石倉三郎 朝ドラ『ひらり』の中でキャベツを1枚ずつ剥がして食べる銀次役で大ブレイク。「群馬だ茨城だ、って視聴者からはキャベツばっかり送られてきて…」

2025年5月12日(月)12時29分 婦人公論.jp


「結局僕はのり平の棺を担いだんですからね。誇らしかったですよ。子供の頃から憧れた人でしたから。《求めよ、さらば与えられん》って言葉が浮かんだりしましたね」(撮影:岡本隆史)

演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは——。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第39回は俳優の石倉三郎さん。東映を3年で辞めた後も、大きな役はなくとも役者を続けていた石倉さん。大きな転機となったのは——。(撮影:岡本隆史)

* * * * * * *

<前編よりつづく>

のり平の棺を担いだ


コントを始めた頃、ビートたけしや三木のり平にも出会っている。

——たけちゃんとはね、最初のコンビの時ですよ。チャップリンズってね。浅草松竹演芸場に出てたけど、ウケも何もしないんですよ。

たけちゃんもツービートで出てて、ある時僕が楽屋に一人でいたら、「おじさん、なんか東映上がりで、演芸場で浮いてるらしいな」。

うっせえなこの野郎と思ったけど、「ちょっとやんねぇか」って奢ってもらってガンガン飲んで、帰って夜の部の出番。

酔ってますからわけわかんないですよ。それがウケちゃった。それで何かつかんだかもしれない。

でも最初の相棒とは別れて、今度はレオナルド熊と組んで「ラッキーパンチ」、次に「コント・レオナルド」。これが当たって、一躍脚光を浴びましたね。ある時、名古屋で飲んでたら店の女の人が来て、「のり平先生がお呼びです」。

「えーっ」って飛んで行きましたよ。「まぁ座りなよ、俺な、お前らのファンなんだよ」「いやもうとんでもないですよ」「お前、舞台やれよ、やったほうがいいよ、やれっ」ってね。それからはドラマや芝居で共演させていただいて、親父みたいな感じにまでなりました。

最後はNHK朝ドラの『すずらん』(99年)で、親子の役。2、3週分北海道で撮って、今度は東京でセットという時にのり平さんは風邪をひいて、そっからもうダメでしたね。

結局僕はのり平の棺を担いだんですからね。誇らしかったですよ。子供の頃から憧れた人でしたから。「求めよ、さらば与えられん」って言葉が浮かんだりしましたね。


映画『四十七人の刺客』では高倉健さん(手前)と共演した(写真提供:石倉さん)

「なんでこんないい役を?」


第3の転機はやはり朝ドラの『ひらり』で、俳優として全国的に名を馳せたこと?

——そうですね。相撲が大好きな娘の話で、親方夫婦が伊東四朗さんと池内淳子さん、島田正吾さんや僕の親父役が花沢徳衛さん、錚々たるメンバーでした。キャベツを1枚ずつ剥がして食べるのは、脚本の内館牧子さんの弟さんがそうやってたらしいですよ。

「変わってんねえ。それ俺がやるのか」「やってやって」って。視聴者からはキャベツばっかり送られてきて、もうすごかった。群馬だ茨城だ、って。近所中にあげて、いい顔できましたけどね(笑)。あれで役者としての自信がちょっと出てきたんですよ。

そしたら市川崑監督が僕を見初めてくれて、いい役をつけてくれた。それが『四十七人の刺客』って映画。最後の脱盟者ですよ、いい役でしたね。

「先生あの、なんで僕にこんないい役をくれたんですか?」「お前あれだよ、朝のドラマでキャベツ食ってたろ。あれおもろかったからな」って市川監督が。それで大石内蔵助役の健さんのところへも挨拶に行くわけですよ。楽屋にね。

扉をコンコンってしたら、お付きの人が「今着替え中です」「ダメですか?」「おー、サブちゃんか! 入れ!」ってなって、「いやぁ、潮が満ちて来たなぁ」「とんでもないですよぅ」「俺、この役は(小林)稔侍がやると思ってたんだよ。監督に訊いたら、朝のドラマでキャベツ食ってたやつだ、って。あ、サブちゃんか、って」。もう、嬉しかったですねぇ。

そして、いろんな俳優が、知的ステータスみたいにして演じたがる『ゴドーを待ちながら』出演に至る経緯は?

——えーと、共演した橋爪功さんとはいろんなテレビドラマで出会いましてね。お互いに大阪育ちなもんですから、気取ることのできない性分でしてね。『ひらり』から大分あとの『すずらん』でも共演しました。

その頃に、うちの女房のやってる店でヅメさんと飲んだりして、その時の二人の会話が、大阪弁ですからどうしたって漫才なんですよね。それを見てた演出家の森新太郎さんが、この二人でいつか『ゴドー』をやりたいと思ったそうで、新国立劇場の上演リストに挙げちゃったらしくて。

ある日、ヅメさんから電話があって、「お前、『ゴドー』って知ってる?」「それくらい誰だって知ってるだろ」「フーン知ってるのか」「どうしたの?」「いや、やるかお前。やるって話あんだけどさ」「ああやるよ」「えっ、お前やるの?」ってね。

そしたら、稽古に時間かかるよとか、あんなわけわかんない芝居さぁとか、もういろんな人がやって手垢がついてるしさぁとか、いろいろ言うんで、「やめてもいいよ、俺はヅメさん次第だよ」「じゃあやろう」「うん、やろうよ」ってなりましてね。

前にまだお笑いをやってた頃に、漫才の星セント・ルイスが早野寿郎さんの演出で、紀伊國屋ホールでやったのを何度か見てるんですよ。セントがやったんだから俺だってできるだろ、ぐらいのことなんでね。それがまぁ、初めての「新劇」ですかね。

不条理劇が大好きだったのり平さんがその舞台を観たら何と言ってくれただろうか。

——そうね、別役実さんとか好きでしたからね。もっと生きててもらいたかった。近ごろのり平さんとか九さんとか、叱ってくれる人がいなくなって、ほんとに寂しいけど、まぁそこそこ頑張ってますよ。

最近も朗読劇や映画などでご活躍の元気な「サブちゃん」に、声援を送ります。

婦人公論.jp

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