押切もえの小説『永遠とは違う一日』、「山本周五郎賞」受賞で、「又吉コース」をたどれるか、それとも「水嶋ヒロ」コースか!?

5月12日(木)22時0分 おたぽる

『永遠とは違う一日』(新潮社)より。

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 歴史ある文学賞「山本周五郎賞」の候補作に、モデルでタレントの押切もえが執筆した小説『永遠とは違う一日』(新潮社)がノミネートされ、話題となってから1カ月弱。いよいよ受賞作発表が来週16日(月)に迫り、動画サービス「niconico」の「ニコニコ生放送」にて、「第29回三島由紀夫賞・山本周五郎賞」(新潮文芸振興会主催)の選考会が独占生中継されることも決まった。

 最近あまり見ないな、話題になったといえば千葉ロッテマリーンズのエース・涌井秀章投手との交際報道ぐらい……などと思っていたら、いつの間にか小説家として活躍しだしていた押切。元々読書家として有名だったという彼女は、2009年に『モデル失格〜幸せになるためのアティチュード〜』(小学館)というエッセイを出版。執筆作業が肌にあっていたのか、11年にも『LOVE my LIFE オトナ女子のための自分磨きレッスン』(扶桑社)を出版、さらに13年には初めての小説、『浅き夢見し』(小学館)を書き上げるまでに至った。

『浅き夢見し』は、主人公の売れない25歳のモデルが、モデル業界のアレコレに苦しみながらも、売れっ子モデルを目指し、頑張っていくというストーリー。著者の知名度があるだけに、そこそこのヒットとなったようなのだが、ネット上の書評などを探ってみると「浅い」「キャラもお話も薄っぺらい」「中高生にはいいかも」と、反応は必ずしも芳しくない。現役モデルならではと期待された、業界裏話にも特に目新しいエピソードもなく、「読書が好きで、ちょっとした文章を書ける女性」という範疇から外れるものではなかったようだ。

 さて、今回候補作としてノミネートされた『永遠とは違う一日』の出来はどうなのか。本作は「小説新潮」(新潮社)にて連載された6本の短編から成っている。主人公がモデル事務所のマネージャーだったり、スタイリストだったり、押切にとって身近な存在を主人公に据えた作品もあるが、絵描きや助産婦といった主人公もいる。設定年齢も20代から40代バツイチまで幅広い。かなりちゃんと取材したんだろうな、という努力が窺える感じ。

 サクサクと読みやすいし、「いろんな女性の(本当に人それぞれで、でもどこか共通している)悩みを思ううちに、書きながら泣いたこともあります。ひょっとすると私はこの本を完成できたことで、女性として、文章の書き手として、ほんの少しだけ成長させてもらえたのかもしれません」といった押切のコメントや、新潮社公式サイトにある「恋に仕事に、ふと立ち止まりそうになるあなたの背中をやわらかく押す連作短篇集」どおり、読後感もいい。正直、「山本周五郎賞」を受賞するほどかどうかは分からないが、小説2作目としては上出来ではないだろうか。

 なお「山本周五郎賞」は、すぐれた物語性を有する小説・文芸書に贈られる文学賞。主催は新潮文芸振興会、後援は新潮社で、1988年からスタート。割とガッチリとした読み応えのある骨太な小説が受賞するイメージが強いが、過去には吉本ばななや、11年には第8回R-18文学賞を受賞、その後『新潮ケータイ文庫』にて掲載された3編と書下ろしを加えて刊行された『ふがいない僕は空を見た』(作:窪美澄/新潮社)も受賞していたり、結構柔軟なところもある。ここで弾みがつけば、累計発行部数250万部を超える『火花』(又吉直樹/文藝春秋)的なブームにもなるかもしれないと、皮算用する関係者も多いことだろう。受賞する確率は結構高いのいかもしれない。

 ここで気になるのが、もし押切が見事受賞となった場合、彼女がちゃんと「又吉」コースをたどれればいいのだが、「水嶋ヒロ」コースへ陥ってしまわないか、といったところではないだろうか。

 10年、第5回ポプラ社小説大賞を受賞した『KAGEROU』(ポプラ社)。だがその後、作者・齋藤智裕が水嶋ヒロであったことが明らかになると、出版社および作者は応募者が水嶋ヒロであるということは隠して応募、受賞したものであり、受賞してから初めて分かったと主張してみたものの、もちろん多くの層から「ただの話題作りだろ」「出来レースか」と反発を買ってしまう。

 さらにその後も、ゴーストライター説が飛び交ったり、クライマックスシーンで主要人物の名前を間違える大誤植が発覚したり、返本がほぼできない“責任販売制”をとって書店を怒らせたりと、多くの話題を提供した『KAGEROU』。ここでミソがついてしまったのか、それともやはり結婚がマズかったのかは分からないが、その後の水嶋がパッとしないのは周知のとおり。よくも悪くも話題を集めたというのに、現在水嶋の公式サイトを見ても、文筆業に関する通知は一切ない。

 とはいえ、『火花』又吉コースほどの快進撃となるかどうかはわからないが、押切はすでにエッセイも含めると4冊も著書を出しているだけに、今後文筆業が先細りになってしまうこともないだろう。16日の選考会生放送を楽しみにしたい。ただ、気がかりなのは、今年2月26日に発売、有名な文学賞の候補作、しかも著者は有名モデルだというのに『永遠とは違う一日』のAmazonレビューが3件しかないこと(12日現在)。あれ、もしかしたらあまり話題になっていないのかな……。

おたぽる

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