研ナオコ、認知症のおばあちゃん役で9年ぶりの映画主演「主演女優賞を狙ってます(笑)」岡﨑育之介監督「研さんの人生の奥行きがにじみ出た」『うぉっしゅ』【インタビュー】

2025年5月12日(月)10時30分 エンタメOVO

岡﨑育之介監督(左)、研ナオコ(ヘアメイク:堀ちほ)

 人生に迷いながらソープ嬢として働く若い女性・加那と、彼女に介護されることになった認知症の祖母・紀江の交流を明るくポップなタッチで描いたユニークな映画『うぉっしゅ』が絶賛公開中だ。

 本作で、加那を演じる若手注目株の中尾有伽と共に、紀江役でダブル主演を務めるのが、9年ぶりの映画主演となる研ナオコ。作詞家・放送作家として活躍した永六輔を祖父に持ち、認知症の祖母と接した自身の経験を基に脚本を書き上げた岡﨑育之介監督と共に、ユニークな作品の舞台裏を明かしてくれた。



ーまずは、岡﨑監督が研さんに認知症の祖母・紀江役をオファーした理由を教えてください。

岡﨑 「介護が題材」と聞くと、普通はちょっと重い社会派の作品をイメージされると思います。でも、だからこそ誰もが笑って見られるコメディー映画にしたかったんです。そこから、「誰かを洗うこと」という点が共通する介護とソープ嬢の組み合わせを思いつき、自分が認知症の祖母と接した体験を踏まえて脚本を書き上げました。その作風にぴったりな、誰もがファニーなイメージを持つ方は誰だろう…?と考えた結果、「研ナオコさんしかいない!」と。

研 たくさんの俳優の中から声を掛けていただき、ありがたかったです。監督が、これから活躍していこうとする意欲に溢れた方であることも、お引き受けした大きな理由です。そういう人を見ると、応援したくなっちゃうんです。だから、「私で役に立てるなら、ぜひ」と。

岡﨑 しかも、クラウドファンディングにも協力してくださって。

研 お金払って映画に出てますから(笑)。それくらい、応援したいと思ったんです。ただ、1つだけ条件を出しました。それは、「妥協しないでください」ということ。若い監督が私に遠慮し、ワンテイクだけ撮って「OKです」ではなく、自分の作品なんだから、きちんと納得できるように撮ってほしくて。監督が永六輔さんの孫だと知ったのは、撮影が始まった後です。

岡﨑 恐れ多くも、そんなありがたいお言葉をいただいた以上は、それに120%応えないと失礼に当たるので、僕はとにかく自分のできることをまっすぐやろうと覚悟を決めました。

ー岡﨑監督の狙い通り、見事なはまり役でしたが、研さんはどのようにお芝居に取り組みましたか。

研 現場で監督の指示通りに演じただけです。「ここは、ボーっとテレビを見ていてください」と言われたら、その通り見ている…といった感じで。

岡﨑 お芝居について僕の方からは、研さんが実生活で経験ありそうな出来事に即してお伝えしました。例えば、実家に帰ってきた加那から、「おばあちゃん、久しぶり」と声を掛けられたのに、認知症で孫だとわからない紀江さんが他人行儀な表情をして気まずくなるシーン。ここでは、研さんがテレビ局を歩いているとき、若いADさんが「研さん、ご無沙汰してます」とあいさつしてきたけど、研さんは相手のことを覚えていない。そういう経験はありませんか、と。

研 しょっちゅうです(笑)。

岡﨑 そんなとき、取りつくろうように答える「ご無沙汰してます」をやってください、とお願いしました。

ー一目で認知症だと伝わる見事なお芝居でしたが、認知症の人のビデオを見るなどの準備はしたのでしょうか。

研 役作りのようなことは一切しませんでした。そういうことをやると、そのまねになってしまいますから。

岡﨑 役作りって、基本的には足し算だと思うんです。医者の役なら医学、教師役なら学校についてリサーチして準備する。それに対して、認知症の役は、毎日、記憶がリセットされるので、引き算になる。その分、すごく難しい。だから、とにかくシーンごとに何も考えず、目の前にあることだけをフラットに受け止め、反応してくださいとお願いしました。その結果、本当に素晴らしいお芝居をしてくださいました。

研 主演女優賞を狙ってますから(笑)。







ーところで本作は、研さんの9年ぶりの映画主演作だそうですね。

研 そういうことは全く頭になかったです。「何周年記念のお祝い」みたいなことがあまり好きではないんです。「何年やったからといって、何が偉いの?」と思ってしまって。自分が人間的に成長することで芸も成長し、ここまで何年かかった、というなら理解できるんですけど。常に「もっとうまくなりたい」と思っていて、これまで一度も、自分の芸に納得したことや満足したことはありませんし。

岡﨑 普通の人が何もないフラットな状態で、ただカメラの前に立つと、本当に何もしていない映像になってしまうと思うんです。でも研さんの場合、そういうご自身の人生の奥行きがにじみ出るから、役として成立するんですよね。

研 たぶん私、天才なんです(笑)。

岡﨑 あ、なるほど。天才だから、なんでもできると(笑)。

研 やめなさいって(笑)。

ー岡﨑監督は、本作製作のきっかけとして「社会的に弱い立場にある人にフォーカスを当てたい思いがありました」と語っていますが、それはなぜでしょうか。

岡﨑 僕自身、僕は僕として生きているだけなのに、「永六輔の孫」という血筋のせいで、小学生の頃から「人と違う」と言われて嫌な思いをしてきました。最近は、研さんからアドバイスをいただき、公にするようになりましたが、まだ完全にはそういう思いを払しょくできていません。周りから見ればぜいたくな悩みかもしれませんが、本人の意志と関係なく区別されるという意味では、「差別」と同じではないかなと。だからこそ、「人と違う」と言われて隅に追いやられがちな人たちを描きたい。そういう意味では、自分を救うためでもあると思っています。

研 「自分を救うため」と言いながら、監督はたくさんの人たちを救っているんですよね。そういう意味で、すごく優しい人です。同じようなつらい思いや嫌な思いした人の中には、差別する側に回ってしまう人も少なくないですから。撮影中も、「演じている人を生かしてあげよう」という優しさが、すごく伝わってきました。しかも、優しさには勇気が必要ですが、そういう勇気は作品にもよく表れていますし。

ーそんな思いを込めたこの映画を通して、新たに気付いたことはありますか。

岡﨑 公開前に試写を行ったとき、多くの方がご覧になった後、「私の祖母はこうで」、「祖父がこうで」、「今、親を介護していて」と、家族のことを自分から話してくださったんです。

研 「うちもそうです」と、SNSに書き込んでくださる方もたくさんいらっしゃって。

岡﨑 普通、家族の悩みを他人に話す機会は、なかなかないと思うんです。

研 まして、SNSに書き込むなんて、余計に勇気のいることですから。

岡﨑 でも、この映画がボールをパスしたかのように、皆さんが家族の悩みを打ち明ける機会になった気がして。それは、映画が完成してから気付いた新たな発見でした。

研 そういうきっかけを与えたこの映画は、やっぱりすごいよね。

岡﨑 それが波紋のように広がっていき、一人でも多くの方が自分の家族を肯定できるようになったら、すごくうれしいです。

ーそれでは最後に、これからこの映画をご覧になる方に向けて、メッセージをお願いします。

岡﨑 おばあちゃんと孫の2人が主人公ということで、実際にご家族を介護されている親世代から若い方たちまで、幅広く楽しんでいただける映画だと思います。ぜひ劇場に足を運んでいただけたらうれしいです。

研 自然体でご覧いただき、率直な感想をお聞かせいただけたらありがたいですね。

(取材・文・写真/井上健一)

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