生涯“恋は遠い日の花火ではない”田中裕子の手本のような「女の生きる道」

5月12日(火)17時0分 messy

ダンシングクィーン~~~!と言いたくなるほど踊り上手(『ザ・レイプ』TOEI COMPANY,LTD.)

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 4月、桜が開花した途端、急に雨が降り続き、いよいよ東京は葉桜の季節です。その雨続きの切れ間の晴天、最後の桜日和、珍しく朝から体調がよかったので新宿御苑に行こうと思ったら、安倍首相の『桜を見る会』当日と見事バッティング。さらに大塚家具のお詫びセールとも重なり、新宿は、きっとお金持ちの奥様方で大混雑だったと思います。と、言いたいところですが、実際、桜にはももクロも列席していたし、大塚家具も今までにないお手頃感を打ち出すということで、意外に若者でわいわい賑わっていたかもしれません。

 今年の『桜を見る会』は、太田光、光代夫妻が出席したことで大きな話題を呼び、午前中の会の模様が、さっそく昼一番で取っ手出しされるほどのニュースに。大塚家具のほうも、知性溢れる美貌の久美子社長が一人一人にガーベラを配るという戦法が功を奏したのか、やはりニュースで取り上げられ、話題に。別の見方をすれば、これらのことがトップニュースかのような扱いをされるほど、平和。ちなみにガーベラの花言葉は、どの色をとっても悪い意味はありませんでした。才媛に抜けなしです。今のところ新宿は平和です。歌舞伎町にTOHOビルも建ったことだし。そして毎年、当たり前のように花見ができる平和が続いてほしい。やはり、戦争は起こらないでほしいものです。

 私は、終戦後に生まれたので、もちろん戦争を知りません。その上、締切日前になると、なぜか毎回倒れそうになるくらい体調が悪くなり(病は気から?)、日々を生きることに精一杯なので、普段、戦争について真剣に考える余裕もありません。しかし、今回のコラムネタとなるDVDをきっかけに、少し“戦争”について真剣に考えることになってしまいました。女性のためのwebマガジン“messy”のコラムネタを通して、まさか戦争について考えることになるとは……。人生は、いつでもわからないものです。一寸先は闇ですね。

 本コラム『昭和の女力』は、過去に一肌脱いだことのある名女優様方から、女としての何かを学ぼうというのが大まかな趣旨で、それ以上でもそれ以下でもないのに、なぜ戦争? 今回の田中裕子(敬省略)に原因が?

いい女の作られ方

 さて本題。話は大きくさかのぼり、沢田研二(敬省略)が、まだ「ジュリー!」と大騒ぎされていた1982年。ジュリーがフロントを努めていたザ・タイガースのコンサートに田中裕子が訪れた際、お互いファンだったことから仲良くなった2人。同年末の『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』の共演でさらに拍車がかかったのか、当時、妻子持ちだったジュリーと付き合い始めたとのこと(あくまでも週刊誌情報)。それから約7年の歳月を経て、1989年に入籍。大人気アイドルだったジュリーとの不倫略奪婚ということで、当時の田中裕子は “魔性の女”と散々騒がれていたみたいですが、お互いファンだったのなら、田中裕子が一方的に誘惑したとは到底思えず。きっとジュリーファンのやっかみや、事務所の力関係などいろいろなことがあったのだとは思います。

 でも、なぜ今さら遡って不倫のことなど蒸し返すかというと、この辺りの田中裕子が、実に艶っぽいのです。不倫は良くないことだとは思いますが、清潔感のある色気が満ち溢れていて、「“恋する女”は素晴らしい」と叫びたくなるほど。ジュリーに出会う前年に公開された『北斎漫画』ではヌードになっているにも関わらず、少年っぽさが全面に出ていてお色気皆無。一方、ジュリー後は、『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』のクライマックスのキスシーン然り、『ザ・レイプ』の最後のダンスシーン然り、『天城越え』の少年に向けた妖艶な流し目シーン然り、どれもこれもが、いちいち美しい。

 その美しさは、1985年の『夜叉』でカメラを担当した御大、木村大作氏が、「あの撮影の時、共演者もスタッフも、皆、田中裕子に惚れていた」と言うほど。高倉健さんもたけしさんも出ていました。そして、あの全世界が泣いた『おしん』もこの時期。ジュリーとの恋愛で、次々と花開いてゆく独身時代の女優・田中裕子。現在、NHK朝ドラ『まれ』でざっくりとした大胆な婆さんぶりを好演している彼女からは考えられない“妖艶さ”がこの時代に。結婚後は老け役も厭わず受け、着々と演技派の道を邁進し、2010年には紫綬褒章を受章するというすごさ。最近のドラマ『Woman』(日本テレビ系)での存在感と演技力は鳥肌もので、視聴者をざわざわさせてしまった彼女。始まりは不倫だったとはいえ、「本物の恋は、いい女を作る」と思わせる見本のような生き方です。

戦争前夜の女たちの“美しさ”

 で、田中裕子と言えば、最後に紹介したいのが、正月恒例“向田邦子新春スペシャルシリーズ”。このシリーズは、才媛・向田邦子原案、天才・久世光彦演出の鉄板タッグで作られ、そのほとんどに登場した田中裕子と大女優・加藤治子(敬省略)。このシリーズの舞台は、昭和10年代、戦争前夜の東京にある暗く地味な日本家屋と、学生運動を感じさせるアパートの一室が主。その時代に生きた山の手に住む中流家庭の男女の恋愛模様を描いた名作ですが、これ、大人になってもう一度見直すと、すごくいろいろ考えさせられます。惹きつけられてしょうがないです。淡々と押さえた加藤治子と田中裕子の演技が上手すぎて、1話見終わったらすぐ次の回が見たくなり、寝不足になりました。

 前に、ちょっと偉い人に文壇バーに連れて行かれ、しょっぱなから濃い話に。ついには「君は右か左か」と聞かれ、「考えたことないです」と言ったら追い出されそうで、トイレに何回も行ったことがあります。長い長い夜でした。高野悦子の『二十歳の原点』も好きだし、家田荘子の『極道の妻達』も素晴らしいノンフィクションだと思う。なんてとても言えない空気だし、それを言ったところで「中途半端だ」などと言われかねないし。酔っ払いの文学者は、本当に面倒。おまけに、1970年代に青春時代を生きた人と、私のようにお気楽極楽な80年代に青春時代を過ごした者とでは、考えも言語も違いすぎることを痛感した夜でした。同年代でも柳美里さんくらい、ものを書く決意と才能がなければ、ああいう場所にむやみやたらに足を踏み入れるべきではないと思いました。今、考えると、さっさと帰ればよかったです。

 話がずれてきました。とにかく、この向田×久世シリーズは、人間模様の描き方、それを演じる役者、ともに秀逸です。「夜が戸外も室内も暗い時代でした。けれど女たちはいつだって胸の中に小さな炎を燃やし、その火は周りが薄暗かったからこそ、今よりは鮮やかで美しかった」(TBSチャンネルwebより)という久世さんの思いが見事に体現されているドラマです。このドラマシリーズは、戦争前夜の落ち着かない緊張感のようなものが端々に出ていて、見終わった後、余計に平和を願いたくなりました。「馬鹿」と言った太田光と「馬鹿」と言われた安倍総理。桜の木の下で一枚の写真に収まった二人。方向や表現は違っていても、日本の平和を願う気持ちは同じじゃないか——と信じたい私は、やはり甘ちゃんでしょうか? 甘ちゃんすぎて「いい年こいてるのに箸にも棒にもかからない女だ」と言われそうですね。ちなみに大塚家具のセールは5月10日までだそうです。行ってみよっかな。照明欲しいし。

■阿久真子/脚本家。2013年「八月の青」で、SOD大賞脚本家賞受賞。他に「Black coffee」「よしもと商店街」など。好きな漢は土方歳三。休日の殆どを新撰組関連に費やしている。



 

 

 

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