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加瀬亮×三木聡監督インタビュー 俳優を魅了する三木映画“『日常』と『変』のループ”

cinemacafe.net5月27日(月)17時25分
初めて三木聡監督作品『インスタント沼』の現場に飛び込んだとき、加瀬亮は「何なんだ、この監督は!?」と衝撃を受けたというが、おそらく多くの観客がスクリーンの中の彼を見た瞬間にこう思っただろう。「何なんだ、この加瀬亮は!?」。これでもかというほど逆立てたモヒカンヘアにバリバリのパンク・スタイルで睨みを利かせる姿(でも実は意外と頼れるいい奴)は衝撃だった。

あれから4年。再び三木監督とタッグを組んだ『俺俺』が公開となったが、なんと今度の加瀬さんのヘアスタイルはまさかの“1:9分け”。ちなみに、インタビュー・ルームに現れた加瀬さんは丸坊主! 「どんだけ髪型自在なんだ?」というツッコミが起こること必至? というか三木監督は、あのガス・ヴァン=サント監督やアッバス・キアロスタミ監督も認めた日本が誇る名優・加瀬亮で何がしたいのか? そして加瀬さんから見た三木作品の魅力とは? 『俺俺』の公開を記念して2人が語り合った。

三木監督にとっては『インスタント沼』から4年もの歳月を経ての久々の映画となったが「世間が『いいかげんにしろ! くだらないことばかりやりやがって』と怒って、三木に映画を撮らせなかったんだと思います(笑)」とは監督自身の4年の空白に対する弁。その間、TVドラマ「熱海の捜査官」などを手がけたが「この『熱海の捜査官』ってドラマも、なかなか怒られそうなドラマだったんだけど(笑)、それを見て『そういうことやってるなら、こんなこともやってみない?』と連絡があった」と本作に携わることになった経緯を説明する。

原作は星野智幸の同名小説で、ひょんなことから主人公が増殖していき、やがて33人にもなった“俺”の淘汰と互いによる削除が始まるという不条理劇。どう考えても映像化しにくそうな物語である。監督がこの原作を自らの映画として再構築していく中で、何より重視したのは“日常”の存在。

「原作には原作のスピリットがあるけど、それをどう映画の脚本として構築し、映画としての落としどころをどうするか? 日常を壊さずに、いかにSF的な不条理を展開させるかがテーマでしたね。『ブレードランナー』や『マトリックス』のように、前提となるSF世界が構築されている世界で作るのとは違うからね。みんなが普段見ている、東京近郊の風景の中で“俺”が増殖していくのを形にしたかったんです」。

冒頭でも語ったように『インスタント沼』で、これまでにない衝撃を受けたという加瀬さん。本作では亀梨和也演じる主人公・均が務める家電量販店のめんどくさい上司・タジマを演じている。今回のオファーをどう受け止めたのか?

「前回はかなり面白い体験だったんですが、一方で監督のイメージになかなか近づけなかったという思いもあったんです。そこでまた呼んでもらえたのでぜひ挑戦したいという思いで、実は脚本も読まずに即答しました」。

「意味を考え出すと迷子になってしまう。一見、意味のないところに飛び込んでみると『生きてる』っていう実感が沸いてくるんです」。加瀬さんは三木ワールドに身を置く感覚をそう説明する。さらに、世間で“ユル系”“脱力系”とも称される三木作品の魅力を解き明かす上での重要なポイントとして、加瀬さんの口からも監督と同様に「日常」という言葉が飛び出した。

「一見、普通なのにそれが変に見えるというか…。例えば“普通の”映画の“普通の”青年って、ごく普通に見えて、実は整理され過ぎて日常のリアリティではありえないおかしなことをしていたりする。逆に日常生活に目を向けると、普通の人の生活ってよく見るとすごく変ですよね。三木さんの作品は、その日常の変な部分をそのまま見せてくれるんです。『日常』と『変』のループに入っていってしまうんです(笑)」。

三木監督は加瀬さんの分析に「僕にとってのリアリティは埋まってるし、それが条理だと思うんだけど、なぜか不条理と受け取られちゃうんだよね…(苦笑)」とボヤキ節。だが、この感覚は実は監督によるキャスティングにも強く影響を与えている。

今回、加瀬さんが演じたタジマ然り、強烈な個性を放つ登場人物もまた三木作品の大きな魅力と言えるが、三木監督にとってはキャラクター以上に、それぞれの登場人物たちの関係性、距離感がキャスティングの際の重要なポイントであるという。

「実は『この人にこんなキャラをやらせてみよう』といった意識はほとんどないんです。基本にあるのは人物の動きや立ち方、そこから生まれる人と人の距離感の面白さですね。2人の人間がフレームに収まっているとして、そこでどんな距離でどう立つのかって実は難しい。そこは役者さんの感性なんですよね。役者さんの顔を思い浮かべたときに『この人、こう動いたら面白いだろうな』とイメージが広がるかどうかですね」。

今回、主演の亀梨さんは異なる33人の“俺”を演じることを要求されたが、監督は、まさに自身の作品のリアリティの中で33人の人生を体現する亀梨さんへの称賛を惜しまない。

「特に今回、33人を『演じ分ける』というリアリティでは映画として成立しないと思ったんです。ひとり芝居で幾人もの役を演じ分けるのとは全く違う、チャンネルの切り替えが必要だと。映画を観てくれたある人の感想で『落語はいろんな人を演じ分けるのではなく切り替えてる。それと同じ感覚だ』というのがあったんですが、まさにその感覚ですね。その意味で亀梨くんは素晴らしかったと思います。先ほど距離感という話をしましたが、家電屋のシーンで亀梨くん、加瀬くん、ふせえりの3人でのコントシーンがあるんだけど、実はすごく難易度が高い。加瀬くんとふせが亀梨くんにスパーンっとツッコむんだけど、実はタイミングとかきっかけが決まってなくて勘でやるしかないんです。そのときに見せた運動神経や距離感はさすが。僕の映画の不思議なリアリティの住人だなと感じました(笑)」。

一部でささやかれるウワサでは…というか三木監督自身が堂々と語っていることらしいが、“三木ワールドの住人”として現場で積み重ね、培った感覚や能力は、別の監督の現場では全く還元されず、役に立たないと言われるが…。名だたる海外の名匠との仕事を含め、すでに60本を超える映画に出演してきた加瀬さんの意見は?

「そうなんですか(笑)? どうでしょう…さっきも言いましたが、役者ってどうしてもキャラクターやセリフを整理して、秩序立てたくなるものなんです。でも、そういうのを取っ払ってこそ自由になって、見えてくるものもある。そういう意味で、常に整理させずに鮮度を保った状態で演じさせてくれる三木監督のやり方は、役者にとってはほかの現場でも生きてくると思っています」。

理屈抜きに、制服姿で1:9分けの加瀬さんがスクリーンに姿を現すたびに笑いが込み上げてくることは請け合い! 奇妙なリアリティの中を生きる登場人物たちの掛け合いを楽しんでほしい。

(photo / text:Naoki Kurozu)
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