山田洋次監督 「入場料1800円で夢をお売りしますよ」

5月21日(日)7時0分 NEWSポストセブン

山田洋次監督にとって「夢」は大きな関心事

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 1961年に監督デビューして以来、山田洋次(85)は、一貫して「日本の家族」を描き続けてきた。監督作品85作目にあたる『家族はつらいよ2』(松竹系、5月27日公開)もまた、現代家族を描く喜劇だ。前作『家族はつらいよ』では、「熟年離婚」がテーマだったが、今回は「無縁社会」に焦点を当てる。


 物語は、老いと死、家族を軸に動いていくが、これまでの山田作品と違わず、至る所にユーモラスな「くすぐり」がちりばめられている。


 ストーリーの端緒は、出演者のひとりである蒼井優から聞いた「銀杏を棺桶に入れた話」にヒントを得ている。銀杏を核にして結晶ができ始め、次第に物語が膨らんでいったのだという。


『家族はつらいよ』2作では、橋爪功・吉行和子夫妻の長男夫婦として西村雅彦夏川結衣、長女夫婦を中嶋朋子・林家正蔵、次男夫婦を妻夫木聡・蒼井優が演じている。一見ばらばらな家族だが、トラブルにぶつかるたびに幸せに気づき、絆を深めていくのである。


 山田の中では、シリーズ3作目の構想がすでに膨らんでいるのだろうか。


「そうね、またつくりたいという気持ちはあるね。寅さんだって、最初は、こういう形で始まって、だんだん続いていったんだけど。これだけの出演者が揃っていると、ここにまた今回の銀杏のような核を放り込んでみると、こう結晶するんじゃないかなと、そんなことを想像するのは楽しいですよ。


 優秀なオーケストラを持っていて、そこにシンプルなオリジナルメロディの楽譜を放り込めば、みんなが素敵なアンサンブルの音を出してくれる。メンバーは、それぞれが自分の音を持っていて、黙っていても音楽ができちゃう」


 撮影中、『家族はつらいよ2』のタイトルデザインを担当した横尾忠則の話になった。横尾とは、『東京家族』(2013年)でイメージポスターを描いてもらって以来、つきあいが続いている。


「2人で会うと必ず夢の話をするの。僕と彼の間で謎なのは、夢って誰が考えてくれるんだろうってこと。見たことのない景色の中で、逢ったことのない人物が不思議な表情で聞いたこともないことを言う。


 どう考えても僕の過去に見た景色じゃない。フロイト流に言えば、潜在意識ってことになるんだろうけど、その潜在はどこで得たの? やっぱり、誰かが考えて伝えてくれているんじゃないの、なんて2人で話しているんですよ」


 山田が監督を務めた『男はつらいよ』の冒頭は、いつも寅さんの夢から始まる。「夢」は山田にとって大きな関心事なのだ。


 このとき、山田はこう続けた。


「昔、撮影所のことを『夢の工場』と言ったんです。僕たちは、夢をつくっている。僕がつくり、映画会社がそれを売る。だんだん頭が弱ってきて、夢が見られなくなった人には、入場料1800円で夢をお売りしますよ、と」


 かくして、85歳の巨匠は、夢工場で働き続け、86作目となる夢をまた産み落とそうとしているのである。


●やまだ・ようじ/1931年生まれ、大阪府出身。幼少期を満州で過ごし、1954年、東京大学法学部卒業後、助監督として松竹入社。1961年『二階の他人』で監督デビュー。1969年『男はつらいよ』シリーズ開始。『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)、『息子』(1991年)、『学校』(1993年)など多数の代表作がある。2002年に『たそがれ清兵衛』で国内の映画賞を総なめにし、第76回米国アカデミー賞外国映画部門のノミネートを果たす。毎年のように映画作品を発表する一方、近年は舞台脚本・演出にも精力的に取り組む。1996年に紫綬褒章・朝日賞、2002年に勲四等旭日小綬章、2004年に文化功労者、2012年に文化勲章など受章等も多数。


撮影■江森康之/取材・文■一志治夫


※週刊ポスト2017年5月26日号

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