身長194cmの戸辺直人、“陸上のサラブレッド”橋岡優輝は東京五輪の金メダル候補だ

5月26日(日)11時0分 文春オンライン

 来年に迫った東京五輪で「会場で一番観戦したい競技」に陸上競技が選ばれたという。国内で非常に人気のあるマラソンや、リオ五輪で銀メダルを獲得した4×100mリレーも含めた群雄割拠の男子短距離陣などに興味を持つ人が多いのだろう。


 しかし、ここでぜひ、五輪前の今だからこそ皆さんに注目してほしい競技がある。それが、活躍著しい跳躍系種目だ。


一気に世界大会の優勝候補へと躍り出た


 実は今、日本の跳躍系種目が世界的にも躍動しているのをご存じだろうか。メダル圏内どころか、金メダルも現実的に狙える記録を連発しているのだ。



2019年2月16日、IAAFの世界室内ツアー・バーミンガム大会で優勝した戸辺直人 ©AFLO


 その筆頭が、男子走り高跳びの戸辺直人(JAL)だ。今年2月にドイツの室内競技会で日本記録となる2m35cmを記録すると、勢いそのままに世界室内ツアーでも総合優勝を飾った。現在の世界ランキングは5位だが、今季跳んだ2m35cmは世界トップの記録。これまで世界陸上、五輪を通じて日本勢はメダルすらなかった同種目で、一気に世界大会の優勝候補へと躍り出た格好だ。


 5月19日に大阪・長居陸上競技場で行われたゴールデングランプリでは、2m27cmの記録で優勝。この大会は、国際陸連主催の年間シリーズ「IAAFワールドチャレンジ」のひとつで、各種目に世界ランキング上位の選手が出場するハイレベルな大会だ。


194cmという長身ジャンパー


 記録的には自己ベストに及ばなかったが、強風のコンディションや本人も「苦手意識がある」という長居の固いサーフェスの中でも世界の強豪にしっかり勝ちきれたことで、かえって地力の強さを見せる形になった。



「今年は日本記録を跳ぶことはできましたけど、それ以上の記録を目指しているので、今の技術をさらに修正して、よりよい形にしたいですね。世界のトップ選手は皆、すごく勝負強い。世界選手権や五輪で自分の力を出せないと意味がないので、そういう選手になりたいですね。6月の日本選手権に向けて一度、跳躍をまとめて、9月の世界陸上へ仕上げていく形にしようかと思います」


 194cmという長身ジャンパーの戸辺は、中学・高校とともに日本一に輝き、2010年の世界ジュニア選手権では銅メダルも獲得した。


 もともともっていたポテンシャルは非常に高いものがあった一方で、これまでの日本人が到達していないフィールドだけに、その歩き方を模索しながら成長を続けてきた。



今季の好調の理由のひとつは……


 転機となったのは、筑波大学時代に欧州へと飛び出したことだ。日本では母校を拠点にする一方で、アスリートとしてはウクライナやエストニアといった東欧諸国に滞在し、ダイヤモンドリーグや世界室内ツアーの各大会だけでなく欧州で開催されるさまざまな競技会に出場した。


 日本式とは異なる「質」重視のトレーニング法や、長身選手ならではの跳躍法など、多くのことを学ぶことができたという。その後はケガにも苦しみ、右肩上がりの成長とはいかなかったものの、ようやくここにきてその成果が花開いている。


 今季の好調の理由のひとつは、助走の歩数を6歩に固定したことだ。それ以前はもっと多くの歩数で助走をすることもあったが、会場によってはスペースの関係上、助走が取れないこともあり、短い歩数で固定することにした。それによって跳躍のブレが少なくなり、記録が安定したという。


競技と研究の2足のわらじを履いていた


 走り高跳びは非常に繊細な競技で、数センチの踏切のズレが大きな記録の差につながる。ゴールデングランプリの大会後には、自身の跳躍をこう振り返っていた。



「2m30cmにバーが上がってから、追い風がすごく強くなってしまって。それまでの助走では踏切が中に入りすぎていて全然跳躍にならなかったので、最後は思い切って2足分、60cm助走を伸ばしたんです。それである程度、形になったんですけど、それでも全然踏切までは繋がりませんでした。最後の最後まで跳躍がまとめきれなかった感じです」


 風などの外部要因で微妙な感覚が変わってしまうからこそ、いかに良い時の跳躍を再現できるかが重要になる。再現性を高めるために、戸辺は昨季までは筑波大学の大学院にも所属し、競技と研究の2足のわらじを履いていた。修士課程を2年、博士課程で3年を過ごし、コーチング学の博士学位も取得。競技を科学の面からも紐解いた。そのことも自身の跳躍に活きているという。


「風が強かったり難しいコンディションの中でもそれなりにまとめられたのは良かったと思います。条件が良ければ35cm、40cmと、より記録も狙っていけると思う。世界選手権では金メダルを狙いたいですね」


両親ともに日本選手権で日本チャンピオンに輝いた


 もう一人、これまで日本が苦戦してきた種目で世界に飛び出そうとしているのが、走り幅跳びの橋岡優輝(日大)だ。


 今年4月のアジア選手権では自己ベストを13cm更新し、日本歴代2位の8m22cmをマーク。今季の世界ランキングでも4位に位置し、27年ぶりの日本記録更新と、初の世界選手権でのメダル獲得が視野に入ってきている。


 橋岡は、陸上競技界のサラブレッドだ。


 父は棒高跳びの元日本記録保持者で、母は100mハードルの元日本記録保持者。両親ともに日本選手権で日本チャンピオンに輝いた経験が複数回ある。また、Jリーグの浦和レッズに所属する橋岡大樹はいとこにあたる。そんな豪華なバックボーンに加えて、端正なルックスも相まって人気急上昇中の選手だ。



「まだ僕は日本記録を出していないので(笑)」


 当の橋岡は、7m80cmで3位に終わったゴールデングランプリでの跳躍についてはこう分析する。


「アジア選手権でも自分の跳躍ができなかった部分があって、まだそこをひきずっていた部分がありました。体力的な面でも、2月からアメリカに行ったり、何度も海外遠征をしていたりで、時差の関係があったり、多少体に疲れがあって。今一度、日本選手権に向けて作り直して、日本選手権ではしっかり日本記録を越えて3連覇を成し遂げたいと思います」


 ゴールデングランプリでの微妙なファウルの中には、8mを越えた跳躍もあった。好記録で安定した跳躍を維持できているようにも見えるが、本人としては記録的にはまだまだ上が見えているという。



「助走のスタートの時に、地面の“奥の方”を捉える感覚を大事にしていますが、その辺の感覚がいまはちょっと自分の中で乱れている。言葉にするのが難しいですが……自分の身体の真下で地面の“奥”を捉えられればいいんですけど、身体の後ろの方にそのポイントがずれてしまっていて、ちょっと後ろに力が逃げている感じがありました。


 そういうのもあって、スタートで上手く乗りきれなかった。そこをどう修正するかはコーチと相談しながらですけど、しっかり直せれば、普段通りの自分の状況に戻ってきて、また8m40cm〜50cmあたりの記録を狙って行けるかなと思います」


 この8m40cmという距離は、リオ五輪の金メダルの記録に相当する。橋岡はすでに、その領域まで視野に入ってきているのだろう。


「まだまだ今のままでは両親に認めてもらえないと思います。だってまだ僕は日本記録を出していないので(笑)」


 そう笑う橋岡には、限界はまだ見えていない。


記録以上に「勝負強さ」を求められる


 幅跳びも高跳びも、非常に複雑で繊細な競技だと言える。


 技術面もさることながら、その日のコンディションや体調次第で、トラック種目以上にガタっと記録が落ちてしまうこともある。だからこそ五輪や世界選手権といった舞台で好成績を残すには、記録はもちろんのこと、それ以上に「勝負強さ」を求められる。



 戸辺と橋岡には、その勝負強さも備わりつつある。


 戸辺は室内ツアー最終戦で、中国選手と最後まで競り合った試合のなかで、セカンドベスト記録を出した。橋岡は本調子ではなかったというアジア選手権で、追い詰められた最後の1跳躍で逆転勝利を決めてみせた。


 大舞台で本来の力を発揮できた理由のひとつは、2人がまだまだ自身の記録の先を見据えているからだろう。


 戸辺は「2m40cmを跳んでからが勝負」と明言しているし、橋岡も前述のように「8m40cm〜50cmまでは見えている」と語っている。


 これまででは考えられなかったレベルの記録を叩き出し続けている日本跳躍陣。


 東京五輪で最も盛り上がりを見せるのは、彼らの一跳びかもしれない。



(山崎 ダイ)

文春オンライン

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