共産党に読ませたい天才数学者・志村五郎の天皇制論

5月27日(月)16時0分 NEWSポストセブン

評論家の呉智英氏

写真を拡大

 左翼と言えば天皇制に反対するのが普通だった時代は過去のもの、今では日本共産党も新天皇陛下即位にまつわる様々な議決に反対しなくなった。評論家の呉智英氏が、天才数学者の志村五郎による天皇制論について解説する。


 * * *

 五月十日付朝日新聞は「陛下即位の賀詞議決 共産党も出席・賛成」と報じている。共産党は一九九〇年秋の新帝即位礼ではまだ賀詞に反対していたのに。ほんの一ミリずつの後退だから目立たないが、気づいたら百キロも逃走していたようなものだ。天皇制打倒を叫んで投獄されたり虐殺されたりした先人に、どう申しわけするのだろう。あるいは、あと五十キロも後退してから反転攻勢に出るつもりなのか。共産党以外の過激派や市民派も小規模な集会やデモをやっている程度だ。左翼の衰退は歴然たるものになっている。


 私は天皇制擁護論者ではない。私の理想とする政治は哲人政治、すなわち「徳による階級制」(小島祐馬『中国思想史』)だからである。これは「世襲を防ぐ作用」を有する。徳が血統によって受け継がれるはずがないからだ。ましてや徳も知性も問われない民主主義的平等思想など、私が最も嫌悪するものである。


 詳論は機会を改めて述べるとして、産経新聞の一面コラム「産経抄」(五月六日)で面白い本を知った。五月三日、八十九歳で亡くなった数学者志村五郎『鳥のように』というエッセイ集である。


「志村さんは、中国の古典文学に関する研究書など、数学とは関係のない原稿も数多く残している」という。調べてみると『中国説話文学とその背景』という準学術著作もある。その志村が「戦後の論壇に大きな影響力を持っていた政治学者」丸山真男の「歴史認識の誤りや教養の欠如を批判していた」とある。


『鳥のように』にその批判文が収められていると知り、一読してみた。確かに、丸山は支那古典に想像以上に暗かったり、朝鮮戦争の認識が片寄っていたりと、もっともな批判だ。既に保守系の評論家も指摘している通りである。


 しかし、同書には「夜明け前」という興味深い一章もあった。


「仮に開国佐幕派が尊王攘夷派を打ち負かしても、明治の天皇制政府より悪かったとも考えられない」「御真影の配布とその礼拝、教育勅語奉読、君が代斉唱などの愚劣な習慣とその強制はすべて明治時代に始まった」「教育勅語の始めの部分など『何だと、ふざけるな』と言いたくなる」


 続いて、孟子は革命思想であるから日本では孟子が疎まれたのではないかと考察し、明治維新では「奇妙な天皇の概念を作って国民に強制した」「そんな維新などない方がよかった」と言う。


 過激だなあ。さらにこうだ。


「〔一九五九年頃〕東大の教養学部の数学教室で、二十代から五十代の数学教師達数人が天皇制はいつまで続くだろうかと議論していた。いつまでも続けばよいと思っている者はひとりもいなかった」


 共産党に読ませてやりたい。でも、共産党は産経新聞が嫌いだ。いや、待てよ、産経の中に工作員が入っていて、丸山真男批判を隠れ蓑に過激な反天皇制論を…って、これじゃ陰謀論か。ともあれ天才数学者志村五郎は興味深かった。


●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。


※週刊ポスト2019年6月7日号

NEWSポストセブン

「共産党」をもっと詳しく

「共産党」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ