『正義のセ』『やけ弁』 新米なのに…無茶ぶり設定の理由

5月7日(月)7時0分 NEWSポストセブン

吉高が演じるのは「新米なのに正義感が強く頑固」な検事(公式HPより)

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 話題を呼んでいる今期ドラマ『正義のセ』(日本テレビ系)と、『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(NHK)。それぞれ、主人公が検事、弁護士だが、いずれも「新米」。にもかかわらず、弁が立つなど、“無茶ぶり”とも言える設定なのだ。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんがその狙いについて解説する。


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 この春からドラマ『正義のセ』 と、『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(以下、『やけ弁』に略)が放送されています。


『正義のセ』は吉高由里子さんが検事、『やけ弁』は神木隆之介さんが弁護士を演じていますが、特筆すべきは、ともに「新米」であること。年度初めである春だけに、「新米の成長物語を描きたい」という意図は分かるものの、そこは法律を扱い、個人の人生を左右する専門職だけに、「新米だから」という言い訳は通用しません。検事は失敗がえん罪に、弁護士は未熟さが量刑の重さにつながってしまいます。


 しかも、吉高さんが演じる竹村凛々子は、義理人情に厚い父の浩市(生瀬勝久)から、「お前は昔、正義の味方になりたいと言っていた」と言われるほど正義感が強く頑固という設定。一方、神木さんが演じる田口章太郎は、担当する中学校の教務主任・三浦雄二(田辺誠一)から「活舌がいい」と言われるシーンが何度もあります。


 ともに「新米なのに失敗が許されない職業」というだけでなく、「新米なのに正義感が強く頑固」「新米なのにやたら弁が立ち強気」というムチャぶりのような設定なのです。「周囲の言うことを聞かない」「生意気にしか見えない」など無理のありそうなこの設定には、どんな理由があるのでしょうか?


◆「新米が悪をやっつける」ギャップをさらに大きく


 検事や弁護士が主人公の作品と言えば、最大の魅力は、悪を成敗する爽快感。言わば、王道の勧善懲悪ストーリーであり、特に主人公が悪をやっつけるクライマックスのシーンは盛り上がります。


 新米である上に、ムチャぶりの設定によって、主人公の仕事はますます困難に。苦労や葛藤が増えるため、クライマックスの爽快感は相対的に大きくなっていきます。つまり、「新米が悪をバッサリ斬り捨てる」シーンに、ムチャぶりが加わることで、ギャップが大きくなるのです。


 さらに見逃せないのは、昨今の視聴者が「新米の成長物語をじっくり見届けなくなった」という理由。1話、2話あたりで、「未熟な主人公が失敗する」という消化不良気味の展開をよしとせず、「最初から成功して溜飲を下げる」ことを求めているのです。


 そのため近年は、新米が主人公の作品自体が激減。新生活のスタートである春でも新米が主人公の物語は少なく、あったとしても「検事や弁護士のような専門的なスキルを持ち、1話から成功を収める」ものなのです。今回の「正義感が強く頑固」「やたら弁が立ち強気」というムチャぶりは、成功を収めさせるための設定とも言えるでしょう。


◆年上キャラと先輩俳優の力強いフォロー


 ムチャぶりの理由がもう1つあるとしたら、年上のキャラと先輩俳優による力強いフォロー。『正義のセ』は凛々子の担当事務官・相原勉を演じる安田顕さん、『やけ弁』は前述した教務主任・三浦雄二を演じる田辺誠一さんが、対立しているように見せかけて、新米なりの足りないところをさりげなくフォローしています。 


 彼らのような経験十分のキャラと俳優を横に置くことで、事件解決への流れも、ムチャぶりの設定もよりスムーズに。主人公が新米らしい空回りや勇み足をしても軌道修正が可能のため、1話の枠内で勧善懲悪を実現できるのです。


 そもそも検事は、「失敗=犯人の処罰や更正ができず、えん罪を招くなど、社会に不安をもたらす」職業。「失敗が描きにくく、成功しか描けない」ため連ドラの題材としては難しく、検事が主人公の作品はあまり作られてきませんでした。検事が主人公というだけで難しいにも関わらず、新米という要素が加わった作品は希少。吉高さんにとっては、雲をつかむような気持ちで演じているのではないでしょうか。


 一方、弁護士は、高嶋政伸さん主演の『都会の森』(TBS系)、上戸彩さん主演の『ホカベン』(日本テレビ系)のように、新米が主人公の作品が過去にいくつかありました。しかし、『やけ弁』の田口は、「弁が立つ=活舌がいい」という俳優にとっては、技術的なプレッシャーの大きい設定のため、神木さんの役柄も難易度が高いのです。


 1話完結の痛快劇で、評判がよければシリーズ化の可能性もあるだけに、未見の人は一度チェックしてみてはいかがでしょうか。



【木村隆志】

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

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