早すぎた『ホットスポット』だった…『スターマン・この星の恋』平成の酷評から一転、令和で愛される可能性
2025年5月14日(水)11時0分 マイナビニュース
●タイムリーな広末涼子の役柄
今春ドラマで話題性・実績ともにトップクラスの作品と言えば、『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)で間違いないだろう。同作は11年ぶりのシリーズ3作目であり、脚本家・岡田恵和の手がける、穏やかながらもシビアな世界観と会話劇に支持が集まっている。
その岡田の歴代作品リストを見て「これはタイムリー」と感じたのが、2013年放送の『スターマン・この星の恋』(カンテレ・フジテレビ系 ※FODで配信中)。主演は事故・事件で渦中の広末涼子であり、第1話に彼女が演じる「3児のシングルマザーが交通事故を起こしそうになる」というシーンもあった。さらに宇宙人をめぐる物語は3月まで放送された『ホットスポット』(日本テレビ系)と似ている。
当時、朝ドラ『あまちゃん』(NHK)が放送中で福士蒼汰と有村架純がかけもち出演したことで注目を集めながらヒットには至らなかった。むしろ福士と有村が目当ての視聴者からは酷評も目立ったが、令和の今なら岡田脚本らしい穏やかで心に染みるような作品に見えてくる。
ドラマ解説者の木村隆志が、改めてその魅力を掘り下げていく。
○岡田脚本らしい穏やかな人間模様
主なあらすじは、「夫に逃げられ、3人の息子を育てているシングルマザー・宇野佐和子(広末涼子)が、ある日、瀕死の青年(福士蒼汰)に遭遇する。佐和子はその美しさに一目惚れして助けたが、目覚めた彼は記憶喪失だった。彼女は青年に“星男”と名付け、『子どもたちの父親』とウソをついて同居させてしまう。疑似家族生活がスタートすると、不意に星男は不思議な力を見せていく……」。
全編を通じて表現されているのは、佐和子をめぐる家族、友人、職場の人々などの穏やかな人間関係。この点は、朝ドラ『ちゅらさん』『ひよっこ』(NHK)、『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)、『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジ系)、『最後から二番目の恋』シリーズなどで心温まる人間模様を描いてきた岡田脚本らしく視聴者を癒やしていた。
特に佐和子と長男・大(大西流星)、次男・秀(黒田博之)、俊(五十嵐陽向)の日常は微笑ましく、徐々に星男との距離が縮まっていく様子も心地よい。さらに佐和子の親友でスナックママの須多節(小池栄子)と常連客たち、勤務先であるスーパーマーケットの重田信三(國村隼)、臼井祥子(有村架純)、安藤くん(山田裕貴)、重田の古女房(角替和枝)らのキャラクターも牧歌的なムードを醸し出していた。
そしてもう一つ、岡田脚本の醍醐味として欠かせないのが、主人公のピュアな恋愛模様。夫に逃げられ、子育てと仕事に忙殺されるシングルマザーが一瞬で恋に落ち、忘れかけた恋心に火がつくシーンに年齢を超えたみずみずしさを感じさせられる。しかも佐和子は星男にウソをついた罪の意識こそあるが、結局「好き」「一緒にいたい」という気持ちが勝ってしまう。一方の星男も佐和子らへの思いを自覚していく展開なども含め、スローな恋の進展は希少価値が高い。
●『ホットスポット』との共通点
そして、岡田惠和の脚本の定番としてふれておかなければいけないのが、ファンタジーの要素。
これまで岡田は、女子高生が小さくなってしまう『南くんの恋人』(テレビ朝日系)、江戸時代の男女が生まれ変わって出会う『まだ恋は始まらない』(フジ系)、漫画の主人公が人間に恋する『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)、親友の女性2人が入れ替わる『さよなら私』(NHK)、人間に変身したセミが恋に落ちる『セミオトコ』(テレ朝系)など、多くのファンタジー作を手がけてきた。
『スターマン』におけるファンタジー設定は宇宙人の登場。当作は穏やかな人間関係とピュアな恋愛模様がベースだが、不意に「もし日常の中に宇宙人が現れたら」というシーンが登場し、終盤に向けてそれが加速していく。
星男が忘れ物を届けるために信じられないスピードで走るシーンや、素手で走ってきた車を止めるシーンなどがあったが、このあたりの特殊能力レベルは『ホットスポット』と極めて似ている。物語の舞台も“富士山のふもとあたり”で同じだけに、『ホットスポット』が記憶に新しい今、『スターマン』と見比べると面白いのではないか。
さらに、当作を見て思い起こされるファンタジー作は『ホットスポット』だけではない。70・80年代のSFドラマを彩った『少年ドラマシリーズ』(NHK)である『タイム・トラベラー』(時をかける少女)、『なぞの転校生』らの不思議で甘酸っぱいムードが感じられる。
ただ、両作のようなファンタジー要素の濃い作品を期待した人にとって『スターマン』が肩すかしだった感は否めない。前述したように、当作は穏やかな人間関係とピュアな恋愛模様がベースの作品であり、タイトルの割にファンタジー要素が少なく、それが酷評を招いた一因だろう。
○最後まで大きな出来事は起きない
特にファンタジー作に付きものの、壮大で切ないラストを期待していた人にとっては消化不良だった。事実、ほのぼのとしたラストを見て「物足りない」という声も多かったが、『ホットスポット』の成功を見る限り、「時代が早すぎた」のかもしれない。「宇宙人も含め、みんな自分らしく幸せに」という多様性の時代を先取りするような物語だけに、今放送されていたら話題作になった可能性はありそうだ。
ちなみに当時、最終話が放送されたあと、「何か起きるだろうと思っていたら、結局何も起きなかった」というニュアンスの声がネット上に散見されたが、それこそが岡田脚本の真骨頂。実際、『最後から二番目の恋』シリーズでも、主人公の吉野千明(小泉今日子)と長倉和平(中井貴一)の関係は進展せず、和平の弟・真平(坂口憲二)の病状は変わらず、妹・水谷典子(飯島直子)は離婚や新しい恋をせず……など大きな出来事はほぼ起きていない。
『スターマン』は出ていった佐和子の夫・宇野光一(安田顕)が現れて星男と鉢合わせしたり、星男の元彼女・羽生ミチル(木南晴夏)が現れて佐和子のウソがバレたりなどのシーンがあったが、これらは本質ではない。「何げない日常の中に人間の愛すべき喜怒哀楽が詰まっている」「大きな出来事や急展開に頼らない」というスタンスに岡田脚本の真髄がうかがえる。
最後にもう一つ、見どころとしてふれておきたいのが、國村隼が演じる重田信三。佐和子の務めるスーパーマーケットに勤務40年のベテランで「星男のことを気にしている」という役柄だが、まさに“裏の主役”というべき存在感だった。星男との距離感、恐妻家である理由、世間を驚かせた有村架純とのシーンなど、福士と同等以上のインパクトで目を離せない存在として最後まで楽しませてくれる。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら