中曽根氏の覚悟と大違い 安倍改憲の耐えられない軽さ

5月23日(火)11時0分 NEWSポストセブン

安倍氏と中曽根氏の「改憲」への思いの違いは?

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 大勲位中曽根康弘・元首相の「白寿を祝う会」(5月15日)で挨拶に立った安倍晋三・首相はこう述べた。


「党是ともいうべき憲法改正について中曽根氏に大先輩として考え方を示していただいた。今後、国民的な議論が深まっていくことを大いに期待したい」


 中曽根氏といえば、海軍主計少佐で終戦を迎え、日本国憲法公布の翌年(1947年)の衆院議員初当選以来、70余年の間一貫して憲法改正を説いてきた保守政治家として知られる。安倍首相はその大先輩の足跡を継ぐと宣言したのである。


 だが、安倍首相の言葉に違和感を覚えていたのは傍らで黙って耳を傾けていた大勲位その人ではなかったか。2人の改憲論には思想的にも手法にも似て非なる大きな隔たりがあるからだ。


「われわれは、いわゆるマッカーサー憲法を改正しようとするのでもない。明治憲法を改正するのでもない。これはいずれも過去の所産であります」


 日本が米軍の占領から独立して3年後の1954年、中曽根氏は当時の吉田茂・首相に国会でそう新憲法制定の必要性を質問し、翌1955年に最初の『自主憲法のための改正要綱試案』を発表した。37歳の時である。その後、1961年には首相公選制や自衛軍創設を盛り込んだ前文と11章からなる『高度民主主義民定憲法草案』をまとめ、政界引退後の2005年には『憲法改正試案』とこれまでの生涯に3つの憲法改正私案を書き上げた。憲法への思索を深め、国家観、憲法観を世に問うてきた人物だ。


 それに対して、安倍首相は現憲法の前文を「いじましい。みっともない憲法ですよ、はっきり言って。それは、日本人が作ったんじゃないです。そこから変えていくっていうことが、私は大切だと思う」(2012年12月14日)と批判し、「GHQに押し付けられた憲法だから改正しなければならない」という押し付け憲法論に立つが、未だ自身の改正私案を国民に問うたことはない。


 安倍氏の改憲思想は祖父の岸信介氏の遺志を継いだものだ。「自主憲法制定」を掲げた岸氏は首相時代に内閣に憲法調査会を設置して議論を進めさせたものの、中曽根氏のように私案を発表することはついになかった。


 その岸氏が晩年、長く務めていた自主憲法期成議員同盟の会長職を中曽根氏に譲ると言ってきたとき、中曽根氏は固辞した。


〈従来のスタイルでの憲法改正には、納得できなかったのです〉


 自叙伝『自省録』(新潮社刊)の中で中曽根氏は理由をそう書いている。


◆土井たか子との大激論


 岸氏の思想を受け継ぐ安倍首相と中曽根氏の改憲論の最大の違いは、憲法を安全保障など「国家運営のツール」と捉えるか、より広い視野で国家の将来のあり方を考えるかという立脚点の違いにあるのではないか。


 中曽根氏の秘書だった島村宜伸・元農水相は「中曽根さんは総理になっても自分が納得するまで深夜寝ないで勉強し、思索に耽っていた。だから憲法学者と議論するときも様々な学説をあげ、学者より詳しいと感じるほどだった」と語る。


 そうした思索の一端を中曽根氏が本誌・週刊ポスト(2000年1月1日・17日合併号)で明らかにしたことがある。


〈憲法とは何かを考えていただきたい。一般的には、国家あるいは社会のフレーム、型枠をつくるものと考えておられるけれども、もっと大事な憲法の生命の中核は、歴史と伝統をともに携えて同じ言葉を話し、同じ文化を持ち、そして運命をともにしていこうとする民衆の、民族のつくる共同体です。(中略)だから、歴史と伝統を無視した憲法はあり得ないというのが私の考えです〉


〈ナショナリズムのうえにリージョナリズムがあり、EUなんか国家主権が相当制約されてきている。さらにグローバリズムと、来世紀(21世紀)は主権の相克が起きてくる。それをどの程度見越して調和した憲法にしていくかが重要です〉


“押し付け憲法論”一辺倒の安倍首相とは思想の厚みが違う。


 政治手法も対照的だ。中曽根氏は首相時代、「護憲派の闘士」として名を馳せていた土井たか子・社会党委員長と国会で正面から9条改正論争を戦わせた。


 ベテラン政治記者の松田喬和・毎日新聞特別顧問は「中曽根さんは憲法改正には国民の声の高まりが欠かせないという信念を持っていたから、決して議論から逃げなかった。土井さんとの論戦は実に見応えがあった」と振り返る。後に土井氏も、「この総理大臣には哲学があるなという思いでそれまでの認識を変えた」と語っている。その原点は国民の声なき声に耳を凝らしたことだ。


〈私がいかに憲法は不合理であるから改正すべきだといっても、聞く耳などもちませんでした。GHQから与えられたものとはいえ、この自由と平和を手放すまいという頑なな欲求に、占領終結直後、治める側にいた私は気付かなかった。そういう国民の切実さに理解がおよばなかったのです。もう戦争はこりごりだという国民の思いに理解を持った人間でなければ、民衆の協力を得て、改憲など出来るわけがありません〉(『自省録』)


 憲法改正発言の真意について国会で野党議員に質問されても、「読売新聞を熟読してほしい」と論議を拒否した安倍首相との姿勢の差が際立っている。


※週刊ポスト2017年6月2日号

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