田中泯「日本の政治に対する僕自身の憤りに通じる部分も多かった」世界配信となる初主演のポリティカル・サスペンスに意気込み「フクロウと呼ばれた男」【インタビュー】
2024年5月9日(木)16時0分 エンタメOVO
−大神龍太郎の重厚な存在感に圧倒される第1話から物語にグッと引き込まれます。田中さんの初主演作ということですが、出演の経緯を教えてください。
ディズニープラスさんがサービスを開始するに当たり、大人のお客さんが楽しめる、普段、映画ではあまり扱わないような社会派の作品を探していたんだそうです。そこで、僕が出演していたこの作品のパイロット版(本格的な制作の前に試作する映像)に興味を持ってくださったそうで。パイロット版の制作から本編の制作開始まで、6年くらいかかっています。だから、制作が決まった時は、もちろんうれしかったのですが、こんなに挑戦的な作品が本当に実現するのか、半信半疑な部分もありました。地上波のテレビドラマでは実現の難しそうな内容ですし。「僕でいいのかな?」とも思いましたが、「ぜひ主演で」というお話だったので、ありがたくお引き受けしました。
−演じる大神龍太郎という人物について教えてください。
世間には一切姿を見せず、その存在を知るのは社会を動かすごく一部の人間だけ。“フクロウ”と呼ばれる大神龍太郎は、そういう世界にいて、世の中を陰で操ってきたフィクサーです。一般的には「悪人」と呼ばれるような人物かもしれません。でもその裏には、「日本という国はこうあるべきだ」というある種の正義感のようなものがある。その点は、僕も共感するところがあったので、違和感なく演じられました。その一方で、彼が生きる上流社会は、僕とは無縁の世界なので、振る舞いなどにはやや苦労しました。
−龍太郎はフィクサーとして暗躍するだけでなく、妻・杏⼦(萬⽥久⼦)、⻑男・⼀郎(安藤政信)、次男・龍(新田真剣佑)、⻑⼥・影⼭⼸⼦(⻑⾕川京⼦)、次⼥・理沙⼦(中⽥⻘渚)らがそろう家族の中で、父親としての一面も描かれていますね。
龍太郎は周囲を恐れさせるフィクサーでありながら、その反面、父親としては意外なほど普通の男です。ただ、彼はこれまで、自分の子どもの事はあまり考えてこなかったんでしょうね。娘の理沙⼦と久しぶりに喫茶店で話をしようと思っても、何を話せばいいのかわからない、といった場面もありますし。そこに龍太郎自身も焦りを感じて、プレゼントを贈ろうと、デパートへ行ってみるんだけど、今度は店員とどう話をすればいいのかわからない。そんな龍太郎のように、子どもとの関係に悩む親は世の中に多いと思います。その点では、皆さんに共感していただけるのではないでしょうか。
−その中で、次男の龍だけは龍太郎に反発し、父親と対照的な人生を歩もうとします。龍を演じる新田さんの印象は?
僕も海外でいろんな経験をしてきましたが、彼も俳優になるまでは、世界中を旅した経験を持つ青年なので、その懐の広さは通じ合う部分があるような気がします。正義感を持って社会と向き合う龍という役も、彼にぴったりではないでしょうか。
−演出に『宇宙兄弟』(12)の森義隆監督、『月』(23)の⽯井裕也監督、『Winny』(23)の松本優作監督という3名がそろった豪華な布陣も注目のポイントです。
日本映画界の第一線で活躍される皆さんが、よく引き受けてくれたと思います。発想もそれぞれ個性的だったので、現場は面白かったですね。その一方で、作品としての統一感が損なわれないように、皆さんで綿密に打ち合わせしながら撮影を進めていたようです。おかげで、完成した作品を見ても、違和感は全くありません。お三方が協力することで、作品のクオリティーがグッとアップしたのではないでしょうか。
−完成した作品は世界配信されますが、どんな期待を持っていますか。
世界配信というお話には驚きました。最近は、同じディズニープラスで独占配信中の『SHOGUN 将軍』(24)のように、日本を題材にしながら、海外で評価される作品もあるので、この作品を海外の方がどうご覧になるのか、気になるところです。ただ、僕としてはまず、一人でも多くの日本のお客さんに見てもらいたいと思っています。
−というと?
実は脚本を書いたのは、日本人ではなく、エグゼクティブ・プロデューサーを務めるデビッド・シンという外国の方です。でも、日本でのビジネス経験があり、日本を心から愛する彼が書いた脚本は、まるで日本人が書いたのではないかと思うほど、違和感のない出来栄え。それどころか、日本人が気付かなかった、あるいは見過ごしてきたことを指摘するような視点の鋭さもある。特に、政治家の扱いはかなり辛辣(しんらつ)で、「こんな政治家いるな」と思わされます。最近のおかしな日本の政治に対する僕自身の憤りに通じる部分も多かったので、納得感もあり、躊躇(ちゅうちょ)なく演じることができました。
−それでは最後に、本作にかける意気込みをお聞かせください。
今回、全10話のドラマということで、今までにないほど長い間、大神龍太郎について考える時間があり、僕にとって新鮮な体験でした。とはいえ、まだまだ彼に対する興味は尽きず、さらに掘り下げてみたい人物です。また、龍太郎だけでなく、彼の家族にもさまざまなドラマが待ち受けているはずなので、ぜひシーズン2,3と続けていければと思っています。皆さんにも楽しんでいただけたら幸いです。
(取材・文・写真/井上健一)
『フクロウと呼ばれた男』
配信:ディズニープラス「スター」で 独占配信中
出演:田中泯 新田真剣佑
安藤政信 ⻑谷川京子 中田⻘渚 / 萬田久子
二階堂智 ハイディ・バーガー 池田良 結城貴史 柳英里紗 あこ
大坊健太 尚玄 淵上泰史 忍成修吾 土屋キュウ 久藤今日子 浦浜アリサ 大⻄信満
野村祐人 片山萌美 川瀬陽太 吉澤健 / 中野英雄 / 木村多江 / ⻑塚京三
大友康平 益岡徹 / 原田美枝子 中村雅俊
エグゼクティブ・プロデューサー&脚本:デビッド・シン
演出:森義隆、石井裕也、松本優作