「『クレヨンしんちゃん』の時の感覚を思い出そうとした」原 恵一が語る『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』

5月11日(月)11時0分 おたぽる

5月9日に公開された映画『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』原恵一監督。

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 江戸風俗研究家にしてマンガ家であった杉浦日向子が描いたマンガ『百日紅』(筑摩書房)。葛飾北斎とその娘・お栄を中心に、江戸時代の文化、情緒、風情、特にその時代を生きる人々を、一歩引いた視線で描いた傑作だ。杉浦日向子作品を敬愛してやまないという、『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』『河童のクゥと夏休み』の原恵一監督が、『百日紅』を見事にアニメーション映画化。5月9日に全国公開された『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』に、原監督はどのような思いで臨んだのか、お伺いした。

※本文中には、『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』のネタバレが含まれています。予めご了承ください。


——どうして『百日紅』を映画化しようと考えられたんですか?

原 恵一(以下、原) 『カラフル』を作った後、しばらく次の作品がなかなか決まらなかったんです。これにはちょっと僕も焦ってきて、営業活動をしようと思った。(アニメーション制作会社・)プロダクションI.G.の石川(光久)さんとはそれなりに古い付き合いだったので、最初にI.G.に行こうと思って、アポを取ったんですよ。会った時に手ぶらで行くのもなんだから、何か持っていこうと。それなら、自分が一番に作れるといいなと考えている作品にしようと思いました。それで杉浦(日向子)さんの別の作品を持って行きました。そうしたら、石川さんが「杉浦さんの作品だったら、実は『百日紅』を、一度企画を動かしたことがあって、結局あきらめちゃったんだ」という話で。2度目にI.G.に呼ばれて行った時に「原さん、『百日紅』をやらないか」という具体的な提案があったんです。「ぜひやらせてください」と......。それで作ることになったんです。

——原さんは何度か「杉浦さんの作品に影響を受けている」というお話をしていますけど、実際、杉浦さんの作品を作ることになってどう感じました?

原 ほかの誰かに作られてしまうとか、あきらめるとかは考えなかったですね。『百日紅』という原作はすごく出来のいい原作なんですけど、不安としては、"(原作が)完結していない"ということや、(自身が)原作を好きすぎるところがありました。それに、『百日紅』は各話が独立したエピソードで、オムニバスになっている。それを一本の映画にどう構成していくかというところから、まず考え始めたんです。

——いくつもの短編を一本の映画にするというのは相当難しいというか、『百日紅』の原作を読んで、「これを一本の映画にする」というのは素人目にはできるとは思わなかったです。原監督としても、難しいと感じられましたか?

原 クライマックスをどうするかは最初から決めていたんですよね。「野分」というエピソードで、僕が最初に読んだ『百日紅』の単行本では、それが最後のエピソードなんですよ。そこに僕はものすごく感動して、これをクライマックスにもっていくような構成にすればいいと考えていました。あとは逆算して、いかにそのエピソードがクライマックスになるか考えて、お栄とお猶の姉妹関係をオリジナルのエピソードとして、随所に入れていこうと思ったんですよね。

——「野分」で描かれている"人が亡くなってしまうこと"に、心を奪われたのですか?

原 この死は、突然の死なんですね。たいていどんな人でも身近な人が突然死ぬという経験ってあると思うんですよね。ものすごく突然なんだけど、誰でも経験することなんじゃないかなと思って。それを杉浦さんはことさらウェットには描いてない。すごくドライに、むしろ読者を突き放す形で描いて終わらせている。そこに彼女のすごさを感じます。

——映画『百日紅』だと、ウェットな描写ではないけれど、北斎のもとに百日紅の花があるなど、映画オリジナルの描写もあります。

原 まあ、百日紅の花などは、僕の持っているものですね。杉浦さんだったら描かない部分なのかもしれないですけど。今回はなるべく杉浦さんのコマ割りとか、アングルとかは活かそうと思って作りましたけどね。

——原作から持ってきたエピソードは、お気に入りのものから?

原 そうですね。まずはお気に入りのエピソードの中から、お栄の話を抜き出して。それでも、長さを考えると使えないなとあきらめたエピソードもいくつかあります。杉浦さんの原作は『百日紅』だけでなく、人間と妖怪の世界が混然となっている。そんな題材をあつかっているものが多いんですね。それは"杉浦さんらしさ"だと思うので、あえて意識的に選んでます。この世のものでない存在、それはこの映画には必要だなと思ったんです。

——原作と映画を比較した際に、百日紅の花だったり、エピソードの並べ方だったり、そういった部分で原さんのオリジナリティが出ている感覚ですか?

原 まあ当然そうなりますよね。原作通りに作るのであれば、オムニバスにすればいいのですけれど、一本の映画として構成したかったので。

——特に"原さんらしい"部分が出ているなと思うシーンなどは?

原 それはやっぱり、お栄とお猶が三囲稲荷に行くところですね。雪のシーン。あれはオリジナルのエピソードですから。

——劇中では、北斎とお栄が通りを挟んですれ違う際の光の使い方や動きのタイミングに、実写映画的なにおいを感じました。懐かしいモノクロ時代劇映画のような見せ方が印象的です。

原 なにかの映画からの引用というつもりはないんです。そこはやっぱり、自分の監督としてのキャリアの中から生まれたカットなんじゃないかと思います。

——先にも言った通り、原作を読んでも「一本の映画になる」とは想像しにくかったです。商業的にも、わかりやすい一本筋がある物語ではありません。興行的な意味で、スポンサーなどから「売れる映画にしてほしい」といった要望などはなかったのでしょうか?

原 出資者側から、内容に関しての要求や要請はなかったです。自由に作らせてもらいました。制約もなかったですね。あったとすれば"長さ"で、最初に石川さんに言われたんですよね、「予算はこれで、長さは90分以内。それでいいなら、うちは作るよ」って。それははっきり言われました。"長さ"はやっぱり一番気を使ったところではありますね。アニメーション映画だと、僕は長いものを作っちゃうんですよ。90分という映画は『クレヨンしんちゃん』以来久々ですから、その時の感覚をなるべく思い出そうとやってましたね。90分だから画面は濃密になりましたね。

——今回の『百日紅』は、2013年に実写映画『はじまりのみち』を撮られた後の作品です。実写とアニメとの違いや、作風が変わったということはありましたか?

原 正直わからないです。ただ『百日紅』の脚本は上がっていたんだけど、『はじまりのみち』の撮影が終わるのを待ってもらっていたんです。久々にアニメーションの現場に入って、まず絵コンテを描き始めるわけですけど、それを描き始めたときの「またこの白いコマを埋めていかなければいけないのか」っていううんざり感は忘れられない。実写では役者さんがいて、カメラマンがいて、いい景色があって、監督が「よーい、はい」「カット」って言って、自分が「OK」って言えばそのシーンは完成してしまうわけですから(笑)。

——これまで原監督は、シンエイ動画で長いキャリアを、『カラフル』でアセンション、そして『百日紅』では初めてプロダクションI.G.とタッグを組んでいます。制作スタジオが変わると、画面作りなどを含め、変わった部分はあったりするんでしょうか?

原 今回初めて仕事をするスタッフさんが多かったんですけど、そこはみんな優秀な方たちが集まってくれたんで、そこでの苦労はなかったですね。良いスタッフを集められるプロデューサーだったので、ありがたかったですね。

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『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』は常世と幽世が隣り合わせだった江戸時代を生きる人々を活写した作品である。黒雲の中進む龍、煉獄から現れた妖し、日本橋を行きかうさまざまな人々、雪に覆われた三囲神社の佇まい、浮世絵師の所作、花魁の華麗さ、盲目の少女の儚さ、淡々と描かれる市井の人々の生きる姿が、最後に感動に変化していく。絶妙なさじ加減でこしらえられたアニメーション映画なのだ。日本人ならば『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』を見るべし!
(取材・構成/加藤千高)

■映画『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』
http://sarusuberi-movie.com/

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