トップモデル→報道写真家に転身…実在する美しき女性記者がモノにした“歴史的スクープ” 「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」を採点!
2025年5月12日(月)18時10分 文春オンライン
〈あらすじ〉
1938年。かつてモデルとして人気を誇ったリー・ミラー(ケイト・ウィンスレット)は、南仏での休暇中に芸術家でアートディーラーのローランド・ペンローズ(アレクサンダー・スカルスガルド)と出会う。たちまち恋に落ちた2人はロンドンで暮らし始めるが、第二次世界大戦の激化によって生活は一変。
英国版『ヴォーグ』の写真家として戦禍に見舞われた街を撮影するようになったリーだったが、さらに撮るべきものを求め、従軍記者として欧州本土へ渡ることを決意。そして、アメリカ『ライフ』誌のフォト・ジャーナリスト兼編集者のデイヴィッド・シャーマン(アンディ・サムバーグ)とチームを組み、次々と歴史的スクープをものにしていくのだった。
〈見どころ〉
何と言ってもK・ウィンスレットの気合いの入った熱演ぶり。また、実際にリーが撮った写真の撮影シーンの再現にも注目。解放後のパリで、ナチスの強制収容所で、ヒトラーの浴室で。どんな状況下で、彼女が被写体にカメラを向けたのかがよくわかる。
美しき報道写真家の実像を描く!
『ヴォーグ』誌の表紙を飾るトップモデル、写真家マン・レイのミューズを経て、20世紀を代表する女性報道写真家となったリー・ミラーを、『タイタニック』で知られる女優ケイト・ウィンスレットが、8年もの歳月をかけて自らの製作・主演で映画化した意欲作。

配給:カルチュア・パブリッシャーズ
芝山幹郎(翻訳家)
★★★☆☆撮影や編集の技術が堅実で、A・デスプラの音楽も映像と響き合っているのだが、教科書どおりというこわばりがときおり目立ち、いまひとつ身を乗り出せない。リー・ミラーに「見者」の位置を与えようとしたにもかかわらず、主演女優に劇的な芝居をさせすぎているのにも首をかしげた。
斎藤綾子(作家)
★★★★☆マネの描く「草上の昼食」のような光景が、まだ女の価値を示す時代に、モデルにしては老いていると揶揄され、戦場に女性カメラマンは無用と邪険にされたミラー。彼女の写す戦場の現実は「ヒトラーの浴室」の1枚で男社会をあざ笑う。彼女の死後に発見された多くの殺戮の記録写真に祈りを。
森直人(映画評論家)
★★★★☆自ら製作も兼ねるウィンスレットの熱演がリー・ミラーへの敬愛を真摯に伝える。写真史ではマン・レイとの関係性で語られがちなミラーだが、女性の眼差しで戦争を捉えた先駆としての再評価が物語の軸。彼女と同時代の写真家セシル・ビートンが交差する光景など印象深いシーンも多数あり。
洞口依子(女優)
★★★★☆ウィンスレットがリー・ミラーを熱演。モデル、マン・レイのミューズ、シュールレアリストたちとの時代。『ヴォーグ』の依頼で報道写真家としてロンドン、パリ、ナチス収容所とファインダーを覗く彼女の人生を綺麗に掻い摘んだとも取れる。編集長役ライズボロー、友人役コティヤールも時代にマッチ。
今月のゲスト
マライ・メントライン(著述家)★★☆☆☆リー・ミラーという非凡な人物が戦争体験を通じ、何を感じてなぜ「歴史に残るアクションに踏み出したか」が描かれることを期待したが、そもそも、第二次世界大戦をめぐる情景的・心理的描写がありきたりな内容で、作品内で化学反応を起こしたとはいえず、不発に終わった印象。
Marei Mentlein/1983年、ドイツ生まれ。テレビプロデューサー、コメンテーター。そのほか、自称「職業はドイツ人」として幅広く活動。
※今号より、ゲスト評者としてマライ・メントラインさんにご参加いただきます。
INFORMATIONアイコン
『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』
監督:エレン・クラス(『エターナル・サンシャイン』撮影監督)
2023年/イギリス/原題:LEE/116分
TOHOシネマズ シャンテほかロードショー
https://culture-pub.jp/leemiller_movie/index.html
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年5月15日号)