伊東四朗 「もっとウケるはず」という声が奥底から聞こえる

5月5日(日)7時0分 NEWSポストセブン

伊東四朗が演技について語る

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・伊東四朗が、役者人生をスタートさせた喜劇役者・石井均の一座で学んだ、「芝居はリアクション」について語った言葉をお届けする。


 * * *

 伊東四朗は一九五八年、喜劇役者・石井均の一座から役者人生をスタートさせる。全く経験なく飛び込んだ伊東に、石井は芝居のさまざまなことを教えた。


「いちばん教わったのは、『芝居はリアクションだ』ということですね。喋っている芝居ではなく、それを聞いている芝居が一番難しいんだ、と。それは今でも肝に銘じてやっています。


 口立ての芝居でも台本のある芝居でも、三日か四日あれば相手のセリフを覚えてしまうことがあるんです。それがよくない。


 相手のセリフが入っていると、『知っている目』になるんです。そうするとお客さんより目も口も反応が速くなる。たとえば、『〜〜なんですよ』『そうなんですか』というやりとりをするとします。その時、お客さんは最初に聞いた『〜〜なんですよ』というセリフの意味を頭のどこかで解釈をしているんです。ですから、その間を待って『そうなんですか』とリアクションしないといけない。


 でも、ついそれより速く『そうなんです』と言っちゃう。『それは不親切だ』と座長は言っていました。『リアクションは、お客さんと同じタイミングになれ』と。


 それはリアクションに限りません。相手のセリフに対して『知っている顔』はダメです。その顔になったら、ウケるところがウケなくなる。お金を払ってくるお客さんというのは凄い。一番勉強をさせてもらっています。ですから、今でも私は自分が演出したり台本を書いたりした芝居では、客席に自分を置いている心がけでやっています」


 喜劇は何よりお客さんの「ウケ」が重要である。喜劇人として、それを求める伊東の姿勢は驚くほどにストイックである。


「幕が開いてから自分の出番が遅い時は、モニターのマイクからお客さんの反応を聞いています。開幕を待つ客席のざわめきとかも聞こえるんですよ。その声で今日はどんなお客さんが多いのかを判断しています。若い女の子が多いな、お年寄りが多いな、と。そこから始めないと。


 お客さんは毎日変わるわけですからね。それに、劇場も変わる。同じ新宿でも紀伊國屋ホールとサザンシアターでは違いますし、地方は地方で全て違う。そうなると、同じ芝居でもやり方は変わります。そういう親切心がないとね。


 三谷幸喜さんの芝居を今まで何本もやってきて、一番ウケた芝居は『社長放浪記』でした。わんわんウケたんですけど、どこか違うなと思って五日目くらいを迎えていたんですよね。お客さんはワーッと笑ってくれるんだけど、『もっとウケるはずだ』という声が自分の奥底から聞こえてくるんです。


 それで、家へ帰って考えてやっと見つけたことがあって。それは佐藤B作さんのやった役なんですが、次の日の楽屋で『セリフをこう変えてくれる?』と言ってやってもらったらば、お客さんはそのほうを待っていたようにウケるようになって。


 ですから、ウケてる中にも『違うぞ』と言ったり、『いいぞ』と言ったり。それを教えてくれるのは、いつもお客さんなんですよね」


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。


■撮影:藤岡雅樹


※週刊ポスト2019年5月3・10日号

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