ストーカーの執着をかわすことは出来ないのか…「地下アイドルとファンの問題」ではない、小金井の女性刺傷事件

5月27日(金)16時0分 messy

 5月21日午後5時10分ごろ、東京都小金井市本町のイベント会場入り口で、その日に同会場でおこなわれる予定だったライブ出演者の女性が、男に刃物で刺された。女性は10代の頃に芸能事務所ホリエージェンシーに所属して女優活動をおこなっていたが、現在は事務所に所属せずアマチュアのシンガーソングライターとして音楽活動をしていた。容疑者の男は彼女のファンだったが、好意を受け止めてもらえずに逆恨みして犯行に及んだと見られている。

 容疑者は被害者のファンであり、その想いを自身のブログで綴っていたが、ある時期から被害者のTwitterアカウントへ執拗なリプライを送り続けるようになり、恨みを募らせていた様子だと報じられている。歌手やアイドルがテレビや大きなコンサート会場のステージでしか姿を見ることのできない“スター”ではなく、Twitterなどで事務所を介さずに写真や情報を発信したり、握手会やファンとの写真撮影会を開いて“会える存在”になってしまった現状が、こうした事件の背景にある……と見る向きもある。接触によって、ファン側がタレントとの距離感を見失い、暴走してしまうということだ。女性側が、男性ファンに“期待させるような”、つまり、あわよくば恋人同士になれるのではないかと想像させる活動をするから、勘違いした凶悪犯が誕生してしまう。また、素人と変わらない一般女性が警備されずにアイドル活動など行うから危険が伴う……。

 しかし問題は、そこなのだろうか?



 まず、過去を振り返ってみよう。インターネットというツールがなく、歌手やアイドル、女優が「選ばれし存在」であった時代でも、ストーカーによる傷害事件は発生していた。1963年、当時18歳だった女優・吉永小百合の自宅に、彼女の熱狂的ファンだという男が拳銃を持って押し入りむりやり刺青を彫らせようとする事件があった。双子の歌手・こまどり姉妹は公演中、姉の栄子と「結婚したい」と望む男性ファンがステージによじのぼり、妹のほうを刃物で刺し重傷を負わせるという恐ろしい事件の被害に遭っている。コンサート中のステージといえば、松田聖子も全盛期だった83年にファンから危害をくわえられている。公演中に客席最前列にいた男が舞台に上がり、スチール工具で聖子を殴打したのだ。歌手の中森明菜も、歌番組の生放送中に、男からノートを投げつけられたことがある。そのノートには明菜への思いがびっしり綴られていたという。アイドル歌手の倉沢淳美は、サイン会終了後におこなったファンとの握手タイムで、列に並んだ男からナイフで切りつけられた。握手会といえば昨年、グラビアアイドルの柳ゆり菜が新宿の書店で開いた握手会で、正規の列に並んでいない男からいきなり腕を引っ張られるという事件もあった。グラビアアイドルとして80〜90年代に活躍した本田理沙は、後年、テレビ番組で、幾多のストーカー被害に悩まされていたことを語っている。

 このように、遠い遠いテレビの向こう側にいるように見えたスターたちでも、ファンによる傷害事件の被害者となった例は少なくない。武蔵小金井の事件が「アイドルが身近になってしまったから」「接触イベントで男を誤解させるから」起こった事件だと言いきることは出来ないだろう。さらに言えば、被害者を地下アイドルとして報道し、「地下アイドルが過激な商売をしたせいで刺された」と誤解させるようなワイドショーもあったが、被害に遭った女性は冒頭にも記したように、シンガーソングライターだ。AKB48がアイドルブームを起こして地下アイドルが爆発的に増加する以前から、路上や小さなライブハウスで活動する女性シンガーはたくさんいて、筆者の友人にもそういう活動をする女の子がいた(何度か誘われて観客としてライブに行ったが、彼女は出番の後、フロアで常連らしき観客と「いつも見に来てくれてありがとうございます」等の軽い会話をしていた。その程度のファン交流は普通にあるのだろう)。

 この10年あまりで爆発的に増加した地下アイドルの接触イベントにまったく問題がないとは言わないが、それは今回の事件とはまた別の問題だろう。この事件の本質は、ひとりの女性が男性から一方的な好意を寄せられ、異常に執着され、危害を加えられたことにある。被害者は加害者から、アイドル的な存在として羨望を受けたというより、好意の対象としてつきまとわれ、拒絶したことで憎しみの対象になり、事件を起こされた。アイドル刺傷事件ではなく、ストーカー刺傷事件である。ワイドショーなどで「地下アイドルが過激な接待商法をするから、勘違いした男性ファンが凶行に及ぶ」といった、“わかりやすい解説”をするのは誤りだ。



 今回と同じような事件としてあげられるのは、上に列挙したタレントたちのそれではなく、たとえば今年2月に起きた九州の予備校生殺人事件だろう。2月27日の21時前、福岡市西区の住宅街路上で、一人暮らしの予備校生が、首や顔、頭など20カ所以上を刺され死亡した。犯行に及んだのは被害者と同じ予備校に通う男で、「好意を告白したが、お付き合いを断られた」ことが動機だったと供述している。2013年10月に東京都三鷹市の女子高校生が、元交際相手の男に殺害された事件もあった。男は復縁を迫り、拒絶されたことで犯行に及んだ。12年11月には、神奈川県逗子市で、女性が元交際相手の男に殺害されるストーカー事件もあった。いずれの事件も、際立つのは加害者の執着心だ。

 被害に遭う可能性のある大勢の女性たちに向けた防止法をどれだけ伝えたところで、逃げ切ることが出来るとは思えない。今回の事件についてワイドショーや報道番組が取り上げるならば、「アイドルとファン」の関係性や、被害者がとるべきストーカー防止策についてではなく、「加害者を暴走させないために社会は何が出来るか」という議論をすべきではないだろうか。

(水品佳代)

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