オードリーと素人の雑談番組『オドぜひ』 なぜ飽きないか

5月4日(土)16時0分 NEWSポストセブン

 感動を呼んだプロポーズで話題になった芸人オードリー春日俊彰。相方の若林正恭も大号泣で祝福したが、一週間も経たないうちに春日が女性をお持ち帰りしていたスキャンダルが飛び出した。もっとも、二人は深夜のラジオ番組で、スキャンダルもしっかりネタに昇華していた。彼らの個性が存分に発揮されている名古屋・中京テレビ制作の番組『オードリーさん、ぜひ会ってほしい人がいるんです。』と東京在住にも関わらず出会ってしまったイラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、なぜこの番組がオードリーらしさにあふれているのかについて考えた。


 * * *

 先日、オードリー春日俊彰の結婚が発表された。売れていない時代を支えてくれた彼女が糟糠の妻となる。出来すぎたラブストーリーは大きな感動を呼ぶ。ここまで祝福された芸人の結婚は陣内智則藤原紀香以来か……。幸福なニュースはオードリーを国民的芸人と呼んでもはばからない存在へと押し上げた。


 そんな最中、FRIDAYに掲載されたのが春日の醜聞。「春日が余計なことをするから、すでに書いていた上記のコラム枕が台無しじゃないか!」と僕の中に八つ当たり的な怒りがふつふつと湧いている。結果、春日の好感度は早々落日。そこに人生の春秋を見た! ポカポカ陽気の春から夏、秋を飛ばして極寒の冬へ。ただ、一筋縄でいかないから春日は芸人としては魅力的なわけで……、トゥース!


 そして、コラムは進む。


 2年前まで僕はオードリーの熱心なファンだった。彼らが登場するテレビ、ラジオ、出版物の大方をチェック。 “じゃり”くさい子供じみた言い方をすれば「一番好きな芸人はオードリー」だったわけ。しかし、ある時期から若林正恭のある立ち振る舞いが気になるようになった。


 2008年の『M-1グランプリ』で準優勝し、世間に認知されたオードリー。当初、注目されていたのはキャラの濃い春日で、若林は典型的な“じゃない方芸人”として機能していた。1年後、そんな若林にブレイクの機会が訪れる。それが“人見知り”というキャラクターの開拓。「社交性がなくてもいいじゃないか!」とアジテーションし、大きな反響を呼んだ。“人見知り”をキャラ化することに成功する。


 そンな若林に共鳴し自身を“人見知り”だとアピールする人も増加。世の中には『アメトーーク!』のやりとりをまんま再現し、それをコミュニケーションとする人が意外に多い。しかし、若林は一般的な“人見知り”と異なる。そこに気づかないのが自称“人見知り”軍団。テレビで社会性のなさを語ることは、一般社会で“人見知り”を自己申告することと違う。若林のように客観的な視点を持ち、社会性の低さを話芸にできる人はまずいない。つまり、一般社会では“人見知り”だと知られることは得にならない。もちろん、キャラにもならないのだ。 若林は芸歴を重ねるごとに“人見知り”キャラを薄めていった。いつの間にか、真逆の“人たらし”キャラへと転向。今となっては堂々たる人気司会者になっている。つまり、上手に“やってんなぁ”と思った。


 以上が気になった理由である。しかし、春日の結婚を祝して号泣する若林を見て、そんなことどーでもよくなった。


 結局、オードリーが好き。


 ここ数週間、久々に2人が出演する番組をディグる日々を送る。「やっぱ面白いな」と腹を抱えるなかで、中京テレビで放送されてきた『オードリーさん、ぜひ会ってほしい人がいるんです。(通称:オドぜひ)』が4月から全国放送となっていたことを知った。


 今まで、中京テレビが提供するアプリ『Chuun』で配信されるダイジェスト版でガマンしていた身。『オドぜひ』が気軽に観られるようになるとは嬉しい限り!


『オドぜひ』は視聴者参加型の番組である。投稿者から寄せられる「オードリーの2人と会わせたら面白いと思う人」というクチコミから春日、若林が気になったモノを選ぶ。スタジオに招かれた投稿者は2人とトークセッション。司会者が自ら選んだ素人をもてなす稀有な番組だと云える。


 しかし、素人といっても集まるのは市井の変人達。子供を除いて、普通の人はまずいない。クチコミの内容も「ニートなので彼氏と話すネタがない(25歳・女性)」「童貞だということをカミングアウトしたい(23歳・男性)」「自己流のモテテクを見て欲しい(15歳・女性)」と個性豊か。そして、そんな変人達は総じてオードリーの大ファンである。


 タレントとファンの交流会といった様相を見せる『オドぜひ』。南沢奈央との交際を知った上で若林にアプローチをかけにきたガチ恋勢もいた。内容はとことん私的だ。


 情報バラエティばかりが増えた昨今、観ても役立たない珍しい番組でもある。クチコミを軸にトークは展開されるが、結局どこまでいっても雑談。オードリーと素人がたわいのない話をするだけ。しかし、こんなところが素晴らしい。元来、雑談とは贅沢な遊戯。余裕が無ければ成立しない。会話をする相手選びも重要、つまらない人と話し続けるのは苦痛でしかない。


 2012年に番組がスタートしてから7年、オードリーは素人との雑談に付き合い続けている。「飽きないのか?」とお考えになる方もいるだろう。しかし、番組を観続けていると分かってくる。本当の面白さを持っているのは素人だということを!


 番組には「ぜひらー」と呼ばれる常連もいる。しかし、そのほとんどが1回限りの出演だ。素人は憧れのオードリーに自身の人生で獲得したベストネタを一球入魂。産地直送、天然物とも言えるネタが提供する。“面白い”という答えを逆算して番組が作られていくバラエティとは真逆の産物。『オドぜひ』はスタッフの手で過剰な演出される養殖的要素が少ない。 余談だが経験談をひとつ。


 過去に何度か、出身校である美大のネタを提供して欲しいとテレビ番組に頼まれた経験がある。ある時、スタッフから「ヌードデッサンって、お金が欲しい学生がクラスメイトから集金して、バイト感覚で脱ぐんですか?」と聞かれた。考えなくともわかる、今日日そんなことをすれば美大は大炎上する。ヌードファンディングなんてありえない。


 僕は「ヌードモデルは専門の事務所を通して呼ぶんですよ」と答えた。しかし、製作者からすれば刺激が足りなかったらしい。「本当に美大生は脱がないんですか?」と何度も聞いてくる。正しい情報を捻じ曲げようとする態度が気にくわない。誤った情報は僕の名前で発信される。スタッフはリスクを抱える人の気持ちを全く考えていない。


 僕はキツく言い返せたが、継続的な出演を望むタレントならばそうはいかない。無茶振りに応え続け、悪い意味で番組の駒となるタレントもいるハズ。そんな“付け焼き刃”なトークは、もう視聴者に見抜かれている。素人の一球入魂に負ける。


 しかし、天然物の素人のトークが光るのはオードリーの腕あってこそ。2人共に一流の雑談力を持っている。会話の上手さもさることながら、自分の話を聞いて欲しいと思わせる魅力がある。これは芸人ということよりも人として豊かな証拠だ。


 超売れっ子芸人のオードリーだがカリスマ性は薄い、どこか一般人に近い感覚を残している。親しみやすいイメージがあるため『オドぜひ』に出演する素人は、どこかで2人をなめている。「我々のこと下に見てるじゃないですか!」とツッコミつつ、春日と若林はどうでもいい話を楽しむ。そこに、そこはかとない大人の余裕を感じる。


 この番組は、いわばバー「オードリー」。2人はカウンターに居座る常連もテーブルに座る一見に対しても隔てなく対応していく。こんなバーに似合うのは、タレントの話芸より素人の本音だろう。


 ここまで『オドぜひ』の面白さを熱弁してきた。しかし、名古屋放送圏に住んでいない僕はフルサイズ版の視聴経験がほぼない。前述のアプリ『Chuun』で配信される最新のダイジェスト版、YouTubeチャンネルにアップロードされた過去のダイジェスト版を観てきた。それでも番組のファンを続けてこれた理由は、短い時間内にオードリーの魅力が映っていたからだろう。


 ひと昔前まで、ローカル放送を手軽に観られる機会はなかった。それこそ、ローカル放送に好きなタレントが出演した際は、放送地域に住む友人に録画をお願いしていた。ビデオを郵送してもらい、やっと観ることができる。しかし、現在では地方局が積極的にインターネットで番組展開。非放送地域でも楽しめる機会が増えた。出会える番組数も桁違いである。そのなかに『オドぜひ』もあった。


 オードリーの魅力を生かした番組が全国放送となることは喜ばしい。放送地域が拡大したからといって変わらないことを望んでいる、『オドぜひ』限ってありえないと思うが。過剰な演出がスタッフの手でされないように、と……祈っている。



●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)

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