『Fate/Apocrypha』から学ぶ!一番わかりやすい『FGO』原典紹介(後編)

5月6日(土)17時0分 おたぽる

アニメ『Fate/Apocrypha』公式サイトより

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 大規模総合アニメーションイベント「AnimeJapan 2017」にて、『Fate/stay night』(TYPE-MOON)のスピンアウト小説『Fate/Apocrypha』(著:東出祐一郎、画:近衛乙嗣)のアニメ化が発表されました。『Fate/Grand Order』(TYPE-MOON、アニプレックス)に参戦してするキャラクターも多数登場とのことで、イベントも含め目が離せません。

 それでは、前回記事、前々回記事に引き続き、『Fate/Grand Order』にも参戦が濃厚であろう、またはすでに参戦している、『Fate/Apocrypha』に登場するキャラクターから数名をピックアップ、その原典などをご紹介していきます。


■ルーラー:ジャンヌ・ダルク(フランス)

 ジャンヌ・ダルクと言えば、おそらく知らない方のほうが少ないかと思われる、15世紀フランスに実在した人物であり、フランスの国民的英雄として今なお語り継がれている人物です。

 彼女の「どこにでもいる農民の少女であったジャンヌが、ある日母国フランスを救え、という神託を受ける。ジャンヌはそれに従って数々の試練をくぐり抜け、王や貴族たちの信頼を得て、戦場の最戦前に立ちフランスを救う。だがジャンヌを厄介に思った母国に裏切られ、敵国に捕まり魔女裁判を受け、魔女として火刑に処された」というエピソードは、あまりにも有名なところでしょう。

 ですが、ジャンヌがどのような活躍を見せたのかなど、その詳細までご存知の方は少ないはずです。今回はそれらポイントのみに焦点を当て、ご紹介して行きたいと思います。


・英雄の戦略は単純明快

 ジャンヌ・ダルクは「百年戦争で連戦連敗、絶体絶命の状態にあったフランス軍を率いて、わずか1年でフランスの大逆転勝利をほぼ確定させた」という英雄です。
 この時のフランスがどれだけ追い詰められていたかと言えば、「突破されたら敗北が確定する(現代においても、仮にオルレアンが陥落していたら、フランス全土はイングランドに征服されていただろう、と意見が一致している)要所、オルレアンを半年間に渡って完全に包囲されており、陥落は時間の問題」というほどでした。

 ですが、歴史に登場した時のジャンヌは16歳、出身は片田舎の農家でした。教育はほどんど受けておらず(ジャンヌは文盲であった)、当然ながら軍事関係の知識も持たず、武芸に優れていた訳でもありません(剣は携えていたが使ったことはなく、人は殺したことがない、と後の裁判で証言している)。かのように非力な少女が、どのようにしてフランス軍を勝利に導いたのでしょうか。

 これはひとえに「ジャンヌが無教養で戦争とも無縁だったからこそ、当時の常識にとらわれない戦い方ができた」、これに尽きるでしょう。ただしジャンヌの頭が悪かった、という訳ではありません。王への謁見や後に受ける異端審問の折、ジャンヌは明晰な頭脳によって、すばらしい言葉の応酬を見せています。

 彼女の取った戦略は至極単純なもので、可能であれば大砲などの重火器をありったけ敵軍陣営に撃ち込んでからの、ジャンヌの号令に合わせた全軍総突撃、真正面から敵の砦や陣営を粉砕する、というものです。この戦法は当時の軍人にとっては常識外れの「騎士道にあるまじき戦い方」でした。

 それまでのフランス軍が何故弱かったのかと言えば、彼らが騎士道にこだわりすぎていた上、部隊も諸侯貴族と配下の寄せ集めで、連携も統率も全く取れていなかったためなのです。騎士道に則って、砦攻めは包囲後に降参させる、野戦は名乗りを挙げてから少数部隊が各々に散発的な攻撃を繰り返す、これでは勝てるものも勝てません。

 さらにジャンヌは特製の旗と共に常に戦場の最前線に立っており、ここから「フランスを救えと神託を受けた少女が、常に最前線で自分たちを導いてくれている」と、勝利の実績も併せて兵士たちの士気は最高潮となったのです。

 完全に包囲され絶体絶命の状態にあったオルレアンをわずか1週間で開放、イギリス軍を次々と撃退し、「百年戦争」と名付けられた長い戦争に事実上の終止符を打てたのは、こういった事情もあったのです。


・異端の証拠は揚げ足取り

 ところがその後ジャンヌは国の裏切り(理由は不明だが諸説あり)を受け、ブルゴーニュ公国軍に捕まって捕虜となり、イギリスに売り飛ばされます。

 イギリスは「フランスは異端の者の助けを受けていた」という不名誉を与えようと、ジャンヌを異端審問にかけるためだけに、多額の身代金を払ってまで敵国の捕虜を引き取ったのです。

 ジャンヌに対する異端審問は、当然のことながらジャンヌに異端の烙印を押すためだけに行われました。ですが彼女は数々の悪意ある質問をことごとくかわし、言葉の罠をくぐり抜け、異端と認められるような証言を一切行いませんでした。

 長きに渡る異端審問において、ジャンヌからただのひとつも失言を引き出せず、しびれを切らしたイギリスは、当時殆ど形骸化していた「カトリックでは罪とされている女性の男装」を異端の理由に挙げはじめます。ジャンヌは「男集団の中にいるのだから男の格好をしていたほうがよい」と髪は短く切り整え、男物の服を着ていたのです。また戦場や牢獄での男装は、性的暴行から身を守るためという目的もありました。

 1年間に渡る裁判によって衰えたジャンヌは、内容の説明もないまま読めない書類に無理やりサインをさせられ、それが自ら異端を認めた、という証拠として挙げられてしまいます。これによってジャンヌは「男装をしたことを罪と認め、悔い改めた」ことになったのです。

 また、当時の異端審問のルールとして「異端を理由に処刑されるのは、罪を認めた後、もう1度その行為を行った場合のみ」という取り決めが存在していました。ジャンヌはこの後、牢獄で受けそうになった性的暴行から身を守るため、再び男物の衣類を着るようになります。

 この「男装はしないと誓ったが、それを破った」ことにより、ジャンヌは異端者(魔女)として火刑に処されたのです。彼女は最後まで十字架を求め、生きている間は常に目の前に十字架が見えるよう懇願し、死に至るまでキリストの名を叫んだと言います。火刑が済んだ後、遺体は灰になるまで念入りに燃やされ、セーヌ川へと流されました。


■黒のアサシン:切り裂きジャック(イギリス)

 不謹慎を承知で断言しますが、切り裂きジャックの犯行自体は21世紀の現代からみれば、殺人者としてのスケールや刺激はさほどでもありません。ただ単に「約2カ月の間に5人(人数には諸説あり)の売春婦を、刃物で切り裂くという手口で殺した」というだけです。

 猟奇さでは「墓から盗んだ人間女性の死体を解体し、骨や剥いだ皮を家財道具や衣服に加工していた」エド・ゲインに敵わず、人数では「津山三十人殺し」都井睦雄に遠く及ばず、残忍さでは「ミルウォーキーの食人鬼」ジェフリー・ダーマー以下と、世界に名立たる有名殺人犯と比べればかなり見劣りします。

 では、切り裂きジャックが何故これほどまでに名を知られ、今日まで語り継がれているのかと言えば、犯人が見つからず未解決であるため、犯行の動機さえ明らかではない、世界で初めて認知された「劇場型犯罪」である、第5の殺人の後ぷっつりと犯行が途切れた、現在までに20名以上の容疑者が指摘されている、果てはイギリス王家関与説、フリーメイソンの陰謀論まであるという、通常の連続殺人事件には見られない非常にミステリアスな要素が数多くあるためです。

 特に切り裂きジャックの正体については数々の説と推理があり、切り裂きジャック事件には、今なおそのミステリーに魅了された数多くの熱心な事件研究者(リッパロロジスト)が存在しています。最近では14年(日本語訳は15年発売)に『切り裂きジャック 127年目の真実』というルポルタージュ本にて、著者でもあるイングランドの起業家が私財を投じて調査を続け、DNA鑑定によって犯人を特定した、という発表がなされています(ただしDNA鑑定方法に致命的な間違いがあり、現在再調査が行われているとのこと)。


・ネーミングセンスが事件を知らしめた

 実は「切り裂きジャック」という名前は、おそらく犯人が自称したものです。第4の殺人の直後、セントラル・ニューズ・エイジェンシーという通信社に、犯人からと思われる犯行声明文が届き、その内容が大きく報道されました。手紙の差出人の真偽はともかく、手紙の中で差出人は自らを「切り裂きジャック」と名乗り、ここで”切り裂きジャック”という単語がはじめて登場するのです。

 この声明文が届くまで、この連続殺人事件は「ホワイトチャペル連続殺人事件」と呼ばれていました。日本におけるリッパロロジストの第一人者である作家・仁賀克雄は「この声明文に”切り裂きジャック”という命名がなかったら、この事件は19世紀のいち犯罪実話として、これほど多くの人々の記憶にも歴史にも残らなかったろう」と、切り裂きジャックを取り上げた著書の中で解説しています。仮に「ホワイトチャペル連続殺人事件」と、そのままの名前で伝わっていたとしたら、あなたはこの事件に興味を抱いたでしょうか?

 先述の通り、世界ではじめて認知された「劇場型犯罪」であること、数多くの容疑者や陰謀論が語られるミステリアスな未解決事件であること。そして何よりも「切り裂きジャック」というセンセーショナルな通称が付いたからこそ、切り裂きジャック事件は今日まで多くの人々の興味を引き、研究され、同時に語り継がれているのです。


■黒のランサー:ヴラド3世(ワラキア公国、現在のルーマニア南部)

 ヴラド3世は、15世紀のワラキア公国(現在のルーマニア南部)の君主であり、ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』に登場する吸血鬼「ドラキュラ」のモデルの1人として知られています。日本では「ヴラド・ツェペシュ」という名で知られていますが、これは二つ名的なあだ名であり、本名はただ「ヴラド」です。

 ヴラド3世の逸話は血生臭い残酷なものが多く、ヴラド3世が語られる場合、その残忍さばかりがクローズアップされがちです。ですが史実におけるヴラド3世は、確かに苛烈な行いこそしていたものの、それ以上にワラキア公国を立て直し繁栄させ、さらには国を守るために戦った名君なのです。


・史実と伝承が入り交じる「ツェペシュ」ヴラド3世

 紆余曲折を経てワラキア公国君主としての地位に就いたヴラド3世は、貿易の保護をはじめとする内政政策を数多く行い、国の経済を豊かにするなど、君主としての働きをそつなくこなしていました。

 ところでこの頃のワラキア公国は、家臣であるはずの有力貴族たちが幅を利かせており、君主の持つ権力はそれほど強いものではありませんでした。そこでヴラド3世は国を強くするべく、自身に権力を集めての中央集権化を図りました。彼はその最中に有力貴族たちを数多く処刑しており、その人数はその家族も含めて500人とも2000人とも言われています。

 この時に使われた処刑方法こそが、ヴラド3世の二つ名である「ツェペシュ」、「串刺し刑」です。これは巨大な串を罪人の口または肛門に突き刺した後、それを地面に突き立て、死ぬまで放置するというものです。現代の感覚から見れば残酷な処刑方法ですが、当時の西欧では広く行われていた一般的なものでした。

 ヴラド3世は確かに自身と法に背くものを容赦なく殺していますが、これは当時の権力者にとって当たり前のことでした。また国内の貧困層の虐殺も行っていますが、これは当時、浮浪者は犯罪者と考えられていたためで、ヴラド3世が他の君主たちと比べて特別に残虐であった、という訳ではありません。むしろこれら処刑などは見せしめとして大きな効果を上げ、ワラキア公国内の治安の維持と向上に貢献したといいます。

 この串刺し刑は、対立関係にあった大国「オスマン・トルコ帝国」からの侵略を受けた際に役立っています。3倍以上もある兵力の劣勢をもって、ヴラド3世と農民兵たちはゲリラ戦術と、後退の際に敵の利用できるワラキア国内の施設を自ら破壊する焦土作戦によって徹底的に抵抗、激しく戦いました。

 少しずつ戦力を削られ士気も下がっていたオスマン軍にとどめを刺したのは、ワラキアの首都周辺に立てられていた、まるで森のような「オスマン兵捕虜の串刺し」です。その数は2万にも及ぶ数と伝えられており、それを見たオスマン軍は完全に戦意を消失、撤退して行ったのです。

 実のところ、ヴラド3世にまつわる残忍な伝説の数々は、ヴラド3世を嫌っていた人々が事実を誇張して伝えた、あるいはヒントとして創作したものなのです。これによってヴラド3世は極悪人である、というイメージが定着し、ヴラド3世の死後には残忍な伝説ばかりが有名になり、悪魔のような扱いを受けるに至ってしまいました。


・原因はほぼブラム・ストーカーにあり

 ヴラド3世はもうひとつ、父ヴラド2世が「ドラクル(Dracul・竜)」の二つ名を持っていたことから、これに「子(a)」の意味を付けた「ドラキュラ(Dracula・竜の子)」という二つ名を持っていました。これは後世、キリスト教においての竜は悪魔の化身とされていた所(記事参照)から、ヴラド3世の悪魔的イメージに拍車をかけたと考えられます。

 ブラド3世自身は「串刺し公」よりも「竜の子」の二つ名を気に入っていたようで、本人直筆と思われる「ヴラド・ドラキュラ」のサインが複数現存しています。

 そして19世紀、ヴラド3世のエピソードを小説『ドラキュラ』の作者ブラム・ストーカーの聞き及んだことから、ヴラド3世は同作品に登場する吸血鬼、ドラキュラのイメージに取り込まれました。

 ただし小説『ドラキュラ』内では、ヴラド3世についてはまったく触れられていないため、モデルとなったドラキュラはともかく、ヴラド3世と吸血鬼は無縁なはずでした。ところが小説が大ヒットし、ヴラド3世がドラキュラのモデルとなった逸話が有名になると、残忍な伝承の数々と共に両者は混同されていき、徐々にブラド3世自身が吸血鬼である、という勘違いが広まってしまったのです。


——さて、いかがでしょうか。元ネタを知れば、キャラクターのエピソードや設定をより深く掘り下げられ、別の角度からも楽しめるようになるはずです。

 これら史実や伝承の元ネタにおけるキャラクターの存在を、作品を楽しむ上でのスパイスにして頂ければ幸いです。

■文・たけしな竜美
 オタク系サブカルチャー、心霊、廃墟、都市伝説、オカルト、神話伝承・史実、スマホアプリなど、雑多なジャンルで記事執筆、映像出演、漫画原作をしています。お仕事募集中です!
Twitter:https://twitter.com/t23_tksn

おたぽる

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