑)。

——いわゆる“イケメン”なキャラクターを演じることが多いですもんね。

三間 そうなんです。でも、そっちはノリすぎで(?)はみ出ちゃったのか、NGになってしまって(笑)。なので今回は素のほうの演技になっています。普段は飄々として見えますけど、ノッたら本当に情熱が強い彼の欲張りさが裏目に出てしまったオーディションでしたね(笑)。

 また、『SING/シング』が上映されてから、知り合いからSNSなどで感想が届くのですが、ブタの専業主婦を演じた坂本さんについては、「なぜ、坂本さんと斎藤さんの歌(テイラー・スウィフトの「シェイク・イット・オフ」)だけ吹き替えを作らなかったんですか?」ってお叱りを受けます。

 ちゃんと吹き替えていますから! オリジナル版のリース・ウィザースプーンとソックリすぎて、吹き替えしてることに気付かない人もいるぐらいなんですよね。坂本さんも舞台挨拶で、「私と斎藤さんが歌った歌は英語版だったんで、何で吹き替えて歌わなきゃいけなかったのかわかりません」ってコメントして爆笑をとっていましたが(笑)。「あれも坂本さんと斎藤さんが歌っています」って言ったら「そのつもりでもう一回観よう」って言ってくれる人も結構いますね。

 坂本さんの歌を録った後、「そっくりすぎて、イジる所無くコピーでしたよ」って蔦谷さんが言っていて。「これ録る必要あったのかな?」って思うくらい、坂本さんが原音に寄せてきたんです。こちらとしても、坂本さんだったらイケるなと思っていましたが、そういう視聴者の反応も面白かったです。

 坂本さん演じるロジータとペアを組むグンター役を演じた斎藤さんもグンター役の芝居心がすごくありましたね、やっぱ漫才もコントもやっているからでしょうか。

——シンガーに憧れるゴリラのジョニーを演じた大橋さんや、内気なゾウ・ミーナを演じたMISIAさんは、今作でお芝居に初挑戦ということでしたが、やはり三間さんが演技を指導されたんですか?

三間 僕がというより、お2人が頑張ってくれました。今回強敵だなと思ったのは、内村さんと大橋さんとMISIAさんだったんです。大橋さんとMISIAさんはお芝居を観たことがないという不安、一方で内村さんはお芝居もコントもたくさんやられているし、ドラマや映画で監督もされているし、本も出しているし……。そんな方をどう演出するか、近寄るかっていろいろ考えましたね。

 大橋さんは、まず彼の気持ちになってみて“初めてお芝居をしなきゃいけない”っていう不安なときに、どう近づいたら安心するかなと考えて。「今日はよろしくお願いします! 僕、吹き替えは初めてなんです」って先にお願いをしちゃったんですよ。“この人も初めてだったら何でも言える”っていう感じにしたほうがいいなって思って。そしたら、「僕こそ芝居初めてなんで!」「じゃあ初めて同士でなんとか2人で頑張りましょう」と。MISIAさんも同じです。僕から言うのもおこがましいんですが、大橋さんととても仲良くなれたなという気はしますね。

 2人が良かったのは、1回で裸に慣れること。アーティストの方で演技をしたことがある人って、自分の演技プランがあるからその通りに最初から洋服を着てくるんです。それは個性でもありますが、2人は演技初挑戦ということで、一気に裸になって言われる通りの洋服を着てくれて。テストで「こういう気持ちでやりましょう!」て提案したら、その通りにスッと入ってくれて。「この人たちすごいな!」って思いました。

——難敵・内村さんはいかがでしたか?

三間 内村さんは2人の真逆。いろんな経験があるから、当然演技プランも持ってくるだろうと思っていたし、みなさんのイメージ通り、すごくストイックな方なので研究もかなりされていました。「(声優なんだから)発声をちゃんとやらなきゃいけない」って、家でも練習をしていたみたいなんです。「じゃあ次回からもっとフランクにいきましょう!」ってゆるくゆるく、ほぐしていきましたね。

 MISIAさんと大橋さんは、元々エンターテイナーなので何回もやると、どんどん膨らまし始めるんですよね。だからこの2人はほぼテストでOKなんです。MISIAさんなんて、本番は一個も使っていません。本人も最後には気付いて、「私、テストが一番いいみたい」って(笑)。

 一方で内村さんだけは何回もやって、ある意味“疲れさせる”というか、自分の演技プランに挑むことを辞めさせるくらい何度もやりました。そうやって、和ませていって、この3人という強敵をなんとか『SING/シング』の世界に入れることができたかなと。

——ロック好きなヤマアラシの少女・アッシュを演じた長澤まさみさんはいかがでしたか?

三間 僕は『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』でご一緒させていただいているので、もう言うことはありません!(笑) 僕はお芝居しか聴いたことがありませんでしたが、歌唱のほうも蔦谷さんたちが「長澤まさみは最高ですから!」って太鼓判を押していて。実際に歌を聴いて完璧でしたね!

——「新しいことを」と『SING/シング』オファーを受けたというお話でしたが、振り返ってみて、手ごたえはいかがでしょうか?

三間 「今度はこうしてやろう」っていうのが浮かんでくるので、新しいことにチャレンジできたかなという気はします! 4カ月くらいやっていたんですけど、やっているときは辛かった。今終わってインタビュー受けていて楽しいことが語れますけど、途中でインタビューを受けていたら「早く終わりたいんです」しか言えなかったです(笑)。

 最初は難しくて断ったのに、でも、やってみたら最終的には楽しかった。「新しいことに踏み込め」とこの映画に誘ってくれたプロデューサーが言っていたのは、こういうことだったのかなと。どん底までとはいきませんが、僕からすると、『SING/シング』のキャラクターたちのように“新しいものへの入り口”に立ったような気分でした。続編の制作も発表されたので、また採用されたらいいですけどね……!

* * *

 まだ映画を観ていないという人は、急いで劇場に足を運び、吹替版キャストの熱演、熱唱をその目と耳で確かめてほしい。すでに映画を観たという人も、字幕版、吹き替え版の両方を見ることで、より『SING/シング』の世界を楽しむことができるだろう。


■映画『SING/シング』(原題:SING)

公式サイト:http://sing-movie.jp
TOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー
配給:東宝東和

■監督/脚本:ガース・ジェニングス
■製作:クリス・メレダンドリ、ジャネット・ヒーリー
■吹替え版/演出:三間雅文 日本語吹替え版音楽プロデューサー:蔦谷好位置 日本語歌詞監修:いしわたり淳治
■日本語吹替え:内村光良、MISIA、長澤まさみ、大橋卓弥(スキマスイッチ)、斎藤司(トレンディエンジェル)、山寺宏一、坂本真綾、田中真弓、宮野真守、谷山紀章、水樹奈々、大地真央

(C)Universal Studios.

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