中国人は金銭的価値追求を諦めた日本から学ぶべき

5月27日(金)7時0分 NEWSポストセブン

ジャ・ジャンクー監督は1970年生まれ

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 格差や腐敗、中国社会の現在といった社会派テーマを得意としながら、作品は堅苦しくない。等身大の市井の人々を描く1970年生まれのジャ・ジャンクー監督の最新作『山河(さんが)ノスタルジア』の日本上映を機に来日した。中国の過去、現在、未来を照らす意欲作を通した現在の中国が抱える問題について、ジャーナリストの野嶋剛氏がジャ監督にきいた。


≪中国では、知識人や弁護士など、リベラルな主張を持つ人々が不明瞭な理由で逮捕・起訴されるケースが相次ぐ。言論の自由は、江沢民時代、胡錦濤時代に比べて、大きく後退した、というのが、現在の中国内外の共通した認識となっている。≫


──中国は反腐敗闘争で民衆の高い支持を得ていながら、一方で、言論の自由を抑圧しています。この矛盾した状況をどのように理解すればいいでしょうか。習近平指導部の対応は「謎」のようにも見えます。


ジャ・ジャンクー(以下、ジャ):私たちにとっても謎です。中国の政治家は常に社会の不安定に恐れを抱いています。ですから、中国では『穏』(安定の意味)が政治家の最も考えるべき問題であり、そのためには言論の自由は抑制する。そんな考え方が、この問題の根本にあるのかもしれません。


──日本には毎年のように訪れているそうですが、日本社会への印象は。


ジャ:日本はこの10数年で大きく変わりました。『落ち着いた』という印象があります。ある部分で、金銭的な価値の追求をどこかで諦めたと考えることもできます。この点で中国人は日本から学ばないといけません。中国人が日本人のように『落ち着いた』とならないのには理由があります。


 一つは日本では公平で公正な民主制度があり、医療や住宅、保険などが整っていることです。中国では食べ物すら安心できないし、諸制度も確立されておらず、人々は常に緊張を強いられます。そして多元的な価値観がいまだにない。また、中国はお金以外に、人生には文化やライフスタイル、家族など多くの価値観を持つべきです。

 

 しかし、中国では金銭単一信仰があまりに強い。だから人々がいつまでたっても日本のように『落ち着いた』感じにならないのです


──この作品でも主人公「タオ」はお金持ちの「ジンシェン」を結婚相手に選び、離婚するときは、お金のある夫のほうに息子の親権を委ねてしまいますね。


ジャ:彼女の選択はよく理解できるものです。この社会はそれほどロマンチックではない。タオは金のある男を選び、苦痛に満ちた人生を歩みました。私は、この作品を通して、人々のこうした価値観を変えたかったのです。金銭による束縛から、我々はもうちょっと自由になるべき時期を迎えています。


≪映画の最後に、年老いたタオがたくさんの餃子を一人で作るシーンがある。一人暮らしの老女が心で願っているのは、便りも途絶えた息子の帰りに違いない。遠く離れたオーストラリアに暮らす息子も、かすかな母との思い出を抱えながら、「故郷」への帰りを望んでいるが、その答えは映画では示されない。


 果たして、母と息子の邂逅はあり得るのだろうか。≫


ジャ:そうあって欲しいと思います。しかし……難しいでしょう


≪その言葉は、中国が「金銭」という価値観から立ち戻れるかどうかという問いに対する監督の本音を思わず漏らしたように聞こえた。≫


■撮影/五十嵐美弥


●ジャ・ジャンクー/1970年、中国山西省生まれ。北京電影学院の卒業制作で、出演者すべて素人の『一瞬の夢』が1998年のベルリン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞。以降、『プラットホーム』『青の稲妻』『長江哀歌』などで国際映画祭を席巻。前作は中国で起きた4つの暴力事件を描いた『罪の手ざわり』。


※SAPIO2016年6月号

NEWSポストセブン

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