3つの山口組抗争が開始、離脱派最高幹部の挑発独演会の様子

5月9日(火)7時0分 NEWSポストセブン

任侠団体山口組の織田絆誠代表

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 一度分裂した組織はさらなる分裂を繰り返し、より過激な内ゲバを繰り広げる—日本最大の暴力団である山口組は、最初の分裂から2年も経たずに再び分裂、ついに「山口組」を名乗る組織が3つも並び立つ異常事態を迎えた。行き着く先は、やはり血で血を洗う抗争しかないのか。フリーライターの鈴木智彦氏が報告する。


 * * *

 4月30日、“山菱の代紋”が再分裂した。


 六代目山口組を飛び出して発足した神戸山口組の最前線指揮官と言われていた織田絆誠(よしのり)若頭代行を中心に、山健組の傘下から約30団体が脱退。真鍋組、古川組なども合流し、兵庫県尼崎市の古川組事務所で「任侠団体山口組」を旗揚げしたのだ。代表となった織田氏は、神戸山口組の井上邦雄組長の出身母体、山健組の副組長だった。


 これによって山口組は3つに割れ、大組織の分裂抗争としては極めて珍しい状況が生まれた。いまのところ古巣である六代目山口組に戻るという話は聞かない。六代目山口組も暴力団である以上、これほど絶好のチャンスを見逃すはずはないが、こう言い放つ。


「あれは神戸山口組、言わば山健組の内紛だ。あちらは謀反をおこし、山口組から絶縁された人間の集まりだから同じに語って欲しくない。うちの親分にやった非道が、そっくり自分に戻ってきたわけで因果応報としか言いようがない」(六代目山口組幹部)


 結成式当日、古川組事務所の前はマスコミのカメラでごった返した。兵庫県警は防弾チョッキを着用した機動隊を含め70人あまりを動員して物々しい。


 幹部たちがやって来ると、警察が車をかなり後方で停車させ、ボディチェックを始めた。カメラの放列の中、すべての幹部が事務所までの約50メートルを徒歩で移動することになった。今回だけはどうしても幹部のそばに近づきたい。胸元の代紋バッジを確認するためだ。


 山健組の直参の胸元には山菱の代紋が煌めいている。ということは、離脱派も「山口組」を捨てていない。加えてその代紋は、六代目のものでも神戸のそれでもない。新しく製作したのだ。徽章の納期は2〜3週間かかる。最低でもその程度の準備期間はあったと考えるのが妥当である。


 尼崎に本部を置く神戸山口組直参の真鍋組・池田幸治組長がやってきた。山菱の代紋はプラチナ製で鎖が巻かれている。白光り&チェーンは執行部の象徴とされる。離脱派のトップと目される織田氏が現われると、マスコミが一斉に駆け寄った。織田氏も池田組長と同じ代紋をつけていた。本来、トップは組織と同義であるとされ、代紋を装着しない。これだけで判断すると織田氏は新団体のトップではないということになる。


 集会が終わると突然、最古参の山口組担当雑誌記者が事務所内に呼ばれ、10分程度で戻ってきた。


「記者会見をやります。入れるのは雑誌が記者1名とカメラマン1名、新聞は記者のみ、テレビは全社駄目で、質疑応答はありません」


 おお、と押し殺した声が上がる。暴力団が記者会見を行なったのは、1984年、山一抗争(※)の際に一和会が結成された時以来で、実に33年ぶりのことだ。


【※竹中正久組長が四代目を襲名したことに反発した反竹中派が「一和会」を結成。竹中組長は一和会に殺害されたが、山口組の報復が激化。89年の一和会解散まで双方で25人の死者を出した】


 写真を撮るため最後列に陣取っていたら、幹部がやって来て別室に呼ばれた。フリーランスである私の名刺には媒体名がない。まがい物と判断され追い出されるのかと冷や冷やしていたら、2階の応接間に通され、真鍋組の池田組長や古川組幹部、山健組の直参たちと面会することになった。


 記者会見の是非について率直な感想を聞かれたので、取材者としては大歓迎と答えた。ただし神戸山口組にも言い分はあるし、内容にかかわらず、事実関係の裏を取ることはくどいほど説明した。


「じゃああっち(神戸山口組)に呼ばれたら、鈴木さんは行くんですか? ちゃんと書いてくれたら、こっちもそれなりの対応をしようと思ってるんですけどね」


 呼ばれなくても、応対してくれなくても行くと答えた。どちらかの肩を持つことはないということも。すると、池田組長はこう言った。


「的に懸けられる(命を狙われる)ことは覚悟でやっている。我々はそれだけ真剣です。たとえばネットには、もうあれこれ根も葉もない噂が飛び交っているわけです。織田代表が人事に不満を持って飛び出したとか、偽装だろうとか。マスコミさんには憶測で書いて欲しくなかった。こちらの真意をすべて伝えたいので、記者会見をやることにした」


◆「サインくださ〜い」事件


 記者会見が始まると、織田代表がチェーン付きの代紋……最高幹部のそれをつけていた理由が分かった。組長が存在しないからだ。中央に座った池田組長が説明した。


「本来、我々の業界では盃を重んじ、忠誠を誓うというのが本筋ですが、一昨年8月27日に、その盃の意味を崩壊させ、合わせて絶縁・破門状の重みも崩壊させたのが、神戸山口組であります。この現状の中で我々は盃よりも、精神的な同志の絆に重きをおき、あえて盃事は一切執り行ないません。また組長はあえて空席とし、代表制という形を取りましたが、これは我々が当然のごとく組長は織田代表がなるものと思い、皆で再三お願いに上がりましたが、代表のたっての強い意志のもと、固辞され承諾は得られず組長は空席となりました。


(中略)


 本来我々の業界では下の若い者が上を支えるのが当然とされてきましたが、任侠団体山口組では、皆が平等で、共に支え合い、助け合えるような組織作りをしたいと切に請われ、やむなく、このような形を取ることとなりました事をここに報告させて頂きます」


 盃を結んだ親分が不在だから、当然、若い衆を束ねる若頭もいない。本部長となった池田組長が実質的な若頭役である。これまでのヤクザの定義を当てはめると、任侠団体山口組は暴力団組織の一次団体の要件(階層的に組織を構成している)を満たしていないことになる。暴対法を熟読し、指定外しを狙った可能性は高い。


 そのほか、会見では昨年9月、新神戸駅で起きた六代目山口組と神戸側の騒動も取り上げられた。新幹線を降りてきた司忍組長に対し、神戸山口組が「サインくださ〜い」と声をあげた事件だ。その様子はテレビを通じて全国に放映された。


 会見ではこれを「恥ずかしい騒動」と呼び、神戸山口組のトップが中田広志若頭代行に指示したものだと指摘した。


「我々若手・中堅含め神戸の大義を信じて、頑張ってきた大勢の者が目標を失い、目の前が真っ暗になりまさに絶望した瞬間でした」


 あの事件は全国の暴力団の眉をひそめさせ、神戸山口組側のイメージを毀損しただろうが、拡大・強調している印象は否めない。


 井上組長を非難しているようにみえるが、実際には山健組の跡目の最右翼と言われる中田若頭代行に向けられているのかもしれない。皮肉にも離脱派が「根も葉もない噂」と断言していた「人事の不満」が浮かび上がって来る。


 会見は30分以上続いた。


「これでは山口組が自滅の道を辿ると真っ向から否定して立ち上がったにもかかわらず、神戸山口組の現実はその名古屋方式にも劣るそれ以下の悪政でした」


 どうみても正面から喧嘩を売っているとしか思えない。


◆「織田を的に懸ける」


 山口組担当刑事も眉をひそめる。


「やりすぎだ。あそこまでコケにされたら黙っていられない。そもそも山健組には反織田派がかなりいて、『万が一、織田が(神戸山口組を)出て行ったら的に懸ける(命を狙う)』と公言していた幹部がかなりいる。井上組長の出身母体は健竜会で、山健組の中の本流だ。新団体の挑発を無視すれば本流の沽券に関わる」


 警察は極めて危険な状態と判断しているようで、地元の兵庫県警、大阪府警などはゴールデンウイーク返上で積極的に情報収集に当たっている。


 現状はまだ分裂したばかりで、勢力は流動的だ。記者会見の席に座って、マスコミが写真を撮った中にも、すでに神戸山口組に戻った古参組長がいる。もっともここは大所帯で、配下の大派閥は離脱派に残った。分裂すると、傘下団体にねじれが生じるのはいつものことで、記者会見の会場になった古川組も代替わりしたばかりで、先代の二代目組長は神戸山口組に残留している。


 神戸山口組は、今回のクーデターの首謀者である織田代表や池田本部長の絶縁状を出したとされるが、離脱派の他の幹部たちに対しては「騙されてあちらに参加した者は、戻ってきても受け入れるのが道理であり情け」(神戸山口組組員)と寛容だ。そうはいっても、裏切り者が冷遇されるのは世の常で、警察は「死ぬまで会費を払わされ、飼い殺しになる」とみている。


 5月の連休に入り、織田代表が副組長を務めていた山健組は傘下団体にファックスを送ったとされる。


「先日、元山健組組員・織田絆誠(絶縁)が報道機関各社を集め身勝手な声明を挙げたが、全て織田自身の私利私欲以外のなにものでもありません。山健組離脱の正当性を主張するが余り、嘘、偽りの情報を流布しておりますが、皆さん御承知の通り、織田及び、その一部近親者の思い通りにならなかった事から、今回の行動をとっただけのものです。織田らのねつ造した風聞に踊らされた、同僚や同志には早急に真実を伝えていただき、心あるものは温かく迎え入れて下さい。


(中略)


 今後も虚偽の風評を流してきますが、皆さんは惑わされること無く、この伝統ある山健組の誇りを胸に王道を歩んで下さい」(句読点、一部筆者)


 双方が昔の仲間をなじり、お互いの主張をねつ造と非難する。最初の山口組分裂で、同じやり口を見せられたので既視感がひどい。


※週刊ポスト2017年5月19日号

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