村上“ポンタ”秀一でしか成し得なかった記念碑的作品約100人の有名音楽家が集結した『Welcome to My Life』

2021年5月5日(水)18時0分 OKMusic

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今年3月に亡くなられたドラマー、村上“ポンタ”秀一のアルバムを紹介する。1970年代前半からプロとして活動を始め、数多くの有名アーティストのライヴ、レコーディングをサポートしてきた氏。レコーディング総数は1万4,000曲以上と言われる日本を代表するトップドラマーだ。そうしたサポート参加作品以外でも、そのキャリアのスタートである赤い鳥、自身のバンド、PONTA BOXの他、さまざまなユニットで音源を残してきた氏だが、その偉大さを知ってもらうには、『Welcome to My Life』が最も分かりやすいのではないかと思う。

デビュー25周年記念の超豪華盤

村上“ポンタ”秀一(以下ポンタ)のデビュー25周年を記念して1998年に発表されたアルバム『Welcome to My Life』。長らく廃盤になっていたようであるが、先月、再プレスされた模様だ。高値で取引されることもあったそうなので、ようやく適正価格で購入できることを喜んでいるファンも多いではないだろうか(ネット上ではまだ高値が付いているところもあるようなのでご注意を)。というか、音楽ファン、特に日本のポップス、ロック好きを自認する人であれば、この機会に本作を手に入れないという選択はないのではないかとも思う。決してマニアックな作品ではないので、一家に一枚あってもいいのではないかと、やや大袈裟かもしれないがそう思ったりもする。

以下で収録曲を解説していくが、その前に言っておくと、山下達郎矢野顕子井上陽水大貫妙子沢田研二、忌野清志郎、桑田佳祐(※並びはアルバム収録曲順)という日本音楽史にその名を遺す、これだけのヴォーカリストたちがゲスト参加したアルバムは間違いなく本作だけだ。ギタリストにしても、白井良明、CHAR、仲井戸“CHABO”麗市、渡辺香津美、高中正義と(※並びはアルバム収録曲順)、レジェンド級ばかりが並ぶ。主だった方の名前を挙げただけでもインパクトは相当だろう。CDの裏ジャケに参加ミュージシャン全員がずらりと紹介されていて、その様は圧巻である。しかも、本作は深夜のTVショッピングで紹介されている“昭和のベストヒット”みたいな既発曲を集めたコンピレーションではなく、ほとんどがカバー曲ではあるものの、本作用のセッションを収録したものだ。おおよそ20年前だったとはいえ、それにしてもこれだけのメンバーを集めるのは尋常じゃなかっただろう。この事実だけでも、いかにポンタが大勢のアーティストに可愛がられ、慕われていたのかが分かろうかと言うものだろう。

ここから『Welcome to My Life』を解説していくが、そうは言っても、“このヴォーカルのシャウトが…”とか“流れるようなギターソロが…”とか細かく述べる必要もないと思う。もちろん、気になった箇所は取り上げるが、多分“ここが…”“あそこが…”とやっていくとキリがない。いつものように詳細は語らない。特に歌詞に関しては割愛する。また、楽曲毎に参加ミュージシャンが異なるだけでなく、ジャンルもスタイルも異なるので、例えば、“M2とM7とで見せるベースにこの人らしさが光る”みたいな分析もできないというか、あんまり意味がない気もするので、楽曲毎にその概要を含めて説明していくのがいいと思う。その方が、駄文をこねくり回すよりも、本作ならびにポンタの凄さがより伝わるはずである。

1.JACO PASTORIUS MEDLEY

【参加ミュージシャン】バカボン鈴木(Ba)、佐山雅弘(Key)、三沢またろう(Per)、ヤヒロトモヒロ(Per)、村田陽一(ソリッドブラス)、村田陽一(Trb&B.Tb&Euph)、山本拓夫(B.Sax&B.Cl&Picc)、本田雅人(A.Sax)、竹野昌邦(T.Sax)、小池修(S.Sax&T.Sax)、西村浩二(Tp)、荒木敏男(Tp)、佐藤潔(C.C.Tu)
音楽ファンならその名を知らない人はいないであろう、天才ベーシスト、JACO PASTORIUSのカバー(「SOUL INTRO」〜「THE CHICKEN」〜「ELGUANT PEOPLE」〜「LIBERTY CITY」)。ド頭の音からすでに圧巻。その超豪華ブラスセクションと対峙して会話するように叩かれるポンタのドラムの何と軽快なことか。ピリリと効いたパーカッションもさすがの存在感を示している。

2.I WANT YOU BACK

【参加ミュージシャン】NOKKO(Vo)、白井良明(Gu)、バカボン鈴木(Ba)、佐山雅弘(Pf)、斉藤ノブ(Per)、亀淵友香(Chor)、MOCA(佐藤涼子、三松亜美、窪田玉緒)(Chor)
 The Jackson 5のデビュー曲…というよりも、米国モータウンレーベルを代表するナンバー。NOKKOの歌声が子供の頃のMichael Jacksonにそっくりなのも驚き。演奏もカバーというより完コピといった代物だ。

3.TRAVELLING

【参加ミュージシャン】近藤房之助(Vo)、Char(Gu)、バカボン鈴木(Ba)、佐山雅弘(Pf)
 サックスプレイヤー兼キーボーディストのRay Gaskinsのナンバー。これをライヴの定番曲にしている近藤がPONTA BOX、Charとともに行なったセッションだ。ラストの笑い声は近藤だろうか? 演奏の満足度が相当に高かったことがうかがえる。ギターソロに沿ったドラムのフィルが示す高揚感がたまらない。知らない人も多くなってきたかもしれないので、念のために説明すると、近藤は「おどるポンポコリン」のB.B.クィーンズの髭のヴォーカリスト。

4.I'VGUOT YOU UNDER MY SKIN

【参加ミュージシャン】山下達郎(Vo)、バカボン鈴木(Ba)、佐山雅弘(Pf)
もともとは1936年に発表された映画の挿入歌で、Frank Sinatra、The Four Seasonsのカバーが有名。歌はどこからどう聴いても山下達郎で、PONTA BOXとの絡みの素晴らしさも言うまでもない。特に、柔らかく、滑らかに、流れていくようなポンタのドラムが、シルキーな達郎の声にマッチしている印象。中盤の歌唱がどこか楽しそうな雰囲気に思えるのは気のせいだろうか。

5.青い山脈

【参加ミュージシャン】矢野顕子(Vo&Pf)、山下洋輔(Pf)
 西條八十作詞、服部良一作曲の昭和を代表する歌謡曲。言うまでもなく、矢野顕子のヴォーカリゼーション、山下洋輔のソロ、それぞれに個性的なジャズアレンジを見せる。ポンタの優しいドラミングが歌もピアノも壊していない印象がある。

6.OH!DARLING

【参加ミュージシャン】井上陽水(Vo)、大村憲司(Gu)、岡沢章(Ba)、佐山雅弘(Pf)
陽水のまったりとした歌声に、ゆったりとした演奏が合っていて、“The Beatlesナンバーのジャズアレンジも、これはこれでありかも…”と聴き進めていくと、途中から一転、ロッカバラードに展開。シームレスにロックへと変貌していく。再びジャジーに戻るが、そのアレンジの妙、アンサンブルの妙が面白い。

7.JANE BAIRKIN MEDLEY

【参加ミュージシャン】大貫妙子(Vo)、森まどか(Vo)、EPO(Vo)、佐山雅弘(Pf)、伊丹雅博(Gu)、江藤勲(Ba)、岡本エリ(Vn)、村田幸謙(Vn)、鈴木民雄(Vla)、矢島富雄(Vc)、阿部雅士(Vc)、南浩之(F.Hr)、中島大之(F.Hr)
 エルメスのバッグ“バーキン”の由来となったと言われる女優で歌手のJane Birkinのカバー(「YESTERDAY YES A DAY」〜「LES DESSOUS CHICS」〜「BALLADE DE JOHNNY-JANE」〜「DI DOO DAH」)。贅沢なヴォーカリストの顔合わせで、ポップに、セクシーに、キュートに、バラエティー豊かな楽曲を披露している。それ故にドラムもさまざまな表情を見せ、軽快さと重厚感が同居する様子は、不世出のドラマーの凄さを実感できると思う。アウトロで聴かせる8ビートのドラムが艶めかしい。

8.津軽〜南部俵積み唄

【参加ミュージシャン】香西かおり(Vo)、二代目高橋竹山(三味線)、仙波清彦(Per)、ASA-CHANG(Per)、伊藤薫(Pf)
三味線との共演というだけで興味深いのだが、両者によるド迫力の演奏は“競演”と呼ぶべきものだろう。ふたつの楽器だけがぶつかり合う、言ってしまえばシンプルなアンサンブルなのだが、その緊張感たるや筆舌に尽くし難いとはまさにこのこと。香西かおりが歌う「南部俵積み唄」はデジタルな音も配されている上、南米っぽいリズムを取り入れたり、インプロビゼーションっぽい演奏もあったりと、どこか不思議な民謡に仕上がっている。

9.IT MIGHT AS WELL STAY MONDAY FROM NOW ON

【参加ミュージシャン】山本潤子(Vo)、村上奈美(Vo)、大村憲司(Gu)、高水健司(Ba)、野力奏一(Pf)、三沢またろう(Per)
ポンタのプロドラマーとしてのキャリアのスタート地点と言えるバンド、赤い鳥。その7枚目のアルバム『美しい星』の収録曲。オリジナルとメンバーも変わっているし、細かい箇所は微妙に違うものの、全体の聴き応えは驚くほどに変化がない。意識的に変えなかったのだろう。サビのメロディーに絡む大村憲司のギターが本当に素晴らしい。

10.TIME IS ON MY SIDE

【参加ミュージシャン】沢田研二(Vo)、大村憲司(Gu)、和田アキラ(Gu)、佐山雅弘(Pf)、バカボン鈴木(Ba)
 米国のトロンボーン奏者、Kai Windingが1963年に発表したインスト曲。最も有名なのはThe Rolling Stonesのカバーで、ジュリーはザ・タイガース時代にも歌っている。ジャズを土台にロックなエレキギターを乗せ、ボーカルにもエフェクトがかかった斬新なアレンジを聴くことができる。

11.WE CAN TALK

【参加ミュージシャン】忌野清志郎(Vo)、ジョニー吉長(Vo)、仲井戸麗市(Gu)、吉田建(Ba)、KYON(Key)
 The Bandのカバーで、清志郎が日本語詞を書いている。RCサクセション、PINK CLOUD、BO GUMBOSのメンバーによるセッションというだけで熱いが、彼らが敬愛するR&B、ルーツロックを活き活きと演奏している様子が、ひたすらにカッコいい。

12.LEFT ALONE

【参加ミュージシャン】吉田美奈子(Vo)、渡辺香津美(Gu)、島健(Pf)、米木康志(Ba)
Mal Waldron作曲、Billie Holiday作詞のスタンダードナンバー。1986年、一緒に全米ツアーを行なった渡辺香津美。1987年にハードロックバンド“ザ・メーカーズ”で活動をともにした島健。そして、PONTA BOXでも共演した吉田美奈子(1998年に『PONTA BOX meets YOSHIDA MINAKO』をリリース)と、縁のある面子で、独特の「LEFT ALONE」を聴かせる。フリーキーな演奏が何とも言えぬ余韻を生んでいる。

13.ヨイトマケの唄

【参加ミュージシャン】泉谷しげる(Vo)、バカボン鈴木(Ba&Mand)、佐山雅弘(Pf&Key)
 2012年に『NHK紅白歌合戦』で披露されたことでも話題になった美輪明宏の楽曲。歌詞の問題で長い間“要注意歌謡曲”として放送されてこなかったが、この『Welcome To My Life』に収録されたことをきっかけに再評価が高まった。美輪様の歌とはまったく印象は異なるが、この泉谷版も雰囲気があって実にいい。

14.MAMBO NO.5

【参加ミュージシャン】中島啓江(Vo)、高中正義(Gu)、小原礼(Ba)、国府弘子(Pf&Chor)、MALTA(A.Sax)、大儀見元(Per&Chor)、高橋ゲタ夫(Per&Chor)、ペッカー(Per&Chor)、BIG HORNS BEE(フラッシュ金子(B. Sax & T.Sax)、Orita Nobotta(A.Sax)、河合わかば(Tb)、Fussy Kobayashi(Tp)、Himarayan Shimogami(Tp))
 最も有名なマンボの曲で、高中正義が1977年のアルバム『TAKANAKA』でも披露(その時のドラマーもポンタで、ベースも小原礼)。つまり、カバー曲のセルフカバーということになるだろうか。もともと明るい曲がさらに明るくなっている印象で、それは中島啓江のヴォーカリゼーションも大きく寄与していることは間違いない。ちなみに中島もポンタも『三宅裕司のいかすバンド天国』で審査員を務めており、このセッションはそれがご縁であった模様。

15. THE WHITE ROOM 〜SUNSHINE OF YOUR LOVE〜 KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR

【参加ミュージシャン】桑田佳祐(Vo&Gu)、中シゲヲ(Gu)、バーべQ和佐田(Ba)、KYON(Pf&Key)、前田康美(Chor)
 CreamとBob Dylanのメドレーのような表記だが、中身はほとんど「KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR」。ポンタは“半ば桑田を脅しながら”実現したセッションだったと振り返っていたようだが、“やっぱりヒロシ(=サザンオールスターズのドラマー、松田弘)のほうがいいや”と笑う桑田流の軽口に、桑田自身も乗ってレコーディングしていたことがうかがえる。その軽口の一方で、きれいなハーモニーを聴かせるアウトロには丁寧なミュージシャンシップがあり、先輩アーティストへの敬愛を感じるところ(そのあとのポンタ、桑田の会話は信頼関係の証し)。

16.WELCOME TO MY RHYTHM 〜嵐を呼ぶ男

【参加ミュージシャン】菅沼孝三(Dr)、森高千里(Dr)、東原力哉(Dr)、真矢(Dr)、村石雅行(Dr)、森山威男(Dr)、神保彰(Dr)、日野元彦(Dr)、仙波清彦(Dr)、青山純(Dr)、仙波清彦(Dr)、テツモトケンジ(Dr)、れいち(Dr)、江藤勲(口太鼓)、GRACE(口太鼓)、ゴンガー中根(口太鼓)、佐々木裕(口太鼓)、ちびしょうこ(口太鼓)、富田京子(口太鼓)、沼澤尚(口太鼓)、Miki Tsunoda(口太鼓)、Mitsuko(口太鼓)、吉沢和久(口太鼓)、犬丸太夫(声の出演)、浦島猛(声の出演)、斉藤麻美(声の出演)、野末美奈子(声の出演)
 10分以上に及ぶドラムソロのリレー。ヴォーカルやギターとは違い、ドラマー同士はバンドの垣根を超えた横のつながりが強いとは聞くが、これだけのメンバーがポンタの25周年を祝ったことは、その何よりの証しかもしれない。ドラムの音だけというマニアックな構成ではあるが、今、誰が叩いているかを紹介する声が入っていて、飽きさせない工夫はされている。

こうして簡単ではあるものの、一曲一曲を振り返ると、本当にバラエティーに富んだ楽曲が収録されていることを実感せざるを得ないし、これだけのアーティストがひとつの作品のまとまっていることの凄さを改めて知るところである。よくぞ、一作品にまとまったものだと思うが、言うまでもなく、それはそこにポンタがいたからこそ、名立たるアーティストが結集したのである。ドラムはバンドの要とよく言われる。村上“ポンタ”秀一は邦楽シーンにおける要であったのだろう。

アルバム『Welcome to My Life』

1988年発表作品

<収録曲>
1.JACO PASTORIUS MEDLEY
2.I WANT YOU BACK
3.TRAVELLING
4.I'VGUOT YOU UNDER MY SKIN
5.青い山脈
6.OH! DARLING
7.JANBAIRKIN MEDLEY
8.津軽〜南部俵積み唄
9.IT MIGHT AS WELL STAY MONDAY FROM NOW ON
10.TIME IS ON MY SIDE
11.WE CAN TALK
12.LEFT ALONE
13.ヨイトマケの唄
14.MAMBO NO.5
15.THE WHITE ROOM〜SUNSHINE OF YOUR LOVE〜KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR
16.WELCOME TO MY RHYTHM〜嵐を呼ぶ男

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