南部虎弾さんと“一心同体”支え続けた妻が葬儀で見せた涙…腎臓を分け与えたからこその愛情と絆

2024年5月19日(日)6時0分 マイナビニュース

●テレビ取材は絶対NGと決めていた妻
フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)で12日に放送された『芸に命をかけた人 〜南部虎弾と妻の約束〜 前編』(TVer・FODで見逃し配信中)。過激な芸を売りにするパフォーマンス集団・電撃ネットワークのリーダーであり、今年1月に亡くなった南部虎弾さんと彼を支え続けた妻を追った作品で、19日放送の後編でいよいよ別れの時が訪れる。
取材したのは、これまでも個性的な芸人たちの生き様を追ってきた朝川昭史ディレクター(NEXTEP)。密着を通して感じた南部さんの魅力、“一心同体”という妻との関係性、撮影を許された葬儀の様子など、話を聞いた——。
○「これが最後のテレビになるかもしれないから」
『ザ・ノンフィクション』で、ゲーム芸人・フジタがかつて自分を捨てた父を介護する姿を追った『あの日 僕を捨てた父は』を制作する朝川D。この取材で、フジタが芸人仲間とのいちご狩りに婚約者を連れて紹介したが、ここに参加していた1人が、顔中のピアスが特徴的な電撃ネットワークのランディー・ヲ様だった。
話をしてみると、リーダーの南部さんが腎臓を弱らせて命の危機に陥ったが、そこから復活して元気に活動しているという情報が。「腎臓の移植をしているけど、疲れやすくなって、過激なネタもできない状態だったんです。なので、早く若手の元気さんに次のリーダーとしての自覚をもってもらわないと、電撃はもうダメだろうと言っていたので、その師弟関係を追ってみたい」(朝川D、以下同)と取材への興味がわいた。
南部さんはすぐに快諾してくれたが、妻の由紀さんはそれまでテレビ取材は絶対NGと決めており、交渉は難航。それでも闘病の話を描くにあたって、「夫婦間腎移植」で腎臓を1つ提供し、いつも病院に付き添い、家でも減塩メニューの食事を作るなど、献身的に支え続ける彼女なしの取材は、考えられなかった。
そこで、南部さんから由紀さんを説得してもらうことに。決め手は、「これが最後のテレビになるかもしれないから」という言葉だった。
「もちろん、その時にこんなに早く亡くなるなんてことは分かっていなかったです。死ぬとか生きるということではなくて、もう年齢的にテレビに出られるギリギリだから、最後になるかもしれないということで、口説き落としてくれて、OKを頂きました」
○電撃メンバーも見たことがない自宅の様子
番組では、2人が暮らす古い自宅アパートでの生活の様子が映し出されているが、「電撃ネットワークはメンバーお互いがバラバラで、みんなプライベートで何をしているのか全く知らないそうです。だから、他のメンバーも家の中に入ったことはないそうで、撮影させてもらったと言ったらみんなびっくりしてました」という。
放送では由紀さんの気さくな人柄が垣間見えるが、間近で接して感じた夫婦関係は、「奥さんは南部さんの中に自分の腎臓が入ってるんで、“自分の腎臓が南部を動かしてる”と言ってますが、すごい愛情と絆を感じますね。常に寄り添っている感じで、腎臓を分け与えたからこそ、普通の仲の良い夫婦以上の愛情があって、本当の意味での“一心同体”なんだなと思いました」と印象に残った。
そんな夫婦2人ではラブラブな南部さんだが、現場ではプロの顔に。「あのユニフォームを着て、化粧をして、頭をひげ剃りで整えて、サングラスをかけることで、自分で自分を切り替えて、ステージに上っていましたね」。
田代まさしも…救いの手を差し伸べられた人たち
番組制作を通して改めて感じた南部さんの魅力の1つは、「人脈」だ。
「とにかく人脈がすごいんです。例えば安倍昭恵さんもパフォーマンスを見に来ますし、政治家や企業の社長とか、どこでどういうふうにつながったのか分からないんですけど、やっぱり人柄なんでしょうね。そういう人たちに“いい仕事ちょうだいよ”ってお願いしてうまく商売に利用すればよかったんでしょうけど、それができないからいつまでも貧乏なままで(笑)。でも、それを言ってこないから、お金持ちの人たちからすれば付き合いやすかったのかもしれません」
もう1つの大きな魅力は、「人情」。
「(後編の放送で)葬儀に参列した田代まさしさんも言ってますけど、人生でちょっとつまずいた人を拾って“頑張れよ”と救いの手を差し伸べるんです。それはメンバーもそうで、今日 元気さんが自衛隊を辞めてブラブラしてるときに入れてあげてるし、リチャードさんも大学の野球部で人間関係に行き詰まり、それが原因で両親が離婚もしてブラブラしてる時に声をかけて。やっぱり困っている人がいたら放っておけない。奥さんが“人間として素晴らしい人”と言っていましたが、そういう部分を感じました」
○明るく振る舞っていた妻が泣き崩れる
2023年8月に取材を始めてから、わずか5カ月後の今年1月20日。朝川Dは静岡での営業に同行することになっていたが、集合場所に南部さんが一向に現れない。その日の夜、営業が終わった後に危篤状態であることを知らされ、その数時間後に亡くなった。メンバーたちが早朝に病院へ向かうということで、そこについていき、霊安室で対面する。
「サングラスをかけて、髪も整えて寝ておられて。ついこの間まで元気だったし、あまりにも突然で、本当に驚きました。なんて言葉で表現していいのか分からないんですが、安らかな表情…という感じではなかったと思います」
後編では、番組が独占取材した葬儀の模様が流れるが、妻・由紀さんの泣き崩れる姿が胸を締めつける。
「葬儀の前に爆笑問題さんや肥後(克広さん、ダチョウ倶楽部)などが来てましたが、南部さんの服を身にまとって、ニコニコしながら一緒に写真を撮ったりして、努めて明るく振る舞っていました。そうやって南部さんになりきることによって、自分自身をどこか遠くにやっていたのではないかと思います。それが、一瞬自分に戻る瞬間があると、思いがあふれてしまう。だから、南部さんが亡くなってからは、カメラの前で南部さんのことについて語ることはもうできないと言われました」
●リーダーを引き継がせたかった中での急逝
若手メンバーの今日 元気を早く一人前にして、リーダーを引き継がせたかったという南部さん。志半ばの死だったのだろうか。
「自分がずっと死ぬまでリーダーでいるとは考えていなかったと思うんですけど、実は南部さんと若手の関係は、奥さんと南部さんの関係と同じなんです。奥さんが全部何もかもやってくれるので、南部さんは自分が飲まなきゃいけない薬も覚えられないように、電撃ネットワークは南部さんが全部決めてくれるし、アドバイスもくれるから、言われたとおりにやっていればいい。南部さんは“カミさんができるとダメな旦那になっちゃう”って言ってましたけど、電撃もそうだったのかもしれません」
結果として南部さんの死は、否が応でも若手メンバーを成長させる後押しになっていくのかもしれない。
そんな南部さんの若手への思いを汲んで、番組では各メンバーの人となりや葛藤も描いている。
「ランディーさんは自分のお店を持ってるし、リチャード(・ジョーダン)さんは親戚の会社があるから電撃がなくなってもやっていけるけど、元気さんは実家に勘当されて経済的基盤がないから、南部さんは一番心配されていたんです。だから、彼には早く一人前になってほしいという思いが強かったと思います。この番組で電撃ネットワークの名前がまた広がれば、いいなと思いますね」
○ゲーム芸人フジタの父が急死、クズ芸人の密着再会
これまで『ザ・ノンフィクション』で、売れない“クズ芸人”小堀敏夫、ゲーム芸人フジタ、そして今回の南部虎弾さんと、一癖も二癖もある芸人たちを追ってきた朝川D。彼らを取材する醍醐味は、どんなところにあるのか。
「それぞれに魅力があるし、僕らみたいにサラリーマンをやっている人間には到底理解できないような独特の個性の持ち主ですよね。芸人というのは“仕事”というより“人種”のようで、お金にならないことをやったり、テレビに絶対出られないような芸をずっとやったりしていますが、皆さんが自分の生き様を貫いていて、爪痕を残したいという強い思いを持って生きているのを感じます」
かつてフジタを捨てて認知症になっていた父が、フジタに子どもが生まれ、写真を見せに行こうとしたところ、今年4月8日に急死した。今後は子どもができたフジタの新婚生活を追っていくほか、小堀への密着も再開しているそうで、また目が離せない芸人のドキュメンタリーを見せてくれそうだ。

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