小島慶子「迅速で誠実、新型コロナ対策が光った各国リーダーの共通点」

5月23日(土)12時0分 婦人公論.jp


ニュージーランドでは3人目となる女性首相、ジャシンダ・アーダーン氏(写真提供:AFLO)

〈来週5月26日発売の『婦人公論』から特別に記事を先出し!〉新型コロナウイルスという未知の病に世界中が苦慮するなか、対応が優れていると言われる国々があります。オーストラリアと日本を行き来し、ジェンダーの問題にも詳しい小島慶子さんにレポートしていただきました

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科学的事実に基づいて人命を最優先


新型コロナウイルスの対策が早期に奏功した国のリーダーには女性が多い、と言われています。

早期に国内のロックダウン(都市封鎖)に踏み切り、4月20日に「市中感染の封じ込めに成功した」と宣言したニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相。感染者数は多いものの医療体制を整えて致死率を低く抑え、経済的な打撃を受けた文化芸術への速やかな支援を行ったドイツのアンゲラ・メルケル首相。IT技術を駆使してマスクを行き渡らせ、徹底した情報公開で世界の注目を集めた台湾の蔡英文総統とデジタル担当政務委員のオードリー・タン氏。

無症状者も含めた積極的な検査と接触者の追跡及び隔離を行ったアイスランドのカトリン・ヤコブスドッティル首相。SNSのインフルエンサー1500人を通じて正確な情報を発信し、フェイクニュースや誤った情報の拡散を防いだフィンランドのサンナ・マリン首相。いずれも先進的で迅速な措置が奏功しています。

韓国やオーストラリアなど、男性リーダーのもとで感染拡大の抑制に成功しつつある例もあるので、「女だから優れている」というのは安易な見方ですが、2020年1月1日現在、女性の首脳は世界中に13人(バングラデシュ、バルバドス、ベルギー、ボリビア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、セルビア、台湾)しかいないことを考えれば、コロナ対策に成功しつつあるリーダーたちにこれだけ女性が多いのは、やはり注目すべきことです。

彼女たちに共通する特徴は、科学的事実に基づき人命を最優先する施策と迅速性、そして国民とのコミュニケーションの重視です。

なかでも4月9日に2週間の自主隔離から復帰したドイツのメルケル首相が行った演説は、日本のSNSでも数多くシェアされました。外出自粛で鬱屈する国民の気持ちに寄り添いつつ、医療崩壊を起こさないためには、今は外出自粛とソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つことが重要だと丁寧に説明。

「連邦政府を頼ってください。政府と私個人がこの仕事を担うことに期待していてください」「政府としてできることはすべてやる心づもりです」「“その後”は必ず訪れます。心から祝うことのできるイースター休暇はまたやってきます」と希望を与えました。

有言実行でさまざまな支援策が打ち出され、零細企業や個人事業主に対しても、所得制限はあるものの3ヵ月で最大180万円もの助成金を決定。申請からわずか2日で60万円が振り込まれたという人も。

また、記者会見で“1人の感染者が新たに感染させる人数(基本再生産数)を1人未満にすることが重要なのだ”と数値をあげて簡潔に説明。原稿を見るのではなく自ら理解した知識を淀みなく述べるさまは、物理学者でもある彼女が明晰な科学的思考の持ち主であることを示しました。


本論考が掲載される『婦人公論』6月9日号(5月26日発売)

科学者の意見をきかないリーダーたちが迷走を続けている世界の有様を見ると、サイエンスを軽視する人物をトップに据えることがいかに危険かがよくわかります(感染者に殺菌剤を注射するのはどうかな? と言った大統領もいましたね)。

メルケル首相の演説全文を読んで、危機の最中に自国のリーダーからこのような言葉を聞ける国民は幸せだろうなと思わず遠い目になってしまった人は多いでしょう。私も人生最大級の遠い目になって、ドイツが見えるんじゃないかと思いました。


台湾初の女性総統の蔡英文氏。現在2期目(写真提供:読売新聞社)

デジタル技術を駆使して市民と政府を繋ぐ


台湾の蔡英文総統は Twitter で盛んにメッセージを発信し、国民に対して感謝の意を示し“チーム台湾”としての連帯を呼びかけるだけでなく、他国にもポジティブなメッセージを送っています。

もちろん首脳のSNSは高度に洗練された政治的なメッセージでもあります(思いつきでツイートして顰蹙を買っている首脳や、国民の神経を逆撫でするような動画を上げて自ら信頼を落としているリーダーもいるけど)。台湾がこれだけコロナ対策で成果をあげているにもかかわらず、非友好的な態度を取り続けるWHO(世界保健機関)のテドロス事務局長に対しても、はっきりと抗議のメッセージを出しています。

こうした台湾の高度なデジタル戦略を支えているのがオードリー・タン氏。デジタル担当政務委員として35歳で入閣した彼女は天才プログラマーであり、デジタル技術を駆使して市民と政府をつなぐさまざまな取り組みを支援しています。

徹底した情報開示が信条で、テクノロジーを活用して市民が身近な課題を解決するいわゆるシビックテック・コミュニティと政府のチームとの橋渡しをするなど、政治家というよりは社会活動家に近い視点の持ち主のようです。タン氏はトランスジェンダーであることを公言しており、ジェンダー多様性という観点でも、台湾の政権は先進的です。

温かみとエンパシー(他者に対する想像力を働かせた共感)を重視したコミュニケーションでは、ニュージーランドのアーダーン首相が注目を集めました。記者会見での丁寧な説明に加え、夜子どもを寝かしつけた後に自宅からオンラインで国民の質問に回答。

外出制限下で、「歯の妖精とイースターバニーは来てくれるの?」と気を揉む子どもたちに「歯の妖精とイースターバニーはエッセンシャルワーカー(必要不可欠な労働者)と認めますよ。だけど今年はバニーもお家で家族と忙しくしているだろうから、もし来られなくてもわかってあげてくださいね」と笑顔で説明。(「歯の妖精」=乳歯が抜けた時に枕のそばに置いておくと、寝ている間にそれを小銭に替えてくれる妖精/「イースターバニー」=復活祭のお祭りに卵を運んできてあちこちに隠しておいてくれるウサギ)

科学的コミュニケーションと医学の専門家たちを同席させて子ども専用の記者会見を開き、子どもたちの新型コロナウイルスに関する疑問にも答えました。フィンランドのマリン首相も、オンラインで子ども向け記者会見を開いています。こうした取り組みからは、子どもを社会のメンバーとして尊重し、彼らにわかるような言葉で正確な事実を伝えようという姿勢が感じられます。


ドイツ史上初の女性首相、アンゲラ・メルケル氏(写真提供:AFLO)

男性優位社会で生き残るためには


さて、ここまで読むと「やっぱり女性こそが優秀で清廉なのでは?」と思いたくなるでしょう。しかし汚職疑惑で罷免された韓国の朴槿恵前大統領や、少数民族の迫害を黙認して国際人権団体から批判されているミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問など、問題のある女性リーダーもいます。

昨年12月に世界最年少の34歳で就任したばかりのフィンランドのマリン首相も、コロナ危機で打撃を受けた企業への政府の資金援助の基準が不明確であることに対する不安が広がるなか、このほど夫が取締役を務めるソフトウェア会社に政府の資金配分機関から多額の支援金が支給されていたことが判明し、釈明に追われています。

「女性なら誰でも男性より優れている」と安易に決めつけるのは、人の能力を性別で判断するという点では男尊女卑と変わりません。

昨年、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載されたリーダーシップ育成コンサルタント会社の調査では、19項目のリーダーシップ能力のうち、17項目で女性が男性を上回っていました。にもかかわらず、女性は自分の能力を低く見積もりがちであることも判明しています。

男性優位社会では、女性は多くの男性との不利な競争において、強引さでは勝ち目がありません。マッチョな鍔迫り合いの間隙を縫って、ライバルたちと差別化して生き残るためには、「話のわかる女」として力のある男性に引き上げてもらうか、その土俵とは適度に距離を置いて実績を積み、土俵の外に味方を作るかです。

権力者頼みの前者はナンバー2か操り人形になるのが限界ですが、後者は多くの支持があればトップの座につくチャンスがあります。人々に「女のくせに」というバイアスさえなければ。

富と力の所有を争う政治からシェアとケアの政治へ


では何が重要か。今回判明したのは、未知の危機に強い社会とは、科学的な事実に基づき、人命最優先で迅速な決断を下し、生活を守るための施策を確実に行い、透明性と国民とのコミュニケーションを重視するリーダーが率いる社会であるということです。

つまり、そのような資質を持った人物が、性別を理由に活躍の機会を阻まれることなくリーダーに選ばれるようなコミュニティこそが、強い社会なのですね。考えてみてください。人口の半分からしか意思決定者が選ばれない社会と、その倍の人数から人材を選ぶ社会では、どちらがより優秀なリーダーが生まれやすいでしょうか。

かねてフェミニストを公言している国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、今回の危機でジェンダー不平等の問題が浮き彫りになったと指摘しています。ケアワーク(介護、看護、保育など)など人の命を支える仕事についている人々の多くが女性であること、しかし構造的な男女格差により、そうした労働は無給であったり低賃金であること、女性は男性に依存する存在とみなされているために社会的支援が手薄なこと。これは世界共通の問題です。背景には、根深い性差別があります。

女性は男性よりも政治・経済における発言力が弱く、女性たちが関わる領域の課題は軽視され、後回しにされがちです。その結果、危機に際して最も脆弱なのも女性なのです。「誰も置き去りにしない」というSDGs(国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」)の理念に照らして、こうした性差別と男女格差は直ちに是正しなければならない課題であるとグテーレス氏は強調しています。

富と力の所有を争う政治から、シェアとケアの政治へ。コロナ後の世界のテーマはジェンダー平等。これまで“ないことにされてきた”女性たちにチャンスを与え報いることで、私たちは強く豊かになれるのです。

婦人公論.jp

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