オリックスのビジョン演出秘話 元球団職員「ジョニー」が残したもの

5月8日(火)11時0分 文春オンライン

 連日、熱戦が繰り広げられるスタジアム。観戦の醍醐味は、何といっても目の前で起きているプレーを生で感じることですよね。そして、プレーと連動するようにビジョンに映し出される効果的な映像もまた、気持ちを高揚させてくれます。


 先月は、試合前のスタメン紹介映像についてお話ししましたが、今月は試合中のビジョン演出のお話です。


 ビジョンの大型化が進み、各球団とも様々な魅力あるコンテンツで観客を楽しませてくれていますが、多くの球団ではインプレー中、打席に立っている選手の顔写真を名前入りで表示しています。“ヘッドショット”と呼ばれるもので、オリックス球団が先駆けて始めたものと認識しています。



今では当たり前の光景となったヘッドショット ©Dreamin'


 ヘッドショットをビジョンで出し始めたのは、ちょうど今から10年前の2008年シーズンでした。それまでは、インプレー中にビジョンには映像を出さないのがお約束だったのですが、前例がないことをやったので、現場はにわかにザワつきました。


 当時の京セラドーム大阪は、アナブースがグラウンドレベルにあったため(球審の真後ろあたりの位置です)、当初、何人かの球審からは「消して下さい」と指摘を受けました。映像の操作室はドームの上層のフロアにあるのですが、審判は直接伝えられないため、私たちがカスタマーサービスセンターのような役割になったのです。そういう時には、いつも「映像は動きませんので看板だと思ってください」と返していました。現場のマネージャーもグラウンドレベルで「うちはこれでやりますので」と防波堤になってくれていたらしく、ほどなくヘッドショットは、球場の“当たり前の光景”になっていました。



選手のクローズアップで場を演出


 クローザービデオもそうでした。リードしている試合の終盤、マウンドに守護神が登場してくるシーンで流れる演出の映像です。すぐにはアナウンスを被せません。映像の力で、場内の雰囲気を「さぁ、試合を締めるぞ!」というふうにもっていくわけですね。日本のプロ野球界で最初のクローザービデオが登場したのも2008年。オリックス・バファローズの加藤大輔投手でした。


 これを作り、場内へ流そうと提案したのは、かつてMLBの球団でビジョンの演出を担当したことがある、球団職員のジョニー(←日本人です)。“ヘッドショット”も、この人の仕業でした。彼は、テリー・コリンズ監督の通訳として帰国したのですが、やがて、球団内で場内演出を担当するようになった……という経歴の持ち主です。


 彼は言います。「当時は、いかに球団や選手の認知度や価値を高め、その場を盛り上げていくかを考えてコンテンツを作っていきました」と。


 ただ、NPBの試合運営の決まりでは「審判が選手の交代を告げれば、速やかに場内へアナウンスすること」となっています。私は試合を進行する立場として、彼に「決まりはこうだから難しいのではないか?」と伝えましたが、ジョニーの信念は強かった。クローザービデオを流し始めた当初は、何人かの球審に「早くコールして」と言われたのですが、これもほどなく、演出として受け入れられるようになりました。


 継続は力なり、ですね。


 その後は、坂口智隆選手やT-岡田選手、岸田護投手、平野佳寿投手をはじめとした選手個人の効果映像など、様々に裾野が広がった映像の演出がスタジアム内に浸透していったのです。




ジョニーの思いの向かう先は「場内演出を科学する」こと


 映像や音楽、ときには照明も含めた演出でショーアップされたプロ野球の世界。しかし、試合は生もので、いつも同じ状況になるわけではありません。私がアナウンスを担当していた頃のバファローズの演出は、イニングごとの基本線はあったのですが、展開によっては当初の予定を大幅に変更して行いました。


 引き締まった試合では、流れをできるだけ邪魔しないように……とか、相手に打ち込まれてダレてしまった時には、お客さまを巻き込む遊びを採り入れたりして、気持ちが楽しくなるような時間を作ったりとか。


 カメラ、音響、テロッパー、VTR、スイッチャー、ディレクターと場内アナ、イベントクルー×お客さまというコラボレーションで、バファローズのスタジアムは日々のショーが繰り広げられました。演者としては、生放送の緊張感を楽しむ感覚で試合に臨んでいたように思います。


 さて、その輪の中心にいたジョニーはというと、オリックスをはじめ3球団を渡り歩き、今はプロ野球の世界にはいません。あるメーカーで、演出の効果を立証し、提示に役立つ指標づくりの仕事に勤しんでいます。


「当時、僕らが会社の上の人などに、この演出はココがいいんだ! って言いたくても、客観的に裏付けられ、説得力を持つ指標ってなかったんですよね。場内演出が経済的なインパクトにつながる(利益に貢献する)ことの裏付け……。そういうものを〝数値化〟することで、注力すべきポイントが明確になったり、適切な費用対効果が図られ、顧客満足度を高めたり、結果としてスポーツビジネスに役立つと思うんです」と話してくれました。


 日本のプロ野球界に大きな置き土産を残したジョニーは、スタジアム演出の次のステップのために、違う角度からスポーツ界の“演出”に向き合っています。やがてどんな“解”が導き出され、エンターテインメントの世界に活かされていくのか……。元同僚として楽しみです。


 スタジアムの演出は、時代が進むにつれて技法も手法も変わっていきますが、お客さまとの一体感を作り出し、楽しんでいただこうという思いは変わらないはずです。ぜひ、球場へお出かけになって感じ取って下さい。そして、大きな声援で一体感を作り出し、選手を後押しして下さい。選手には、それが一番の力になるのですから。


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(堀江 良信)

文春オンライン

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