富山出身のロッテ・石川歩 緻密で幸せな“凱旋登板プロジェクト”

5月24日(木)11時0分 文春オンライン

 レフトスタンド奥に立山連峰が雄大な姿を現していた。富山市民球場アルペンスタジアムで5月15日に行われたオリックス戦。千葉ロッテマリーンズ主催の公式戦地方開催は05年以来(16年の東京D開催は除く)だった。先発マウンドには地元・富山出身の石川歩投手が上がった。誰よりも大きな声援を受けながらのマウンドとなった。


「嬉しかったですが、ちょっと変な感じでしたね。地元はどちらかというとオフになって、戻るところという感じがあって、シーズン中に戻ってマウンドに上がるという感覚がちょっと掴めなかった。楽しかったですけど、気持ちの入れ方が難しかったのが事実です」


“凱旋登板”を意識して組まれていた先発ローテ


 練習中もブルペンで投げている時もスタンドから地元出身の投手にいろいろなエールが飛び交っていた。球場には家族、後援会など多数の知り合いも駆け付けた。富山県魚津市の少年野球チーム「よつば野球少年スポーツ団」のメンバーと関係者の姿もあった。石川が小学校時代に在籍をしていた「本江野球少年スポーツ団」が他の3チームと統合。今年、新たに誕生したチームだった。その際、石川はユニフォームをプレゼント。子供たちは千葉ロッテマリーンズのピンストライプを元にデザインされたユニフォームを着ながらの観戦となった。 


 色々な人たちに見つめられながらのマウンド。「重圧は感じてはいなかった」と本人は否定するが、やはりどこかいつもの飄々とした背番号「12」ではなかった。6回を投げて被安打6、5失点。凱旋白星は叶わなかった。


 ちなみにアルペンスタジアムを高校野球の富山大会で使えるのは準決勝から。石川の高校3年夏は三回戦敗退。だから高校時代にこのマウンドに上がった事はない。開会式で中に入ったことがあるぐらいだった。一方でプロに入ってからは球場に毎年、訪れている。去年12月もオフ恒例となっている地元の小学生を集めての野球教室を行い、すでに富山での公式戦開催が発表されていたことから子供たちと5月15日の試合での再会を誓っていた。


 井口資仁監督もそんな石川の気持ちを汲んで開幕前にローテーションの順番を決めた。今季初先発は4月3日のオリックス戦(京セラD)。この日から毎週火曜日に先発をさせた。そうすれば5月15日の火曜日の試合に投げることが出来る。計算をしての事だった。「めったにあることではないからね。それをめちゃくちゃ意識してローテを組んだ」。指揮官はそう言って笑う。選手への親心だった。一度だけ試合が雨天中止となり水曜日に先発をしたが、それ以外は火曜日に投げ続け、この日を迎えた。



子供の頃から見ていた立山連峰を背に


 敗れはしたが、地元投手の先発登板に富山は盛り上がった。富山限定グッズは飛ぶように売れ、予想売上の1.5倍となった。平日にも関わらず1万41人の観客が訪れ開場前から長蛇の列を作った。特筆すべきは関東などからも1000人近いファンが駆け付けてくれたことだ。地域交流を行い本拠地ZOZOマリンスタジアムとはまた違う雰囲気を醸し出していた。地方開催ならではの醍醐味だ。そして球場スタンドのどこからでも立山連峰の雄大な姿を見ることも出来た。



立山連峰を望むことができる富山市民球場アルペンスタジアム ©梶原記章


「子供の頃からずっと見て育ちました。だから、立山連峰がある環境は当たり前だった。富山を離れて、帰省をしたときにその存在感に気付かされたのです。本当に素晴らしい景色です。そんな子供の時から見守ってもらっている立山連峰を背に公式戦で投げる。勝つのがもちろん一番ですが、自分にとってはとても意義深いことだったと思います」


 石川はそう話すと試合翌日、朝一番の新幹線に乗り、帰京した。地元でゆっくりしたいという想いはもちろんあるが、叶わなかった凱旋白星の悔しさを次回登板に向けるべく今は練習を優先する。帰り際、車窓から雄大な山々が見えた。次、富山に戻るのはシーズンオフ。胸を張って帰れる成績を残すべく必死の日々を続ける。そしてこの富山開催のためにプロジェクトチームを立ち上げ、約1年間をかけて千葉と富山の行き来を繰り返し、この日を迎えた大勢の球団職員も千葉へと戻っていった。わずか二泊三日。敗れはしたが濃く深い富山での日々を千葉ロッテマリーンズは過ごした。


梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)


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(梶原 紀章)

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