高齢化するファンのために地下アイドルができること

5月27日(日)7時0分 NEWSポストセブン

「ファンが癒やされると私も癒やされる」と姫乃たまさん

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 ゴールデンウィークの前半、4月29日に『Mr.サンデー』(フジテレビ)で、孤独死した50代男性ファンのために、地下アイドルが追悼ライブを行った様子が放送された。インターネット上でも大きく話題になったこの特集を、地下アイドルでライターの姫乃たまさんは「人ごとではないです」と思いながら見たという。「卒業」せずに年齢を重ねるファンのために、地下アイドルは何をするべきなのか、姫乃さんが「バブみ」をテーマにするようになった理由とともに語った。


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 先日、デビュー9周年を迎えました。地下アイドルになってからもう、10年目になります。十代の頃は成人するまでに引退しようと思っていたので、短い期間をアイドルらしく駆け抜けなければと思い込んで、鬱っぽい日々を送っていました。しかし、活動期間が長くなるにつれて、アイドルらしくいることよりも、自分らしくいられることにこだわるようになって、いまでは自ら「地下アイドル」と名乗るのを止めています。自然体で活動を続けたことで文章を書く仕事が増えて、3年前に初めて単行本を出した頃から、アイドルライブに出演する機会がすっかり減ってしまったのです。


 しかし、これまで地下アイドルとして活動しながら、地下アイドルについての文章を多く書いてきたので、メディアで紹介される時は、どうしても肩書きが「地下アイドル」になってしまいます。現役でしっかり地下アイドル活動をしている人たちがいる中で、地下アイドルらしい活動をあまりしていない私が「地下アイドル」と呼ばれることを、ずっと肩身狭く感じていました。


 そのことでしばらく悩んでいたのですが、9周年の日をきっかけに地下アイドルを自称しなくなってから、反対に「地下アイドル」と呼んでもらうことに対しては何も思わなくなりました。私自身がどう考えていても、周囲の人たちや、特にファンの人たちにとっては、私が地下アイドルであることに変わりないからです。


 これまで過ごしてきた9年という時間。これまでのことを振り返っていると、自分とファンのこれからにも思いが及びます。


 地下アイドルは、ファンとの距離が近いところが特徴です。その近さを知らない人からすると、良くも悪くもちょっと驚くような交流もあります。この間は、悲しいけれど良いほうの交流が話題になりました。3月下旬に「アラサーロリータシンガーソングライター」の肩書きで活動している有坂愛海さんが、十年来のファンの追悼ライブを開催するとブログで発表したのです。


 有坂さんは、10年前からほぼすべてのライブに来てくれていた50代の男性ファンが、手術後からSNSを更新せず、まったく姿を見せなくなったことを気にかけていました。同時に有坂さんは、家族よりも顔を合わせていた彼の住所すら知らなかったことに気が付いて、アイドルとファンの関係についていろいろと考えます。過去の予約メールなどを頼りにようやく彼の自宅を探し当てましたが、訪ねた先で、近所の人から彼が既に亡くなっていたことを知らされました。男性ファンは独身で、家族もおらず、最期を見送るお葬式もなかったことを知り、有坂さんは彼のために追悼ライブを行うことにしたのです。


「ファンを亡くした気持ち」として記されたこのブログは、多くの地下アイドルにとって、また、有坂さんの1年後に活動を始めた私にとっても、いつか必ず起きるはずの、人ごととは思えない内容でした。地下アイドルとファンはたいてい、お互いに本名も住所も知らないまま、会社の同僚や、友人、もしかしたら家族よりも密接に繋がっているものです。


 あれから約1ヶ月が経ち、追悼ライブの様子がフジテレビの『Mr.サンデー』で特集されると、インターネットを中心に様々な反響が見られました。地下アイドルとして活動している人たちは、少なからず共感する部分があったと思います。私自身も、ずっと応援してくれているファンの人が突然姿を見せなくなったら、いてもたってもいられなくなるはずです。実際に自宅を探して訪ね歩いた有坂さんは、ファンを持つ全ての人たちに行動する姿を示してくれました。何より、いざという時に向けて、心構えが必要であることも教えてくれたのです。


 ほとんどの地下アイドルは、デビューして3年以内に辞めていきます。しかし、ファンのほうは、ほかのアイドルのファンになったり、ファン同士のコミュニティの居心地がよかったりして、滅多にファンを辞めることがありません。アイドルが引退することを「卒業」と呼ぶのに対して、アイドルファンを辞めることは「他界」と呼ばれるほど難易度が高いのです。そのため、特別な理由も思い当たらないのに、現場(ライブ)に姿を見せなくなったファンがいれば、地下アイドルは自然と無事を確認したくなります。


 特に有坂さんのように長く活動を続けていると、ファンもその年数だけ高齢になっているはずです。私も活動を始めた頃は30〜40代だった人たちが、十年経ってもファンを続けてくれているので、いまでは40〜50代になっています。


 地下アイドルのファンは、定期的に非日常空間であるライブ会場に通っているので、年齢のわりにみんな若々しくて元気な印象です。しかし最近は、ファンと話す内容も変わってきていて、親の介護を心配する声も聞くようになりました。長く付き合えるのが地下アイドルとファンの魅力である一方、年齢による様々な変化は避けられません。


 昨年、『職業としての地下アイドル』という本を書くにあたって、現役地下アイドルとファンの人たちにアンケートを実施しましたが、ファンのほとんどは独身の男性でした。自分のファンについても、思い返すと30代までは「すぐに結婚するつもりはないけれど、なんとかなるだろう」と元気だったのが、40代になって「結婚はあきらめたから」と宣言した途端、逆にガチ恋をこじらせてしまった例もあります。ひとりひとりの人生を全てどうにかすることはできなくても、自分がどうしたらよかったのか考えるきっかけになりました。


 よく、アイドルを応援するのには、恋愛のような楽しみがあるのではないかと言われます。実際にそういう側面が全くないわけではなく、私自身も恋するような楽しい気持ちを忘れないでいてもらうのが、アイドルらしいあり方だと思っていました。


 しかし一年くらい前から、恋愛感情よりも単に「癒やし」を与えることが、アイドルの仕事ではないかと思うようになったのです。それ以降は、自分の中で「バブみ」をテーマにして活動してきました。


「バブみ」とは、年下の女性に対して包容力などの母性を見出した時に使われるネットスラングです。通常は姉や母親のように年上の女性に対して感じる母性ですが、「バブみ」のポイントは年下の女性に感じるところで、地下アイドルとファンのケースに当てはまります。


 きっかけは、一昨年にシンガーソングライターの町あかりさんとアルバム『もしもし、今日はどうだった』を制作したことです。アルバム全体のコンセプトを決めるにあたって、すでに提供してもらっていた『たまちゃん!ハーイ』という曲を軸にしました。


 この曲には、私の呼びかけに対して、お客さんが手を挙げて「ハーイ!」と答えるやりとりが何度もでてきます。ライブ中にお客さんの様子をみていると、最初は恥ずかしそうにしていた人も、無邪気に「ハーイ!」と全力で答えているうちに、大人から子どもに返ったような独特の穏やかな開放感を得られているようです。それまで自分では気づいていなかった「バブみ」の重要性を、町さんには見抜かれていたのでしょう。いまではファンの人に「癒やされた」と言われると、きちんと職務をまっとうした気持ちになります。これのすごいところは、ファンが癒されると、私まで癒されることです。これでさらに活動が長く続けられます。


 この間、私よりもさらに十年ほど長く活動している方から、ファンの人たちの共同墓地を作って、いずれは自分たちもそこに入りたいと話すのを聞きました。前述のようにファンの人は独身の割合が高く、多くの時間とお金を日々アイドルに割いています。しかし、趣味で繋がっているファン同士の仲の良さや、趣味があることで楽しそうに生活している姿を見せてもらっているので、ファンの人たちに介護が必要な年齢になっても、何かしらの場を提供できる人でありたいというのが当面の目標です。もしかしたら地下アイドルを自称している時よりも、これからのアイドル業に必要な目標を持てているかもと、ひっそり思っています。


●ひめの たま/1993年2月12日、東京生まれ。16才よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行〜地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。

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