SNSで広まる「個人間融資」 振り込め詐欺加担への端緒に

5月11日(土)16時0分 NEWSポストセブン

 インターネットで「個人間融資」と検索すると、100万件以上のページが検索結果として表示される。SNSでも同様で、「#個人間融資」「#即日融資」「#お金借りたい」といったハッシュタグで、借りたい人と貸す人の情報交換がさかんに行われている。しかし、これら個人間融資が、振り込め詐欺の実働要員になる入り口として機能している現実がある。ライターの森鷹久氏が、振り込め詐欺と個人間融資との関係についてレポートする。


 * * *

 日本から遠く離れたタイ中部の都市・パタヤで、日本への「振込め詐欺」を行なっていたとして逮捕された日本人15人について、警視庁が詐欺容疑で捜査する意向を固めた。大手紙警視庁担当記者によれば、15人の身柄は近く日本に移送され、本格的な取り調べが行われる予定だという。


「マジで迷惑ですって…。俺なんも知らんすもん。Xとは数年前に会ったきり。遊びがえらい好きやったみたいで、借金も何百万…いや一千万くらいあったかもしれんすけど。気の小さいやつで、とても詐欺ばする度胸はなかでしょう。Xの知人やけんて、俺も疑われとるんですか?」


 逮捕された15人のうちの一人、福岡県出身の男・X(二十代)の知人が、筆者の取材に狼狽しながら声を潜める。近年、中国や東南アジアに拠点を置き、日本国内向けに振り込め詐欺電話を行うなどの特殊詐欺事件が相次いで露呈している。特殊詐欺事情について明るい暴力団関係者は「日本当局の捜査が及ばない、もしくは現地当局に金を渡せば何とでもなる国にアジトを置けば挙げられ(検挙され)にくい」と話す。


 今回の事件の“特質性”をあげるとするなら、15人中11人の本籍が九州地方に固まっていたこと。そして、そのうちの複数の人物が福岡県福岡市やその周辺で事業をするなどして生活していたことだ。中には、筆者と同じ佐賀の片田舎出身で福岡市に住む男(二十代)もいた。福岡市中心部のナイトクラブでDJとして活動しており、筆者の旧知のクラブ関係者などに問い合わせてみたが、連中と詐欺、それも海外から日本に電話をかけるという組織的な犯行とのつながりは一向に見えてこない。


 別の逮捕者の知人男性も「(逮捕された男が)東南アジアで仕事をしていることは知っていたが、飲食店だと言っていた」と首をかしげるばかり。


 一方で、連中が詐欺に身を堕とした“接点”は、全く別のところに端緒を見出せた。九州北部に拠点を置く広域指定暴力団に出入りをする、いわゆる「半グレ」と称される男性(30代)によれば、SNS上などで密かに流行っている“個人間融資”を通じて、出し子や受け子など、特殊詐欺の末端要員たちがいとも簡単に集められ、海外に送り込まれているという。


「こんだけニュースでもやってるし、今どき“出し受け(出し子、受け子)”やる奴なんてそうそうおらんでしょう。ネット使って集めても飛んだり(逃げたり)、裏切ったり信用もクソもない。一番いいのは、借金しとる奴ですよ。金借りるときには、身分証出したり実家教えたり、親とか兄弟を保証人に立てるでしょう? そういう奴が返済に困ったときに“バイトあるよ”って教えてあげる。イモ引く(怖がる)奴が大半ですけど、返済で首が回らんようになった奴はやりますよ」(半グレの男性)


 今回の事件の特質については先に述べた通りだが、これについても“個人間融資”の実態と照らし合わせれば説明がつくという。


「金貸て言うても、サラ金とか街金が相手にせんブラック、いわゆる多重債務者を狙うわけです。SNSで“個人間融資”ていうて、無許可の業者やら人間が、個人相手に金を貸すシノギがあります。担保はいらんですけど、免許証の写真やら実家や親族の情報、そうしたものを全部洗いざらいにさせて、10万とか20万とか貸すわけですね。そういう危ないところから借りるほど追い詰められとるわけですから、危なか橋でもすぐ渡る。融資は基本的に対面で行いますから、福岡の貸主が借り手に“バイトあるよ”って誘えば、犯人も福岡に偏るでしょう。これ以上は自分で調べてください…」(半グレの男性)


 そもそも個人間融資とは、文字通り個人と個人がお金を貸し借りすること。事故や病気などで親戚からお金を借りたときに借用書をつくって返済の方法を定めた、といったことも個人間融資のひとつだ。貸金業法、利息制限法、出資法などの法律に違反していなければ問題がない。もっとも、半グレ男性が関わった個人間融資は、実態が貸金業だったり、法外な利息を取るなど問題だらけ、違法行為そのものである。


 ネット上の個人間融資に関しては、筆者も別で取材を行っている。ツイッターなどSNS上のやり取りだけで簡単に金の貸し借りをしている、と言えばそうなのかもしれないが、実際には“審査”がある。債務者は免許証を見せるなど、個人情報を相手に丸ごと渡すのだ。中には、女性債務者に裸の写真を送らせたり性的関係になることを要求したり、補償金名目で、債務者に借りる金額の数割の金を振り込ませて行方をくらますような詐欺も横行しているが、個人情報さえ出せば実際に金は借りられる“個人間融資”は存在する。そして債務者は、借金よりも怖い「カタ」にはめられ、自滅するしかない。


 九州西部地方に住む無職男性(45)は一昨年、事業の失敗を経て債務整理を行ったが、生活が立ち行かなくなりネット上で見つけた「個人間融資」に申し込んだ。先方は「弱者救済」など謳うプロフィールをSNSに記載していたが、実際は違法な高利貸し。金を借りるために男性が赴いたのは福岡市内だった。


「債務整理を行なっており、まともな金融機関からは借りられない。止むに止まれず、ツイッターで見つけた個人間融資に申し込みました。10万円借りたいと相談すると、福岡市南区にあるパチンコ店の駐車場に呼び出されました。停めてあった先方の車のなかで、免許証や保険証の写真を撮影されて、自宅が本当にあるかどうかをネットの地図で確認までさせられましたが、手渡されたのは7万円。融資ではなくてトサン(10日で三割)の闇金だったんです。男は日本語はうまいが、アジア系の外国訛り。恐ろしくなり、断るに断れませんでした」(無職男性)


 男性は最初の20日間で、違法な「利子」を3回分支払った。当たり前だが元金はびた一文減らず10万円のまま。すでに9万円を支払っているのに、である。10万円を借りただけのはずが、その時点での債務額合計は19万円。まさに男性はカタにハメられた格好になった。


「4回目の支払いに困り先方に相談すると、漫画に出てくるような怖い闇金業者風に脅されるんです…。でも最後は優しくなって、一緒に返済のことを考えていこうって…。そこで聞かれたのがパスポートの有無、そしてフィリピンかマレーシア、もしくはタイで少なくとも一ヶ月以上アルバイトする気はないか? 簡単な“テレアポ”だということでした」(無職男性)


 このやりとりが行われたのは去年の11月ごろ。男性は親族に泣きつき、なんとか用立ててもらい4回目の支払いで全額を返済すると、全てのやりとりを絶った。もしかすると逮捕されていたのは自分だったのではないかと、思い出しては冷や汗をかく日々。


 タイで逮捕された邦人のうち複数が金に困っており、闇業者からの借金を重ねていたことは、取材で明らかになった。果たして連中もまた「カタにハメられた」が故に、犯罪者に成り下がったのか。特殊詐欺は、今この瞬間も行われており、新たな被害者が生まれてしまっている。一刻も早く、事件全貌が明らかになることを願う。

NEWSポストセブン

「詐欺」をもっと詳しく

「詐欺」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ