アイドルの代わりに走った彼らは“幸せ”だったのか? アイドルグループ「Stereo Tokyo」の炎上について考える

5月9日(月)16時30分 おたぽる

Stereo Tokyoのメンバー。靭帯を傷めた椎名あやかさんはこの日のライブはお休み。

写真を拡大

 2016年4月17日、アイドルグループ・Stereo Tokyoの三浦菜々子さんが、マラソン企画にチャレンジし、無事完走ました。この企画「42.195km走り切らなかったらStereo Tokyoが解散」というもので、アイドルオタクの皆さんは「また解散商法か」とボヤいたことでしょう。これは、5月4日発売のシングル「Dancing Again」が、5月29日開催のリリース・パーティまでに1万枚「売れたら」解散という企画と平行して行われたもので、両企画については、Stereo Tokyoのファン以外からも否定的な反応が見られました。

■「【発表】STEREO JAPAN、シングルが1万枚売れたら解散!?」(動画)
https://youtu.be/bqmyWfzCmoE

「一万枚売れたら解散」は、既存の「売れなかったら解散」のパロディとして、機知に富んだ企画だと思います。失礼ながら、これまでのCD売上枚数(ファーストシングル『Electlon』の売り上げは、1,700枚)を考えれば到底達しない数字を提示する辺り、Stereo Tokyo プロデューサーの水江さんは、「お遊び」がよくわかっているなと感心しました。

 さて、もう一つのマラソンについてですが、この動画の中でも言及されている通り、Stereo Tokyoのメンバーの三浦菜々子さんとほかのメンバーとの間に出来た溝を何かしらの形で埋めようという運営側の「親心」から始まったと捉えるのは無理があるでしょうか。実際、昨年の秋頃から、「グループを辞めたい」という気持ちを持つようになった三浦さん。ほかのメンバーから見れば「自暴自棄」とも「心を閉ざしてしまった」とも取れる言動が続いたそうです。

 その三浦さんに難しい課題を与えて、ほかのメンバーに「自由に協力させる」という、ある種の仲直りプログラムとも言えます。「基本的には三浦さんが走り、彼女がどうしてもつらい時は、メンバーがボックスの中身を引いて、課題をクリアしたら三浦さんの代わりに走れる」というルール決めをしたのも、ツラいお題をクリアしてでも三浦さんを助けたいのかというリトマス試験紙みたいなものだったようです。ただそれだけでは面白くない。どうせならCDのリリース・販促イベントとしてやれないか、という一挙両得な企画、それが今回の「42.195km走り切らなかったらStereo Tokyo解散」だったのだと思います。

 しかし、この企画はネットのまとめサイトなどで“オタクがCDを買わされた上に、アイドルの代わりに走らされる”的な取り上げ方をされ、アイドルオタク内外で話題に。アイドルや運営に対する批判など、さまざまな意見が上がることとなりました。

 Stereo Tokyoは、それでなくても、ディスられがちなグループで、以前、私がフラッと立ち寄ったリリースイベントでパフォーマンス中のメンバーとパリピ(パーティー・ピープル。Stereo Tokyoのファンのことをこう呼ぶ)のみなさんを撮影し、動画を添付してツイートしたら、恐るべき速さで「アンチパリピ」という方々に非難を浴びせられたことがあるのです。

 何か気に障ることでも書いたかな? と思って自分のツイートを見直したけど、「パリピの皆さん楽しそう♪」としか書いてない。恐らくは「自分の嫌いなもの」を称賛したから、というのが理由なのでしょう。「敵の味方は敵」と。

 この時、数十件の非難のリプライを見て気付いたのがStereo Tokyo 自体を嫌うのではなくて、あくまでそのファンである「パリピ」に対して嫌悪感を持っているということ。アカウントにわざわざ「アンチパリピ」と追記してあって、なんともわかりやすい。とても親切ですね。

 ところが最近知ったのは、メンバー本人たちやスタッフの方たちにも罵詈雑言を送っている輩がいるという事実。何故でしょう?

 実は私自身もかつてアイドルグループの運営スタッフとして働いたことがあるので、ファンやそれ以外の方からも、いろんな意見を頂戴したことがあります。ただその多くはグループを応援する意味での改善案であったり、ライブやイベント会場での手際の悪さについての不満だったり、実害のある方々、言い換えれば直接関係する方々からの「貴重なご意見」でした。時にはファン同士の小競り合いでとばっちりを受けたりしたこともあるのですが、でもそれも含めてライブやイベント会場に来てくれる方々の熱さ故。それに顔を突き合わしての直接対決なので、潔さを感じていたものです。まあ元ヤンの方々とかいらっしゃって怖かったですけどね。

 さて、話を戻しましょう。Stereo Tokyoの「炎上」はどうやら今に始まったことではなさそうですが、ひとつだけ理由が考えられるのが、パリピの皆さんを含めた彼らが「楽しそうだから」だと思います。

 今回のマラソン企画では、本来なら三浦菜々子さんが全行程を走り切って解散せず、仲間の応援も含めて感動のストーリーというのが、「劇場型アイドル」の正攻法です。でもStereo Tokyoの水江プロデューサーをはじめ、運営側はそんな「つまらない」ことはやらなかった。このマラソン企画と平行して提示された条件が「シングルが1万枚売れたら解散」という、まさに既存の解散商法のパロディだったのです。

 そして、三浦さんを応援したい気持ちを持ったパリピの皆さんが「CD5枚を購入して1㎞走る権利を得る」あるいはCDを購入せずとも並走して応援するという選択肢を選びました。走った理由は走った者にしか分かりませんが、恐らく一番の理由は「面白そうだったから」でしょう。それを物語るのが、マラソン企画の前に小田原から新宿までの77kmを(勝手に)走った動画です。

■『Stereo Tokyo - Dancing Again (Unofficial Video)』
https://youtu.be/95bwErzG1yc

 誰かに褒められるためでもなく、お金のためでもなく、夜道や雨の中をひた走るパリピの「ステトーTO」さん。当初から、このマラソン企画を取材してきた「OTOTOY」(http://ototoy.jp/)のサイトをパクリまくった「OTOTUY(オトツイ)」(http://ototuy.jp/feature/2016032807/)も見事。労力をかけて徹底的にアホを追及する姿勢(心から褒めてます)に脱帽するしかありません。

 さてマラソン当日、企画に不満を持った方々は運営サイドに対して「ファンに金を払わせた上に走らせるとは何事だ」と言ってみたり、「ファンが走っている間メンバーが車の中でくつろいでいるのが許せない」とする一方、「パリピはマゾか奴隷」といったパリピへの蔑みの言葉を耳にすることとなりました。実際は直接聞いたのではなくて、あくまでTwitter上の「つぶやき」ですけどね。なぜ実害を受けない方々が、そこまで怒りのツイートをぶつけるのか、正直なところ私にはわかりません。義憤に燃える人々なのでしょうか。

 該当の批判ツイートを逐一掘り起こして掲載するのは、ここではやめておきます。ただ一点気になるのが、メンバーや「パリピ」の皆さんを批判しているアカウントに、かなりのアニメやゲームが好きな方々が多いなと個人的に思いました。

 ご存知の方もいるでしょうが、Stereo Tokyoメンバーの岸森ちはなさんは大のアニメ好きでマンガ好き。ご本人のTwitterにも「文豪ストレイドックス面白すぎるし中原中也良きだからずっとお家こもってアニメと漫画交互に見る生活をしたいのかもしれない」(5月1日)、「最近は、もうそう♥えくすぷれす をエンドレスで聴いてるわよ〜〜しあわせ〜〜かわいい( T_T)\(^-^ )」(5月2日)など発言が明らかにアニメヲタク。なので、今回アニメ好きな方々からの批判ツイートは彼女にとってツラかったのではないでしょうか。同胞に嫌われたんじゃないかなと。もしかしたらアニメ好きな方は「Stereo Tokyo さっさと解散しろ!岸森さんだけ、こっちによこせ!」という愛情表現なのかな? 「ブス、さっさと解散しろ!」というツイートも、大好きな女子に素直になれない小学生みたいで可愛い気もしてきます。

 さて、メンバーはともかく「アコギな運営」が嫌だという方もいらっしゃいますね。でもパリピの皆さんは好き好んでこの企画に参加したんですよね。純粋に三浦さんやStereo Tokyoが好きだという方もいれば、「なんか面白そう」だから見に行こうという方もいたはず。前述した通り、CD1枚も買わない人もいたでしょうし、応援ののぼり旗を作って来る人もいれば、ゴール付近で待っていただけの人もいた。ゴール後のミニライブだけ観たファンだっているはずです。たとえが変になりますが「徴兵制」じゃなくて「志願兵」として自分のスタイルで参加したはず。

1604_st_04.jpg
「パリピ」と呼ばれるStereo Tokyoのファン。この日は外国人観光客を巻き込んで盛り上がっていた。
 その辺どうなのか実際に聞きたくて、Stereo Tokyo さんのリリースイベントに足を運んでみました。正直なところ、突然紛れ込んだ新参者に心を開いてくれたかというと、必ずしもそうではなかったのです。でも、その気持ちも分かります。マラソン企画でにわかに興味を持ってやってきた、あるいはからかい半分で見に来た輩だと思われても仕方ありませんから。

 そんな中で、真っ先に話をしてくれたのは、マラソン企画で開始50mの位置から7㎞走った「すーさん」と呼ばれるパリピでした。映像を見た方はお分かりかと思いますが、少し小柄な穏やかそうな男性。パーティーと呼ばれるStereo Tokyoのライブでは、一眼レフカメラを持って程よく撮影をしつつ。ステージを見つめるオジサマです。

 まずStereo Tokyoのファンになったキッカケは何なのかを訪ねてみたところ、「三浦菜々子さんの舞台を観て、そこからファンになりました」と。割と予想外の答えでした。というのも、昨年末とある対バンイベントでStereo Tokyoのスタッフさんに話を聞いたところ「ファンの半分はアイドルヲタク、残り半分は元々クラブにいる方たちです」とのことだったので。舞台を観る人間にもアイドル好きがいるのは確かですが、そこからStereo Tokyoのファンに流れるのは割とレアケースなのかなと思うのです。

1604_st_03.jpg
Stereo Tokyoの三浦菜々子。今回のマラソン企画は、そもそも彼女とほかのメンバーとの溝を埋めることが目的だった。
 さて肝心のマラソン企画への参加については、やはり三浦さんへの応援の気持ちから、というのが言葉の隅々から伝わって来ました。「CDを5枚購入すると三浦さんの代わりに1㎞走れる」という設定ですから、7㎞で35,000円支払った彼に「土地転がしとか、お金持ちなんですか?」という質問をぶつけてみたところ「そんなわけないじゃないですか」と大きく首を振っていました。純粋な気持ちの持ち主に何とも無粋な振る舞い、なんとも失礼でした。ごめんなさい。

 そんな彼らパリピの純粋な気持ちをも、経済的な限界点を超えることは出来ないので、Stereo Tokyoのメンバーがお昼ご飯を食べ終えた辺りから、CDの購入はパタリと止まります。

 そして、この日心配されていた雨も降り始め、容赦なく三浦さんの頭上から降り注ぐことに。三浦さんはスケジュールの関係で、事前練習がなかなか出来ず、これまでの人生の中でも最長で8㎞までしか走ったことがないという状況で結果20kmも走り切ったのは見事と言っていいでしょう。途中、お題をクリアすればヘルプで走れるというメンバーも河村ゆりなさんが1.8㎞走った他、ラスト1km 程をメンバーが並走したという程度で、さらりと完走する辺り、三浦さんとStereo Tokyoの底力を見た気がします。

 そして、繰り返しの様になりますが、パリピやスタッフの方々を含めて、ひとことで言って「楽しいお祭り」だったんじゃないかと思います。そして、炎上させていたアンチの方々も実はこのお祭りに参加したかったんじゃないかなと、勘ぐってみたり。

 さて、ここで唐突ですが、SIONの7枚目のオリジナルアルバムに収録されている曲『トタン屋根の小屋に住む老人』のラストにある一説を引き合いに出して、この駄文を終わらせたいと思います。

「変わり者だからこわいのか 汚いからいやなのか 気味が悪いからこわいのか それとも幸福にみえたからいやなのか」

 私自身も、初めてパリピの皆さんを見た時「バカ騒ぎをしていて、取っつきにくい」と思ったのも事実。去年「TOKYO IDOL FESTIVAL」の取材に行った時も同じ。でもね、本当はアホになれる彼らがうらやましかったのかなとも思うのです。
(写真・文/三浦蘭)

おたぽる

「アイドル」をもっと詳しく

「アイドル」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ