花が好きだった介護施設の女性。ひとり息子が贈り続けた、たくさんの花柄のハンカチに囲まれて旅立った
2025年5月12日(月)12時30分 婦人公論.jp
部屋の壁のハンカチは、息子さんがフレームに入れて掛けて帰ったもの…(写真:stock.adobe.com)
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入居者の女性は花が好きだった
老人介護保健施設で介護の仕事をしている。ある日、Aさんという78歳の女性の部屋に入って目をみはった。美しい花の絵がたくさん飾られているのだ。
近づいてよく見ると、絵ではなくフレームに飾られた花柄のハンカチ。まるで花園のような部屋になっていた。
Aさんのひとり息子は近所でこぢんまりした町中華の店を経営している。彼が美大生の時、店主だった父が他界。息子さんは絵の道を諦め、A子さんと二人三脚で店を切り盛りしてきた。
母の日とAさんの誕生日にはハンカチをプレゼントし、ささやかな外出を楽しんだという。
花が好きなAさんは店の入り口に色とりどりの植木鉢を置いていた。だから、息子さんの選ぶハンカチはいつも花柄だったのだ。
花々に囲まれて
外出が少なかったAさんは、ハンカチを大切にしまっていた。
息子さんは、「いつか店を大きくして人を雇い、母親に楽をさせてあげたい」と考え、懸命に働いていたが、その日は来ないままAさんが心臓を悪くして入院。退院後も体調がすぐれず、私の働く施設に入所してきた。
働き者だったAさんはいつも笑顔で、おしぼりを巻いたりタオルをたたんだり、私の仕事を手伝ってくれた。しかし、徐々に歩行困難となり、やがて寝たきりに。
部屋の壁のハンカチは、息子さんがフレームに入れて掛けて帰ったもの。Aさんが亡くなった時、息子さんは「感謝のしるしです」とそれを一枚、私にプレゼントしてくれた。
お葬式では、棺で眠るAさんの上に色とりどりの花柄のハンカチが広げられ、まるでドレスのようだったという。いただいたハンカチを机に飾って、優しかったAさんを偲んでいる。
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