新潟女児殺害、事故扱いを回避できた“遺体との会話”

5月18日(金)7時0分 NEWSポストセブン

事故現場付近では連日検問が続いた(撮影/共同通信社)

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 新潟県新潟市の大桃珠生(たまき)ちゃん(享年7、小学2年生)が殺害され、JR越後線の上り列車の線路に遺棄された事件で新潟県警新潟西署捜査本部は5月14日、死体遺棄と死体損壊の疑いで現場近くに住む会社員、小林遼容疑者(23才)を逮捕した。


 なぜ線路に遺体を置いたのか──その理由を巡って事件発覚当時、活発に議論された。全国紙記者が語る。


「殺人を隠すための偽装工作だとみられます。電車に轢かせて、遺体を大きく損傷させることで死因を隠蔽できると考えたのでしょう。珠生ちゃんの自宅にも近く、着衣に大きな乱れがあるわけではなかったため、容疑者は“子供が夜フラフラと線路に迷い込んで事故に遭った”または“自殺を図った”というシナリオを描き、『他殺』から目を背けさせようとしたのでしょう」


 実際に、現場には「事故だろう」と漏らす捜査関係者もいたようだ。犯人の術中にはまり、轢死体の状況を見て、“事故”扱いで処理されていた可能性もあったわけだ。捜査関係者が明かす。


「現場の様子に違和感を持つ捜査員もいました。田舎の単線とはいえ、大きな声ではいえませんが、年に数件は飛び込み自殺が起きます。その度に現場検証を行いますが、今回はいつもと違い、“出血が少なかった”んです。幼い子供だったからとも考えられましたが、何か不自然だぞと。そこで、急いで遺体を司法解剖に回したんです」


 今年1〜3月に放送されて注目されたドラマ『アンナチュラル』(TBS系)。主演の石原さとみ(31才)が演じたのは、警察や自治体からの依頼を受けて「不自然な死」を遂げた遺体を解剖するなど、法医学の知識を駆使して事件や謎を解決する法医解剖医だった。


 法医学の権威で、監察医として2万体以上の遺体を解剖した上野正彦さんが指摘する。


「法医学の仕事を簡単にいうと、事件を解決するための資料として変死体の死因を解明することです。遺体に残された傷跡や血痕などの些細な手がかりから、死亡時の状況や死因を探ることが法医学の役割であり、時には犯人像の推理まで行います」


 7日22時30分頃、事故が起きた。その日の真夜中には、珠生ちゃんの遺体は新潟大学医学部内にある法医学教室に運び込まれていた──。


◆お昼の給食がまだ胃に残っていた


 8日の早朝、警察からの緊急連絡を受けて、新潟大学法医学教室のA教授とその助手たち数名が、キャンパスに駆けつけた。「電車の轢死体に不審な点がある」と連絡を受ければ、すぐに飛んでいかなければいけない。もし事件だった場合、犯人逮捕のために一刻を争うからだ。



 解剖用の白衣を着用したA教授と助手たちは小さな遺体を前にして、まずは合掌し、遺体に被せられた布を取った。


「鉄道事故の遺体の状態はさまざまです。損傷が激しく顔などの身体的特徴がわからない場合、DNA鑑定が行われます。遺体が珠生ちゃんであることはお母さんが確認されたということなので、顔はきれいな状態だったのでしょう」(元検視官)


 A教授もまず注目したのは、遺体の出血が少なかったことだ。生きている人間が列車に轢かれれば大量に出血するが、死んだ人間は心臓が止まって体温が低下し、体が死後硬直するため、列車に轢かれても血はほとんど出ない。


「遺体は死後、線路上に遺棄されたに違いない」との疑いを強めたA教授は遺体の首まわりの傷をひとつひとつ丁寧に調べ始めた。すると、わずかに首を絞めた痕跡が見つかった。


 改めて遺体の顔をよく調べると、うっすらと赤みがかかってうっ血している。これは首を絞められて窒息死したしるしに他ならない。


 さらに検分を進めると、遺体の口元に押さえつけられたような跡を発見。遺体の頭部にメスを入れて、頭蓋骨の底部を確認した。


 人間は首を絞められると、頭蓋骨に達する頸動脈の血流が分断されて、白い頭蓋骨にうっ血の痕跡が残る。その痕跡を確認したA教授は、「女児は絞殺された」と確信した。


 続いてA教授は、遺体の胃に残された内容物を調べ、昼食として食べた給食の残り具合から、珠生ちゃんは遅くとも午後8時までに亡くなり、遺棄されたと結論づけた。すなわち、午後3時15分に下校途中で友人と別れた後、あまり時間をおかずに殺害されたと推定できたのだ。


 A教授とスタッフは「遺体との会話」を通じて、女児の死因と死亡時間を突き止め、犯人の死因の隠蔽の意図を打ち砕いた。鉄道事故の遺体の司法解剖が簡単ではないことは、想像に難くない。


「早朝に始まった司法解剖が終わったのは、正午頃でした。一刻を争う中で集中して作業を進めても、5時間ぐらいかかったそうです。解剖の途中経過を含めてA教授のチームからの報告を受け、殺人事件の捜査のための捜査本部が設置されたのは夕方4時30分頃のことでした」(前出・捜査関係者)


 すべての確認事項を終えると、A教授は遺体を丁寧に縫い合わせてから、最後にもう一度、助手とともに手を合わせた。


 司法解剖についてA教授に話を聞くと、「私たちは事件についてはお話をできません」と話すのみだった。


◆「他殺の証拠を隠すことはできません」


 法医学は「遺体との会話」を通じてその死因を突き止めることで、「死者の人権」を守ると上野さんは指摘する。



「死体はいろいろなことを雄弁に物語ります。たとえば『本当の首吊り自殺』と『偽装された首吊り自殺』では、顔面に生じるうっ血の度合いが異なる。本当の首吊りだと動静脈が一気に絞まるのでうっ血はないが、人間の力で首を絞めるとゆっくりと静脈が絞められるので顔が真っ赤にうっ血するんです。


 今回の事件では、犯人が自殺か事故死に見せかけようとしながら、遺体の頭部を残したのは犯罪としてお粗末。もっとも、頭部が切断されたとしても、人間は絞殺されると息苦しさから肺に溢血点がたくさん生じます。解剖すれば判明することであり、他殺の証拠を隠すことはできません」


 過去には解剖によって死因が覆されたケースもある。2007年6月に起きた大相撲時津風部屋の力士急死事件では、当初、被害者は事件性のない「急性心不全」で死亡したとされた。しかし、診断に疑問を持った遺族の要望で行政解剖を行ったところ、死因が暴行による「多発外傷性ショック死」であるとわかった。


 この時、遺体を解剖したのが今回と同じ新潟大学の法医学教室だった。


「今度の事件でもA教授らの尽力がなければ、珠生ちゃんの死は事故死として処理されていたかもしれません」(地方紙記者)


 何より、120cmの小さな遺体が最期の力で遺した痕跡が「真犯人」を告げたのだ。


※女性セブン2018年5月31日号

NEWSポストセブン

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