佐藤優氏がバブル期にモスクワでみた「1つ1万円」の弁当

5月8日(月)11時0分 NEWSポストセブン

作家の佐藤優氏

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 天皇の譲位問題にともない、平成の終焉が取り沙汰されるようになった。さて、平成とはどんな時代なのか。本誌・SAPIO今号より対談連載の形式で、現在進行中の時代を読み解くという難題に挑むのは、「昭和が終わった日」をモスクワの日本大使館で迎えた佐藤優氏と、日本の保守思想の変遷をとらえてきた片山杜秀氏である。


 * * *

佐藤:日本人は前提として明治、大正、昭和、平成という歴史区分を自然に受け入れています。でも、天皇の代替わりごとに歴史を括ることは、世界の普遍的価値観からすると、極めて異質な分節化です。いま最高指導者の代替わりで歴史を区切っているのは、カトリック教会やロシア正教会か、北朝鮮くらいだと思います。


片山:日本では天皇が崩御すると元号が変わる。一世一元ですね。明治からの新しい習慣です。明治維新で西洋型の近代国家を急造しようとするとき、天皇しか日本国民をまとめる道具がない。日本人であればどこに住んでいても天皇を仰いで生きるのだと。そういう自覚を持たせるために元号の使用を徹底して、時間意識の面から天皇と共にあることの徹底した刷り込みを行う。この戦略は当たったでしょう。


 たとえば昭和という言葉にみんなが特別な思いを込めているでしょう。戦争も高度成長も懐かしいテレビ番組も昭和の一語にからめとられ、日本人でないと分からない歴史意識で理解されてしまう。


 では平成とはどういう時代か。昭和が終わり、平成が始まる1989年1月8日のことから語り始めましょうか。当時、佐藤さんはモスクワにいらしたんですか?


佐藤:そうです。崩御の2週間ほど前に日本政府から在ロシア日本大使館に「崩御近し」と連絡が入りました。ロシア人との宴席やパーティは自粛するように、とのお達しもあった。


 そして崩御の報が入るとすぐに大使館に半旗を掲げて、弔意を示す記帳の準備をはじめた。さらにソ連側から大喪の礼に出席するのは誰か、ソ連の対日政策はどう変わるのか見極める……。まさに仕事として昭和の終焉に立ち合いました。


片山:私は25歳で慶應義塾大学の博士課程の1年目。日本政治思想史をやっているつもりで。当時はバブル経済まっただ中ですね。しかし私は“人生の墓場”とも言われていた、将来に展望もない大学院生活でしたから、その恩恵にはあまり浴しておらず(苦笑)。


佐藤:実は私もバブルを皮膚感覚で知らないんです。私は昭和60年に外務省に入って、翌年6月にイギリスに留学し、昭和62年8月からモスクワに移りました。ソ連ではゴルバチョフのペレストロイカが始まっていた。石けんや砂糖などが配給制という状況のなか、日本を知る手がかりとなったのが東京から送られてくるVHSでした。


 だからモスクワの自宅で観たホイチョイ・プロの『私をスキーに連れてって』(注1)や『彼女が水着にきがえたら』(注2)が、私にとってのバブルなんです。10年ほど前、やはりホイチョイ・プロが作った『バブルへGO!!』(注3)を見たあと知人に「若干の誇張はあるけどバブルってこんなもんだったよ」と教えてもらいました。それほど私は、バブルについて知らない。



【注1/1987年公開。原田知世主演。映画公開に前後してスキーブームが起こる】

【注2/1989年公開。上記に続く「ホイチョイ三部作」第二作。マリンスポーツが舞台に】

【注3/2007年公開。破綻寸前の日本経済を救うため阿部寛演ずる財務官僚が1990年にタイムスリップ】


片山:私が当時、衝撃を受けたのは、ライターをしていた雑誌編集部の忘年会。バニーガール姿の男性編集者がいたり、漫画家の中尊寺ゆつこ(注4)が「みんなノッてるー!?」と叫んでいる。もう、現実がマンガそのもので(笑)。


【注4:中尊寺ゆつこ/1962年〜2005年。同時代の女性を描いた漫画家。彼女が用いた「オヤジギャル」は流行語に】


佐藤:私はモスクワにやってくる新聞記者たちを見て、日本社会は本当に変になっているなと思いました。「カップヌードルを啜らねえと記事が書けねえ」という記者のために、私が、わざわざストックホルムからカップヌードルを空輸したこともありました。モスクワのサクラという和食レストランでは「仕出し弁当を作れ」という記者に「1つ1万円しますよ」と忠告したら「それでかまわない」と。


片山:えっ、1つ1万円って、中身はどんなですか?


佐藤:いま日本で買えば700円くらいの普通の弁当です。東京から食材を空輸しているから高いんです。天ぷら蕎麦が7000円もするレストランですから。


※SAPIO2017年6月号

NEWSポストセブン

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