本郷和人『べらぼう』家治へ涙ながらに忠誠を誓った田沼意次。そもそも佐野家の足軽だった田沼家が老中になれたのは「暴れん坊将軍」ことあの人の<大出世>あってのもので…

2025年5月22日(木)17時30分 婦人公論.jp


(写真:stock.adobe.com)

日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築き、時にお上に目を付けられても面白さを追求し続けた人物“蔦重”こと蔦屋重三郎の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合、日曜午後8時ほか)。ドラマが展開していく中、江戸時代の暮らしや社会について、あらためて関心が集まっています。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生がドラマをもとに深く解説するのが本連載。今回は「田沼家」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!

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老中として苦労を重ねる意次


何とか世継ぎをもうけてもらうために東奔西走するも、前回のドラマで十代将軍・家治から断念する意を伝えられた田沼意次。

家治からは謝意を伝えられると同時に、意次は涙を流しながら徳川家への忠誠を示していました。

その意次、次回は一橋治済へ、次期将軍に豊千代、御台所に種姫を迎える意向を伝えることになりそうですが、クセモノの治済のこと、はたしてすんなりとコトは進むのでしょうか。一視聴者として楽しみです。

ともあれ、老中としてドラマの最初からずっと苦労を重ねている感のある意次。今回は意次をはじめとする田沼家について触れたいと思います。

下級武士だった田沼家


田沼家の祖先は、平安時代に下野国の佐野庄を領有した佐野氏といわれています。同氏はムカデ退治で有名な藤原秀郷の子孫です。


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どうもこのあたりのことはドラマ内の意次の未来に繋がりがある話になりそうなので、そのうちに改めて解説することとして…。

本家でもある戦国大名・佐野家の家臣として働いていた田沼氏は、やがて紀州徳川家に仕えるようになります。

当時の身分は足軽というし、藩士としての事績もよく分かっていませんので、下級武士だったと考えるべきでしょう。

吉宗の出世と共に運が開けた父・意行


田沼家の当主で事跡が明らかなのは、意次の父の意行(1686〜1735)からです。

言い換えると意次のおじいさんまでは、田沼氏が何をやっていたのか、とんと見当が付かない、というのが本当のところです。

ともあれ意行は、紀州藩主になる可能性すらほとんど無かったころの徳川吉宗(当時の名は松平頼久)に仕えました。

享保の改革を主導したとされる吉宗は、現在ではドラマ『暴れん坊将軍』の主役としても有名ですよね。

ここから吉宗が奇跡のような出世を遂げ、意行の運は開けます。

たまに見かけますね、このパターン。有名なところだと『神皇正統記』で有名な北畠親房。

彼の家祖は村上源氏の中院家の庶子でした。日陰の身だったのです。そして玉座とは縁遠い、これまた日の当たらぬ存在であった邦仁王に仕えていました。

ところが運命のいたずらで邦仁王は後嵯峨天皇として即位し、すぐれた手腕を示して朝廷の実権を掌握します。この動きにつれて北畠の家も貴族として躍進し、大覚寺統(南朝)の柱石へと進化していったのでした。

幕府の旗本へ


宝永2年(1705年)、いくつかの偶然が重なり、徳川吉宗は第5代の紀州藩主になりました。同時に、意行は紀州藩の奥小姓に取り立てられます。

享保元年(1716年)、吉宗は今度は幕府の八代将軍に就任。そして意行は将軍小姓として召されました。

紀州藩士から、幕府の旗本に出世したのです。

彼は最終的には小納戸頭取という役職に昇り、田沼家のサラリーは600石となります。

今のお金になおすと年収4000万円くらいでしょうか。

老中として権勢を振るうようになるが…


意行の子の意次は、幼少から西丸小姓となり、後の九代将軍家重に仕えました。

その才幹を高く評価されて家重の側近として働くようになると、1759年(宝暦9年)に遠江相良藩1万石を与えられて大名になります。

家重の死後、今度は十代将軍の家治に重用されました。

1767年に側用人、さらに1769年に側用人を兼務したまま老中格に任じられ、1772年には老中になっています。

老中として権勢を振るい、いわゆる「田沼時代」を現出。相良藩主としては5万7000石までの加増を受け、城を築くことを許された、というのは『べらぼう』で描かれているとおり。

けれども「栄枯盛衰は世の習い」とはよく言ったもので、その権力には次第に翳りが見え出すのでした。

婦人公論.jp

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