PC遠隔操作事件冤罪報道 弁護団の存在と世間の空気が後押し

5月26日(月)16時0分 NEWSポストセブン

 片山祐輔被告(32)の「自作自演メール」発覚に端を発し、「私がすべてやりました」の自白という思わぬ形で幕を閉じたPC遠隔操作事件。


 この事件を巡っては、数多の冤罪キャンペーン報道があった。たとえば週刊現代は、小誌が確認しただけでも14回以上もこの事件を取り上げた。主な記事のタイトルはこうだ。


〈ネコ男の逮捕 PCなりすまし事件  罪だったら刑事も記者も全員クビです〉(2013年3月9日号)


〈警察と検察こんなやり方はどこかで見たような これまで、こうやって『 罪』は作られたのではないのか〉(2013年3月23日号)


 冤罪キャンペーンを繰り広げた週刊現代を読み返すと、勾留中は弁護士を通じて、保釈後は本人から直接語られた片山語録が幾度となく掲載されている。


〈私は無実です。遠隔操作ウイルスを作ったり、使ったりしたことはありません〉(2013年4月6日号)


〈僕は無実なのに、なぜわかってもらえないのか……〉(2013年4月20日号)


 今となれば、なんとも鼻白む告白である。己の身だけでなく、家族への言及も見られる。


〈母親が一人で辛い思いをしているので早く帰って楽をさせてあげたい。母親と一緒に正月を迎えることが今の私の願いです〉(2013年12月28日号)


 驚くことに、片山被告はこんなコメントもしていた。


〈真犯人は名乗り出てほしい。せめてメールで私が犯人ではないことを証明してほしい〉(2013年12月28日号)


 その後の「自作自演メール」の“犯行予告”とさえ受け取れる内容である。結果として週刊現代には、片山被告の偽りの陳述が長期にわたって並ぶ結果となったわけだが、同誌のスタンスを端的に示したのが「片山さん」という呼び方である。


〈いつになったら自分は自由の身になれるのか。先の見えない恐怖に普通の人なら押しつぶされてもおかしくはない。(中略)それでも片山さんがこれまで耐えてこれたのは、(中略)「やっていないことは絶対に認めない」という固い信念があったからではないか〉(2013年4月6日号)


〈無実の訴えは家族にすら届かず、自分が具体的にどういった罪を犯したのかさえ説明されない。法治国家、民主主義国であるはずのこの現代日本で、出来の悪い不条理小説の主人公のような立場に、片山さんは置かれているのである〉(2013年6月22日号)


 足利事件(※注1)や袴田事件(※注2)などの冤罪事件では、その被害者を「さん付け」で記載する報道は珍しくない。だが、それはあくまで冤罪であることが確定、ないしは極めて濃厚になってからの話であり、公判中の呼称は「被告」だ。


 法廷で白黒が争われている最中から「さん付け」を通してきた同誌には、片山被告が無罪であるという確証があったのか。


 同誌が、片山被告擁護になったのには、まず弁護団の存在が大きいだろう。佐藤博史弁護士は、前述の「足利事件」で無罪を勝ち取った“冤罪弁護請負人”だ。その佐藤弁護士は、毎週のように同誌にコメントを寄せている。


〈弁護人になるまで、片山(祐輔)さんが「真犯人」であると私も考えていました。しかし、実際に接し、その肉声を聞いて、今は違うと確信しています〉(2013号3月9日号)


 冤罪事件のスペシャリストのコメントが、記事構成の大きな根拠となっていたことは想像に難くない。後押しはもうひとつあった。世間の空気である。


 厚生労働省の村木厚子事務次官が、局長時代に虚偽公文書作成・同行使の疑いで逮捕・起訴されるという事件が2009年にあった。同事件では、逮捕した検察側が証拠を改 していたという事実が明るみに出て、担当検事が証拠隠滅の容疑で逮捕されるに至った。常軌を逸した検察の行為は、国民的な検察不信を蔓延させた。


 そこから生まれたのが、“検察を叩けば読者の支持を得られる”という構造だ。


【※注1】1990年、栃木県足利市で発生した女児の殺人事件。行方不明現場のパチンコ店の常連だった菅家利和さんがDNA鑑定によって逮捕されたが、その鑑定自体に問題があったことが発覚し、2009年6月に再審決定。


【※注2】1966年に静岡県清水市で発生した強盗殺人・放火事件。放火先の従業員だった袴田巌さんが逮捕されたが、有力な証拠とされた衣類をDNA鑑定したところ、袴田さんのものでないと判明し、2013年3月に再審決定。


※週刊ポスト2014年6月6日号

NEWSポストセブン

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