なぎら健壱 フォークシンガーの肩書き背負う時代への抵抗

5月13日(土)7時0分 NEWSポストセブン

吉祥寺のライブハウスで37年間月1ライブを行なう

写真を拡大

 古い時代の雰囲気が残る東京・北千住の路地裏をカメラ片手に歩き回りながら、なぎら健壱(65)が言った。


「大学がいくつか移ってきて雰囲気が変わり、今じゃ『住みたい街ランキング』にランキングされてるけど、それでもまだこの街にはいかがわしく、猥雑な雰囲気が残っているよね。本来、そういう危険な臭いのするところが街というものの魅力なんですよ」


 近年、昭和を感じさせる光景を集めた写真集や昭和についてのエッセーがブームだが、なぎらはその世界で筋金入りである。最初に昭和30年代の下町の少年とその遊びについて書いた本を出したのは、「昭和ブーム」が来るはるか前の1988年だ。以来、最新刊に至るまで何冊もの「昭和本」「下町本」を出している。


 なぎらは東京都中央区の旧木挽町(歌舞伎座のあたり)に生まれ、小学3年生から葛飾区金町で育っている。


「都会の変化は目まぐるしくて、次に同じ場所に来たときには以前あった建物がなくなっている、ということがよくあるでしょう。一夜にして忽然と消えてしまったような錯覚に陥りますよ。目の当たりにすると、何かが終わっていく感じがして寂しいというかね。だから、そうした光景を記憶に留めるために写真や文章にしておこう、と。義務感でやってるわけでもないし、自分に課しているわけでもないんだけど」


 これまたブームになっている「酒場本」をなぎらが最初に出したのは1983年。その頃は年間700軒飲み歩いていた。こちらも以来、何冊も著している。取り上げるのは、なぎら言うところの〈いまどきの流行の店でもなければ、カリスマシェフもいない、時代に逆行したマイノリティな店〉(著書『絶滅食堂で逢いましょう』より)ばかりである。


 なぎらには、消えゆくもの、終わりゆくものへの愛惜の念がある。そして、決して声高に叫ぶことはしないが、その裏には、愛着あるものが消えていくこと、終わっていくことへのささやかなる抵抗もあるのではないか。


 そんななぎらがこの春から出演しているのが、平日午後に生放送されているNHKの情報番組『ごごナマ』。木曜日のレギュラーで、昭和の時代を懐かしむコーナーなどを担当している。番組のタイトルロゴはなぎらが書き、テーマ曲はなぎらの代表曲のひとつ『フォークシンガー』。1983年の作品で、「強く昭和を感じさせる」として番組のプロデューサーが選んだ。


 なぎらは中学時代から美しいハーモニーとギター伴奏が特徴の「カレッジ・フォーク」の影響を受け、高校に入るとグループを結成。しかし、2年生になる頃、高田渡、岡林信康、高石ともやらの社会的メッセージの強い「アングラ・フォーク」に衝撃を受けた。


 グループ名は『シャンゼリゼ』から『真・民族平和民謡主義派集団・心の歌』へ変更。そして1970年、高校3年生の時にフォークソングの野外イベント『第2回全日本フォークジャンボリー』に飛び入りで歌うと「次の世代を担うフォーク歌手」と評価され、2年後にアルバムデビューを果たす。


 だが、学生運動が衰退するなど時代が大きく変わり、音楽の人気もフォークからニューミュージックへと移った。フォークでは生活できず、建設現場で働き、飲み屋を開いた。そんな生活が何年も続き、家でヤケ酒をあおっていたある晩、ドラマへの出演依頼を受けた。『2年B組仙八先生』(TBS系。1981年春から1年間放映)だ。以来、ドラマ、映画、バラエティー番組、ラジオなどから声が掛かるようになった。


 現在、なぎらは東京・吉祥寺のライブハウス『MANDA-LA2』で月1回ライブを行なっている。これは37年間欠かさず続けているものだ。その他、各地でコンサートを開いている。


 仕事量としては新聞、雑誌でのエッセーの連載、タレントとしてのテレビ、ラジオ出演の方が多い。だが、それでも、なぎらが自称する肩書きは「フォークシンガー」である。もはやフォークソングは過去のものではないのか?


「そういう風に言われるんだったら、フォークシンガーだと胸を張って言いたいね、逆に。冗談じゃねえと。死んでいったのはフォークもどき、似非フォークだと。私は今も民衆の歌としてのフォークソングをやっているよと」


 言葉に力がこもった。あえて「フォークシンガー」という看板を背負うことも、時代への抵抗なのかもしれない。


●なぎら・けんいち/1952年、東京都生まれ。フォークソングに傾倒し、1972年にアルバム『万年床』でデビュー。以後歌手としてライブ活動を行なう他、俳優としてドラマや映画、タレントとしてラジオやバラエティ番組に出演。また、『下町小僧』、『東京酒場漂流記』(共にちくま文庫)など下町や酒場をテーマにした書を数多く執筆している。現在、『ごごナマ』(NHK総合、月〜金13時5分〜)の木曜日にレギュラー出演するほか、『月刊日本カメラ』で写真付きエッセイ「町の残像」、『月刊デジタルカメラマガジン』で「酒場の情景」、『東京スポーツ新聞』水曜日にコラム「オヤジの寝言」を連載中。


■撮影/吉場正和 ■取材・文/鈴木洋史


※週刊ポスト2017年5月19日号

NEWSポストセブン

「フォーク」をもっと詳しく

「フォーク」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ