性的なコメントに「自分がすり減るような感覚が…」体操・村上茉愛(28)がアスリートへのハラスメント問題に思うこと
2025年5月18日(日)12時10分 文春オンライン
〈 体操女子で57年ぶりの五輪メダル、子役として活動したことも…村上茉愛(28)が引退後に指導者になった“切実な理由” 〉から続く
東京五輪(2021年)で日本の女子選手として初めて個人種目でメダルを獲得した、体操の村上茉愛(まい)さん(28)。現在は指導者として、後進の育成に尽力している。
思春期の体型の変化や生理、露出のある衣装への性的な視線など、女性アスリートが直面する問題について、村上さんが思うこととは。(全3回の2回目/ 続き を読む)

◆◆◆
——体操女子の環境についても聞かせてください。男子と比べると、「選手寿命が短い」とも言われていますよね。
村上茉愛さん(以下、村上) 現状では、ピークは高校生と言われていますね。でも、私が東京五輪で銅メダルを獲ったのは24歳の時でした。練習の質、気持ち次第でまだまだ伸びるはずなんです。私の時代より今の子たちの方が実力はあるのに、諦めてしまうのはもったいないと思っています。
女性アスリートをとりまく思春期の悩み
——思春期は体型の変化などで苦しまれるアスリートも多いですよね。
村上 10代の頃はホルモンバランスの関係で食べないのに太ったり、ウエイトトレーニングしても筋肉がつかなかったりと、自分で自分の体をコントロールするのがすごく難しい。思うようなパフォーマンスができず、メンタルも安定しないので、限界を感じてやめちゃう人が多い。私も、かなりつらい時期でしたから、気持ちはよく分かります。
——特に体操は自分の体一つで向き合う競技です。
村上 体の変化がそのまま結果につながりますから、ナーバスになるのは当然です。ただ、クラブチームなどでは指導者は男性が多いので、そこにはあまり触れてこなかったんだと思います。
過激なダイエットは絶対に避けてほしい
——体重や体脂肪もかなり厳しく管理されているイメージがあります。
村上 クラブによっては毎日体重を計るところもありますけど、私は指導者としては、食事制限をしたくないですね。むしろ食べたいものは食べて欲しい。もちろん、体に必要な要素を摂った上で、ではありますが。
食事制限をすると筋肉もつかなくなるので、当然ケガに繋がります。だから引退せざるを得ない。私はこの根本から見直さなければならないと思っています。
体操選手というより、まずは自分の体を大事にしてほしい。無理はせず健康な体を維持してほしい。だから過激なダイエットは絶対に避けてほしい。
——自ら、あまり食べようとしない、という選手もいるのでしょうか?
村上 見るからに「ほっそいな!」という子は心配になりますね。もちろん体質もありますし、個人の体型についてあれこれ言いたくはないんですけど……。
子どもって皮下脂肪が少なくて軽いから、男子も女子も関係なくポンポン飛ぶんですよ。ただ、思春期に入ると女性は脂肪がつきやすくなる、でも筋肉はつきづらいから思うように飛べなくなる。それで焦って、無理なダイエットをしているんじゃないか。そう思うときはあります。
ただ、体操は採点競技ですから、難易度の高い技を体で操ることだけでなく、演技力・表現力も重要です。そのためには、パフォーマンスを「魅せる」ための体づくりというのも求められます。体の線が細いとそれだけで印象が薄くなってしまうこともある。ただでさえ、欧米系の選手は大人の女性が美しい演技をしているイメージに対し、日本などのアジア系の選手は幼い印象を持たれてしまいがちですよね。
ストレスで生理が止まってしまうことも……
——思春期の乗り越え方は大きな課題ですね。
村上 でも、体の変化に徐々に慣れてさえ行けば、子どもの頃よりも表現力もつきますし、パフォーマンスが上がるんです。焦らず、それぞれが自分に合った調整方法を見つけていけば、絶対乗り越えられる壁だと思っています。
——女性アスリートの多くが生理で悩むという話も聞きます。
村上 私はそれほど悩みませんでした。ただ、大きな大会前などはストレスで脂肪量が減り、止まってしまうことはあったかな。
大学生になってもまだ生理が来ないという選手はたくさんいましたね……。一般的には体脂肪が10%を切ると生理が止まってしまうと言われていますけど、体操選手は限界ラインを切る選手が多いんです。極端な言い方をすると、生理がない方が楽なんですよ。気にすることがないから。それを当たり前に思っている選手もいる。
——生理が来なければ、試合と重なったりしないかという不安もなくなると。
村上 でも、この考えは絶対によくない。長く競技を続けるためには、ちゃんと食べて、トレーニングをきっちりやる。精神的な影響を受けやすい競技なのでメンタルヘルスも重要。ベースが整った状態で競技に全力を尽くすのが本来の姿です。
——目に見えない不調は軽く扱われてしまいがちですよね。
村上 大きな試合の前には必ずメディカルチェックがありますが、そこで引っかかる選手は少なくないですね。形成外科的なものもありますけど、貧血とかホルモン系とか……。多分、脂肪量、筋肉量、水分量などのバランスが一般の方と全然違うんじゃないでしょうか。
だから私は、ジュニアの選手から生理だったり、食事だったり、ヘルスケアの重要性を教えていきたい。男性指導者だとなかなか触れづらいところだとも思うので。
これからの選手に伝えたいこと
——村上さん自身はコンディションの調整に苦しんだことはないですか。
村上 あります! 大きなケガも何度かしていますし。だから自分の現役時代の反省を込めて、これからの選手に伝えたいんです。
私の大きなターニングポイントは高3から大学1年の時。やっぱり体重のコントロールに苦しみ、コンディションの調整に失敗しました。これまで出場すれば当たり前に勝っていた国内大会でも失敗するようになり、2015年、大学1年時の世界選手権には補欠でやっと選ばれるような成績不振。
やめてもいいやと思うぐらいやけくそになっていましたけど、「いや、このままでは終われない」と思い直したんです。私の小さい頃からの夢はオリンピックでメダルを獲ること。その夢が叶ってもいないのにやめるわけにはいかないって。
——指導者として、その時の自分に声をかけるとするなら?
村上 「ちゃんとやれ!」と言いたいですね(笑)。実際、当時は監督の瀬尾(京子)先生にもメンタルを整えていただいたんです。「考えを改めなさい」って。それ以降調子が戻ってきて、国際大会でいくつもメダルを獲れるようになったんです。
——体を知ることの必然性やメンタルヘルスの重要性は自分の経験からきているんですね。
村上 そうです。ジュニアの選手は多かれ少なかれ避けて通れない道。だったら、先に知っていた方がいいじゃないですか。今の選手たちの技術は私より高いので、この基本というか、土台をしっかり築いていれば、技術の上達はいくらでも出来るはずなんです。
メンタルヘルスの整え方は、選手個々の性格によっても違ってくるのでそこは注意深く観察する必要がありますね。
ライバル選手の棄権に涙を流した理由
——2021年の東京五輪、「絶対女王」と言われていた米国のシモーン・バイルス選手がメンタルヘルスの不安を理由に団体競技を途中で棄権しました。
村上 コロナ禍で行われた特殊な大会でしたけど、あれほどの選手でも「メンタルヘルスを優先したい」と棄権してしまうんだと衝撃でした。
——村上さんも試合後にバイルス選手の棄権を問われ、涙を流していましたね。
村上 東京五輪はモチベーションの持っていき方がすごく難しい大会だったんです。「コロナ禍の中で開催していいのか」という批判の声が私のSNSにも届いていました。不安な気持ちもわかりますし、でも厳しい声を直接目にするとやっぱり傷つくし、辛かったですね。それでもやるからには絶対に全力を出し切りたいし、勝ちたい。気持ちのコントロールがすごく難しかった。
試合後にバイルス選手のことを問われ、それまで心に閉じ込めていた感情が途端に溢れ出たんだと思います。実は自分でもびっくりでした。それまで「絶対に負けない」と必死に練習してきたけど、心は相当痛んでいたんだと自分の涙で気づきました。
メンタルヘルスが整わないとイップスになることもあるし、睡眠障害も引き起こします。実は、それで競技自体を辞めてしまう人も少なくありません。
——村上さんは メンタルの変化があったんでしょうか。
村上 私は、一週間後に試合があると思うとその日が迫ってくるような感覚になったり、試合ではレオタードではなく重いウエットスーツを着ているような感覚で演技したり……。メンタルヘルスはパフォーマンスに大きく影響するんですよ。だから若い選手には、まず心を整えてあげたいですね。
性的なコメントに「自分がすり減るような感覚が…」
——近年では体操選手のレオタード着用が選手にとってプレッシャーになるのではないかという指摘もあります。
村上 選手同士で練習している時は全く気にならないんですけど、大勢の目にさらされると意識すると、やっぱり恥ずかしさはあります。ネットニュースなどで性的な感じで写真や記事が取り上げられたり、SNSでそういったコメントが直接届いたりすると、自分がすり減るような感覚がするんです。若い選手にとっての精神的な負担は計り知れません。
——東京五輪でドイツチームがレオタードではなく、足首まで覆われた「ユニタード」を着て試合に出場したのも大きな問題提起だったように思います。
村上 選択肢が増えるのは喜ばしいですよね。こうした動きによって、性的な記事や盗撮行為などが無くなっていけばと思います。ただ、レオタードスタイルの方が手足が長く見えて演技が映える、体型が美しく見えるというケースもありますから、その辺りはバランスをみて、慎重に考えていけたらと。
対策として、透けない生地のレオタード着用の推奨、大会での写真撮影の規制などには体操協会全体で取り組んでいきます。
あと最近ではやっぱりSNSのコメントですよね。自分の経験から言えることは、見ない、気にしないことが一番なんですが、そう簡単にはいかないですし。どうしても気になってしまうようであれば、自分の気持ちを話せる友人、コーチなど、相談できる身近な相手を作っておくのがいいんじゃないかと思います。もちろん、私もその一人でありたいですね。
撮影=松本輝一/文藝春秋
〈 「私から結婚したいと言って、プロポーズは大晦日に…」体操メダリスト・村上茉愛(28)が初めて明かす、夫との“馴れ初め”と結婚生活 〉へ続く
(吉井 妙子)
関連記事(外部サイト)
- 【続きを読む】「私から結婚したいと言って、プロポーズは大晦日に…」体操メダリスト・村上茉愛(28)が初めて明かす、夫との“馴れ初め”と結婚生活
- 【もっと読む】体操女子で57年ぶりの五輪メダル、子役として活動したことも…村上茉愛(28)が引退後に指導者になった“切実な理由”
- 【画像】「美しすぎ!」“ゴムまり娘”と呼ばれた現役時代のハジける笑顔&2年前に結婚した村上茉愛さんの夫婦ツーショットも…(写真多数)
- 《第一子誕生》新婚の大谷翔平が語った、真美子夫人との“馴れ初め秘話”「2週間ちょっとの間に3回会って…」
- ダルビッシュ聖子(44)が明かす、夫との“馴れ初め”と結婚の鍵となった“質問” 「なぜこんなに慣れないんだろう」野球の世界でガチガチになることも…