今上天皇退位で「天皇制は敗戦期に匹敵するほど流動化する」

5月6日(日)16時0分 NEWSポストセブン

2018年の新年一般参賀 共同通信社

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 作家の佐藤優氏と思想史研究家の片山杜秀氏が「平成史」を語り合うシリーズ。国際情報誌SAPIO誌上で行われた対談は最終回を迎え、単行本『平成史』としてまとめられた。最後のテーマは、「今上天皇の足跡」となった。


 * * *

佐藤:平成の主人公、その人はもちろん今上天皇です。2016年8月8日、今上天皇は象徴としてのお務めについて「お言葉」を発しました。つまりは「譲位」です。このお言葉をどう捉えるかが、平成史の肝になると思います。


片山:平成史の最終回にふさわしいテーマですね。


佐藤:片山さんはお言葉をどう受け止めましたか?


片山:まず考えたのは、元号の問題です。明治、大正、昭和は天皇の崩御によって元号が変わる体験を国民にすり込んで終わりました。その国民的体験の再現を、生きているうちの「譲位」により、今上天皇は自ら手放してしまった。この影響が今後どうでるのか。


佐藤:ご指摘の通り「譲位」は歴史の流れを変えるカイロス──機会になるでしょうね。「譲位」で歴史の分節を変えてしまった。


片山:退位した天皇は上皇となります。元号と天皇は変わっても、平成を象徴する上皇が存在しているとなると、二重権威というよりも二重価値になる。次の元号になっても平成的なものは終わっていないつもりになる国民はどうしたって多くなるでしょう。死による時間の切断がない分、いろいろなことがあいまいになるのではないでしょうか。上皇は日本史をさかのぼればいくらでもいますが、一世一元の近代天皇制になってからは初めてですから。


佐藤:そこで重要なのはいかに易姓革命思想を避けるか。易姓革命とは天子の徳がなくなれば、徳を持つ人が新たな天子になるという古代中国の考え方です。自らの判断での「譲位」が許されれば、緩められた形の易姓革命を考える人間が出てきてもおかしくはない。


 リーマン・ショック級の経済危機や東日本大震災級の災害が起きるたび改元を行うことも可能になる。


片山:幕末も安政、万延、文久、元治、慶応とひんぱんに改元しました。ペリー来航以来の国難がなかなか解決できないのですぐに改元していて、もうわけがわからない。それを明治以降、天皇の生き死にと結びつけて、元号を一元化した。


 先帝崩御によって新しい元号を使えば、崩御と新天皇即位による区切りを無意識のうちにでも確認することになる。国民は天皇とともに生きていることをいやでも意識する。改元が必ず大喪の礼という巨大な国家宗教的儀典と結びついてきたことも大きい。そうやって近代日本人が共有し積み上げてきた時間意識が崩れるはずです。


佐藤:その時間意識、そして天皇制がポスト平成でどうなるのか、ですね。


片山:天皇制は敗戦期に匹敵するほど流動化するでしょうね。天皇や元号が自明なものではなくなり、再定義される時代に入るのではないでしょうか。


●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究家。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。


●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。共著に『新・リーダー論』『あぶない一神教』など。SAPIO連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。


※SAPIO 2018年5・6月号

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