行きつけだった須磨海浜水族園が閉園「アホンダラ」と思ったが…小学生の娘に“未来”を見せるため無理やり書いた内容とは

2025年5月13日(火)7時0分 文春オンライン


『幸あれ、知らんけど』(平民金子 著)朝日新聞出版


「もともと朝日新聞での連載3年分を書籍化したものなんですけど、連載分をまとめてもページ数が足りなかったんです。だから最初は、自分らでZINEを作ろうとしていたんですね。写真集みたいにしようとしてて、藤原新也の『全東洋街道』、あれをやりたいなって。そしたら朝日新聞出版の人が一回企画通してみていいですかって。それで単行本にするとなったら、今度は字書かなしゃあないんで、後半はほとんど書き下ろしですよ。第三章に書いた石垣島日記とか、統一感がなさすぎて、なんでこんなん入ってんねやろって自分でも思いますもん」


 と、平民金子さんの待望の新刊エッセイ集『幸あれ、知らんけど』が発売になった経緯は、ご本人が語る通り。2019年刊行のデビュー作『ごろごろ、神戸。』は、幼児期の娘をごろごろとベビーカーに乗せて連れ回し、神戸の街を昼間から酒を飲み歩く姿が印象的だった。2冊目の本書で娘は小学校に入学。親子の関係性にも変化が現れ、ちょっとした旅行に誘うにしても、子どもが興味を持ちそうなトピックを探し出そうとする様子が微笑ましい。


「前の本のとき、子は2歳とかそんなんで。やからベビーカーに乗せて勝手に好きなとこに行けたし、なんやかんやで子どもをある程度コントロールできたんです。けどもう今は、いちいち機嫌を伺わないと何もできません。対話が成り立つようになってきてるんで、たしかに随分時間が経った気がしますね」


 歳月の経過は、平民さんの暮らす神戸という街の変化からも感じとれる。この数年で、行きつけだった須磨海浜水族園(スマスイ)は閉園、名前を変え再オープンした。コロナが猛威を振るった時期には、居酒屋を飲み歩く生活にも変化が生じざるを得なかった。


「スマスイにしても商店街にしても、『ごろごろ、神戸。』の場合は、失われていくものに対して納得いかず惜しむような、大人の視点で書いていたんです。でもこの本では『そうは言ってもなあ……』っていう気持ちがすごくあった。スマスイがなくなることに『アホンダラ』って怒ってる部分もありますけど、怒ってるだけでは未来がないから、その先を書かなあかんなって。現実問題なくなるもんはなくなるし、もし将来的にこの本を子どもが手にとったとして、無理やりにでも上向きの着地を見せておかないとあかんっていうのがあったんです。だから新しい『須磨シーワールド』ですか? 行ってみて別に良いとも思わなかったけど、良いって無理やり書いたんですけどね。こんな『子どもは読まんやろ』と思う本でも、将来的に子どもが手にとることを考えたら、とりあえず希望を見せないといけないんじゃないか……。こう言うとほんまに陳腐な言い方にしかならないから、難しいんですけど。子どものいる世界に落とし前をつけなあかんという気分です」


 そう考えるのは、読書好きに育っている娘が近い将来、親の書いたものに興味を持つだろうという確信を、平民さん自身が抱いているからかもしれない。


「どこかで、いずれ子が手にとるというのを、前提として書いていた気がします。だから、書いてるようで書いてない部分ってたくさんあって。たとえば、うちの子が読んで嫌がるようなことは書いてないつもりです。枠にはめる言葉とか。身体的な描写とか。内面に踏み込んだりとか。そこは、いずれ子どものチェックが入ると思ってる。倫理観と言えばいいんかな、ビシッとしておかなきゃいけないところがあると思ってますね」



へいみんかねこ/1975年生まれ、大阪府出身。文筆家、写真家。中国、メキシコ、北海道、沖縄、東京などを転々とし、2015年から神戸在住。著書に『ごろごろ、神戸。』。「文學界」連載「めしとまち」は今月発売号で最終回を迎える。



(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年5月15日号)

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