英を参考にした「認知症初期集中支援」の中身はどんなものか?

5月21日(月)16時0分 NEWSポストセブン

世田谷区の高齢福祉部介護予防・地域支援課課長の高橋裕子さん

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 認知症の症状の出方や進行具合は個人差が大きく、本人はもちろん、家族も不安が尽きない。認知症の兆候のある親が受診や介護サービスを拒絶し、家族が困惑しているという話もよく聞こえてくる。


 そんな状況も支援するのが『認知症初期集中支援』だ。認知症になっても住み慣れた地域で暮らし続けられる社会の実現のために掲げられた『新オレンジプラン』の施策の1つで、認知症が疑われる人に複数の専門家で構成される支援チームが訪問し、約半年間集中して自立生活のための支援を行う。平成24年度に始まり、今年度には全国すべての市区町村で実施される予定だ。


 初年度からモデル事業としてスタートした全国14か所の1つ、東京都世田谷区の高齢福祉部 介護予防・地域支援課課長の高橋裕子さんと、世田谷区に設置されたチームの一員として実際の支援にあたっている、作業療法士の村島久美子さんに詳しく聞いた。


◆悪化してからでは医療も介護も生かされにくい


「これまでの介護現場の経験則としても、できるだけ早い段階から支援した方が、その後の経過がとてもよいということがわかっています」と言うのは高橋さん。


 認知症への不安からか、状態が深刻になり、自宅、地域で暮らすことが破たんし始めてから慌てて病院へ行くというケースが多いのだという。


「認知症は、認知機能が低下することで生活機能が徐々に障害されていきます。一般的に認知症が進むと新しいことへの適応が難しくなるため、たとえば訪問介護やデイサービスなど、本人を支援するためのサービスでも、認知症が悪化してからでは適応できないことが多いのです。もっと早い段階、本人の能力が残っているうちに、支援や人に出会って慣れておけば、その後に進行したときに、次の策への切り替えもしやすくなるわけです」(高橋さん)


 また高齢者にとって心配なのは認知症だけではない。


「何かいつもと様子が違う、まさか認知症?などと、不確かな不安で手をこまねいていたら、糖尿病やうつなど別の病気が原因だったということもよくあります。認知症は脳が障害される病気なので、進行すると全身機能に影響してきます。つまり内科的な管理が必要になるので、医療サポートも重要。介護、医療ともに、認知症のできるだけ早い段階から介入することで、結果、本人も家族も安心し、負担も楽になるのです」(高橋さん)


◆しくみの見本は英国の『メモリーサービス』


 国が『認知症初期集中支援』の施策にあたり、モデルにしたのがイギリスのメモリーサービスというしくみだ。



「イギリスにはGPと呼ばれる家庭医制度があります。どこか具合が悪くなったら地元のGPをまず受診し、そこから専門病院などへつないでもらう。その人の病歴から生活まで総合的に診ているGPが、自分の患者が認知症かもしれないと気づくと専門機関につなげて診断してもらい、さらに認知症の専門医療が受けられるメモリークリニックにつなげます。


 メモリークリニックでは、必要な医療を受けながら、地域で暮らしていくためのサービスやアドバイス『メモリーサービス』が提供されます。認知症と診断されたときから、病気をどう理解し、何を準備し、どう暮らせばいいかまで、寄り添って相談に乗り、情報提供をしてくれるのです。


 この『メモリーサービス』の機能を日本の介護保険制度で生かすべく考案されたのが『認知症初期集中支援』です。日本の場合はイギリスのようなGP制度ではないので、認知症で困っている人たちのところへ支援チームが出向く形。チームは、認知症サポート医と看護師を中心に、作業療法士、保健師、介護福祉士など医療・介護の複数の専門職で構成され、多角的にサポートできます」(高橋さん)


 日本でも最近、イギリスのGPに近い“かかりつけ医”を作ることが推奨されている。


「日本は基本的に診療所から大学病院まで自由に選んで受診することができますが、医療情報が一元化できないデメリットも。とくに高齢になり、認知症などいろいろな健康問題を抱えるとトータルで診ることが重要になります。


 基本的に医師は診療科目を問わず、認知症の基礎知識を持ち、診断することができます。最近は認知症医療の研修を受ける診療所の先生がたも増え、世田谷区をはじめ、診療所と認知症専門病院との連携体制を整える自治体も増えています。高齢になったら、医療の窓口は地域のかかりつけ医に集約することをおすすめします」(高橋さん)


◆その人に会う支援方法をカスタマイズ


 実際の支援とはどんなものか。作業療法士の村島久美子さんの仕事は、かなり生活に密着したものだ。


「まずチームとしての重要な役割は、その人の置かれている状況を医療面、生活面から見極めることです。たとえば持病などが認知機能の低下を助長していないか。記憶障害のために受診や服薬が滞っていたり、独居の場合などは脱水状態に気づかずにいたりしないか。また詐欺などに巻き込まれていないか。


 そして同じ程度の認知症でも支援のポイントや方法は人によってすべて違うので、生活習慣、職歴、性格などから、“その人”に合わせてカスタマイズします」(村島さん)


 たとえば“着替えができなくなった”という家族の訴えも、作業療法士が見ればまだまだ可能性が見えて来る。



「着替えは、まずたんすまで行き、どこに何が入っているかを思い出し、必要な服を取り出し、体に装着する。私たちはこの工程のどこが障害されて着替えられないのかを見つけます。もし服の場所がわからないだけなら、引き出しの1つ1つに、中の服の種類を絵に描いて貼っておくだけで解決することも。


 また長年、家族の食事を作ってきた主婦が調理に手間取るようになったケースは、調理道具や食器の配置が原因でした。できるだけ作業の流れが途切れないよう物の場所を変えたことで、体に染みついた調理する記憶は維持され、料理をする日常が戻りました。


 生活のすべてが作業の積み重ね。でも少しできなくなると家族は心配して、多くの活動を制限し、代わりにやってあげようとしたりしますが、高齢者本人の方は自信を喪失し、残った能力もどんどん失ってしまいます。


 認知症の人をよく観察し、できない部分だけをさり気なく支え、本人は“いつものようにできている”気持ちを持ち続けられる。できるだけ失敗体験を減らすことで認知症の進行抑制にもつながります」(村島さん)


 受診や介護を頑なに拒否する人への対応についても聞いてみた。


「今の高齢者は、認知症が何もわからなくなる病気といった思い込みが多いよう。また自分が困っている瞬間を忘れ、困っていないから受診の必要がないと、本当に思っていることもあります。


 一方的に否定したり、説得したりしないよう、そんなご本人の気持ちに寄り添い、辛抱強くお話をします。場合によっては、娘さんや息子さんのお友達として、日常的なお話から入ることも。ご家族もそんな視点を持つことで、家族内のコミュニケーションがスムーズになると思いますよ」(村島さん)


※女性セブン2018年5月31日号

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